21話 鬼族の里へ!
結局集めたのは私を含めて八人だけ。
この町の事は少し心配だけれど、結界もあるしは大丈夫だろう。
「ギニン、留守を頼むよ」
皆彼の名前を忘れがちだけど、ギニンは村長ね。
「はっ! この命に変えても!」
切腹し始めなくて私は一安心だよギニンくん。
鬼族の里へは、本当に気が進まなかったけれど、エルフの三人には事情を話して来てもらうことにした。
きっとかなり危険な旅になる。それでも、彼女達は快諾してくれた。
どう転んでも彼女達の癒しの力は必須だし、もしかしたら戦況を変えるほど影響を与えるかもしれない。
「わがままに付き合ってくれてありがとう」
そう言うと彼女は優しく微笑んで、
「ふふ、主の頼みを無下には出来ませんわ」
「ミューラ……」
主になった覚えはないけど、この際よしとしよう。ラッキーラッキー!!
「ボス、連れて来たぜ! こいつらがうちの精鋭だ」
「おいらはまぁ、当然精鋭っすよねぇ……へへへ」
なんてドヤ顔してるゴキチは、事の大きさがわかっているのだろうか。
ミューラ達がいるから即死しなきゃ大抵の傷は治るけど……うーん、やっぱり心配になってきた。
「やっと俺たちの出番だなガガ!」
「ギギ、なんでそんな嬉しそうなのさ……」
この子らはギギとガガ。瓜二つの双子だけど、ギギは目が赤く、ガガは青い。なんとも分かりやすい特徴を授けてくれたものだ。
彼らはまだ少し幼いけれどギギの方は五感がより優れていて身体能力が異常なレベルだ。
獣化とか始祖化がないぶんレックスと比べるとまだまだだけど、この子はいつかその域に足を踏み入れるだろう。
反面、ガガは戦闘力こそ並だけど、優れた頭脳と並外れた危機察知能力がある。直感とか本能とか、そういう類が発達しているのかな。
明らかに指揮官向きだから、この子と他の数名はずっと別カリキュラムを受けさせていた。
レックス、ゴキチ、ギギの三人をきっと上手く扱ってくれると思う。
しかし、この子らは能力は高くても実戦経験が乏しい。ましてやほとんど戦争に参加しにくようなもの……そういう意味では初陣になるのかな。
これまで嫌と言うほど見てきた。将来有望な若手が初陣で命を散らすのを。
だからそうならないように伝えられる事は伝えておこうと思う。
「ガガ、ギギ、くれぐれも油断や過信しちゃいけない。おいゴキチ、お前もだよ」
「あでっ! ちょ、おいらだけ扱いが雑っすよエイラ様!」
「うるさいなぁ……君たちが心配だから言ってるんだよ」
過信の方はまだましだ。少なくとも調子に乗って動けるから。
一番厄介なのは戦場の空気に呑まれること。初陣の死亡率の高さは萎縮にある。
「いいかい。君たちが想像するより、あの場所ではずっと命が軽くなる。連れていっておいてこんな事言うのは変だけど、死なない事を最優先にして欲しい。レックス、君もね」
もう何度も見てきたよ。次々仲間が斃れる姿を。呆気ないんだ。
ドラマチックな展開なんてない。瞬き一つ、呼吸一つしたらもう仲間が死んでる。
交わす言葉も、紡ぐ想いもない。呆気なく、一つの命が潰える。
戦場はそういう場所だ。
「ああ、わかってら。俺ァ何度か掃討戦に加わってっからよ。こいつらの事は俺が面倒みッから、ボスは好きにしていいぜ」
「そう……レックスはあれを経験してるんだね」
ライオネルは随分準備がいいな。いくら族長の息子で才があっても、数年前の掃討戦はレックスを連れてくにはまだ幼さすぎる。
それにライオネルは気性が荒いところもあるけど、慎重な男だ。考え無しにレックスを連れてくとは思えない。
単純に自分が守れるから経験として? それとも──いや、今はいいか。
「それじゃこれを渡しておくから、もし私とはぐれて……危なくなったら必ず使って」
こんなこともあろうかと幾つか作っておいて良かった。
「んだァこれ」
「お手製の転移結晶の核さ。魔力を流せば、周囲の欠片持ちと一緒にここへ戻ってこられるよ」
ゴキチとガガギギにはそれぞれ欠片を渡した。はぐれた際の撤退の判断はレックスが上手くやってくれるだろう。
因みにこれを作るのはめちゃくちゃ大変だった。純度と硬度が高く、魔力が馴染みやすい魔結晶なんてそうそうない。
それを探しても何度か失敗してダメにしてしまったしね。
別の結晶をミューラにも。即死しない限り、この子達ならきっと生き抜いてくれるはずだ。
「あれ? レックス、そういえばジューザは連れてこなかったの?」
ふと見慣れた顔が居ないことに気が付いた。
ジューザはかなりの武闘派でそこそこ頭もキレる。精鋭という言葉がぴったりな男のはずだけど……
「あー……連れて来てもよかったンだけどよ……まぁ、その、なんだ。あいつまで連れて来ちまうとここの面倒見るヤツがいなくなンだろ?」
「大丈夫だとは思うけど、一理あるね」
結界があるからそう簡単に攻め込まれはしない。しかし、念には念を、ということか。
確かに獅子族はジューザが、ゴブリンは村長だったギニンがいればよほどの事がない限り大混乱することはないだろう。
レックスは案外視野が広いんだなぁ。
とか何とか言ってる暇も無さそうだし、そろそろ参加しにいかないとね。戦争に。
「さて、それじゃあ皆準備はいい?」
そう言うとゴキチがケタケタ笑いながら、
「ぷくく、まだ村から出てもないっすよ。気が早すぎっすよ」
本当に一回殴りたいこいつ。
「はぁ……だからだよ。鬼族の里まで呑気に歩くつもりはないよ」
「エイラ様、それはどういう……?」
薔薇丸くんも従者も、レックスらでさえもきょとんとした顔をしている。
全く、皆私がそれなりの魔法使いだって忘れてない?
「転移するよ。座標は特定してあるし、多少疲れるけどそんな悠長なこと言ってる場合じゃなさそうだしね」
「かぁ!かぁ!」
まるで俺も連れてけ!と言わんばかりにさっきまでほっつき飛んでいてくろすけが肩で騒ぎ出した。
全然置いてくつもりだったよ……
「えぇ、くろすけも来るの? 死ぬよ? 焼き鳥にへぶぅ」
翼でビンタされてしまった。
「その……失礼かもしれませんが、集団転移なんて可能なんでしょうか」
恐る恐る従者くんが口を開いた。まぁ気持ちはわかる。私も転移魔法自体あまりしないし、集団転移は難易度が高い。
でも有事の避難目的で、この町の住人全員を転移させる準備はしていたから特に問題はない。
「並の魔法使いなら無理だね。全員肉塊になっておしまい」
ふふ、私は並じゃないからね。
「さてと、それじゃあ行こうか。向こうの状況が分からない以上、転移直後に戦闘になるかもしれない」
「おう」
「き、緊張してきたっす……!」
「へへ、一緒にひと暴れするぜギギ!」
「ガガ、突っ走っちゃダメだよ」
うんうん、ゴキチ以外みんないい顔をしてる。
「あまり柄じゃないけど、長として一つだけ命令させてもらうよ。全員命を最優先してね。生きてさえいればミューラ達が治してくれる。負担は大きいけど、頼りにしてるよミューラ、セシル、アロエ」
「はい、お任せくださいエイラ様」
「やっと私達もお役に立てます」
「うぅ、ちょっと怖いですぅ」
アロエは怖がってるけど無理もないか。まだ彼女はエルフとしては若いから。
「転移魔法発動――目標、鬼族の里」
魔法を発動させると私達を緑色の光が包み始めた。
「エイラ様、どうかご武運を……!」
「うん、ありがとうギニン」
その言葉を最後に私達は町から姿を消した。




