20話 嘘
カイジン達を受け入れて気が付けばもう半年近く経つ。
正直みすぼらしかった村は、今や小さいながら立派町と言えるレベルに発展した。
カイジンを始めとするドワーフらの建築技術はやはり一級品だ。
数も増えたゴブリンの中で手先が器用な者達も弟子入りし、そのおかげでものすごい速度で発展していった。
また、ミューラ達エルフの治癒魔法があるお陰で、過激な戦闘訓練も心配なく行えている。
今の所、やっぱりレックスの戦闘力が頭一つ二つ抜けている。
訓練で中々驚いたのはゴキチだ。きっとセンスもあったんだろうけど、レックスのしごきが効いているのか、あのクソバカゴブリンが同種の中でダントツの戦力を保持している。
それは上位存在のホブゴブリンも含めての話だ。
かなり調子に乗って「皆まだまだっすねぇ」とか冷笑してたので、私がボコボコにしてあげた。
しかし、ゴキチはまだまだレックスや私の足元にも及ばないけれど、そこら辺のハイオーク位ならギリギリ倒せるんじゃないだろうか。
まぁそんなこんなでこの町は多方面で発展を遂げたんだ。
ただ残念な事に、いい事ばかりがあった訳じゃない。というか、今現在面倒事に直面しているというのが正しいか。
「それで、天下の鬼族様がこんな弱小勢力になんの用なの?」
今私の前で深く頭を下げている三人は、魔族の中でもエリート組に分類される鬼族だ。
しかも上位存在である鬼人。
通常の鬼族は赤い肌の巨体だけど、彼ら鬼人は文字通り人に近い見た目をしている。角があるかないか、パッと見だとそれくらいの差かな。
私が聞くと、白髪ツリ目の鬼人は顔を上げ少し気まずそうに口を開いた。
「はい、その前にエイラ様にご挨拶申し上げます。私は僭越ながら鬼族若頭を任されています薔薇丸と申します」
ほうほう、薔薇丸くんは中々に礼儀がなっている。私なんかとは大違いだ。
「薔薇丸、てめぇが頭下げるなんざよっぽどだなァ」
隣でふんぞり返っているレックスは口調こそあまりよろしくはないけれど、目は真剣だった。
彼らは歳も立場も似たようなものなので面識があるらしい。
「もう……エイラ様しかあてがないんだ。酒呑童子様とライオネル様だけじゃない。各族長全て行方をくらましているんだからな」
苦虫を噛み潰したような顔で薔薇丸くんが言うと、レックスの耳がピクリと動いた。
「……どういう事だヨ」
「さぁな。俺にもよく分からないが、ベルゼビュート様と関係があるのかもしれない……」
詳しくは分からないけど、どうやらライオネルが消えたのは偶然なんかじゃないらしい。
しかし驚いたなぁ。族長達がこぞって姿を消すなんて尋常じゃない。
彼らは一騎当千の猛者だし、小国くらいなら下手すると単騎で滅ぼせる力を持っている。
そんな規格外達が同時に、ねぇ。
ベル、あなたがいなくなってから全部めちゃくちゃだよ。
なんて、愚痴ってみたり。
「本題に戻しますが、恥ずかしながらモンスター……いや、正体不明の軍勢に里が襲われてしまい、里は壊滅的被害を受けております。どうかエイラ様のお力をかしてはいただけないでしょうか」
率直な印象だけで答えると、正気じゃない。
鬼族こそ少ないけど、個々の戦力が非常に高い。
族長である酒呑童子がいないとはいえ、鬼族がこうして頭を下げているということは、敵はとんでもない連中という事になる。
この町でそんな奴ら相手にまともに戦えるとなると、私とかろうじてレックス位のものだろう。
あとはミューラ達に支援を頼むしか……いやいや、なにお手伝いする前提で考えてるんだ私!
他種族とのパイプは目的の一つではあるけど、ことはそう単純じゃない。
しっかり話を聞いて見極めないと……
「うーん、まず正体不明っていうのはどういう事? 君も戦ったんでしょ?」
「近しい印象を受けたのは死霊族です。しかし、彼らとは本質が違うような……強いていうなら多種多様な不死の軍勢ですかね」
死霊族に近しいけれど、彼らではない。
多種多様な不死の軍勢。
心当たりがないでもない。でも……それは絶対にありえない。ありえっこないもん。
「……屍人」
気が付いたら口に出していた。そんな事あるはずないって思っているのにどうしても思考が寄ってしまう。
「 エイラ様、何か心当たりがあるのですか……?」
「薔薇丸くん、君の言う不死の軍勢って影ようなものじゃない?」
恐る恐る口にすると、薔薇丸くんと他2人は目を見開いて驚愕した。
どうやらビンゴらしい。
「何故それを!?」
「たった一人いたんだよ。死者の魂を呼び戻し、自身の手足に出来るような怪物がさ」
いたんだ。少し前までは。
でももういなくなっちゃったんだよ。
その力の存在を知っているのは極小数。その人はその力を嫌ってたから。
戦時中でさえ死んでまで戦わせたくないって、せめて安らかに眠っていて欲しいって、そんな甘っちょろことばっかり言うんだ。
それに、不死の軍勢なんかに頼らなくたってあなたは誰よりも強かったもんね。
ベル、本当にあなたなの?
生きていてくれてたの?
どうして私を置いていったの?
わからないよ。全部わからない。
「エイラ様……?」
薔薇丸くんの呼びかけでふと我に返った。同時に視界がぼやけているのに気が付いた。
「えっ、ああごめん。話はわかったけど、私の知る相手なら私程度じゃどうにもならないよ」
あなたが何を思って鬼族を攻めたのか分からないけれど、本当にそうなら話がしたい。聞きたいことが沢山あるの。
確かめなきゃいけないけど、戦闘になったら敗色濃厚。万に一つくらいしか勝ち目がない。寧ろ万に一つあればいい方か。
それは私達だけじゃなく、魔族の全勢力で戦っても同じだ。
「おいおい、ボスでも歯が立たねェってどんなバケモンだよ……」
「エイラ様、相手は何者なのですか……?」
レックスはげんなりひた表情でボヤき、薔薇丸くんは生唾を飲み込み真剣な眼差しで聞いてきた。
言ってもいいのかな。
魔王ベルゼビュートが生きてて、仲間を殺してるなんてそんな事言えないよ。
「ごめんね、確証がないから今はまだ言えない。だから確かめに行くよ。私も、直接ね」
そう言うと薔薇丸くんと従者はバッと頭を下げ、
「ありがとうございます。エイラ様、仲間を……どうか救ってください……!!」
仲間の為に躊躇いなく頭を下げるか。薔薇丸くんは不要なプライドなんてとっくに捨ててるんだ。この子はきっといい族長になる。
「出来ることはしてみるよ。じゃあ、そうと決まればすぐにでも行こう。レックス、獅子族の精鋭と……ゴキチも呼んできて」
「了解だボス! 薔薇丸、てめェもシャキっとしやがれ」
けけけ、と笑いながらそう言うレックスは何だかんだ嬉しそう。
「すまないレックス、恩に着る……!」
「ばっか言え、んなもん着なくていい」
薔薇丸くんの尻を蹴っ飛ばし、レックスは照れくさそうに言った。レックスは素直じゃないんだねぇ。
それにしても微笑ましい。これが友情ってやつかなぁ。




