18話 彼の見た夢の縮図
「エイラ様、この者達です」
ゴブザは野太い声で右の方に目をやった。それを辿ると、警備ゴブリンに囲われたドワーフが五人、エルフが三人。
争った形跡はなさそうだけど、彼らは既にボロボロだった。
ドワーフはともかく、エルフは私を見るなり目を開いた。
エルフは本家で、ダークエルフである私はエルフからすると分家ような存在だからだ。
実際は進化の過程で変異しただけなんだけど、大元がエルフである事は間違いない。
特別仲が悪いということもないけれど、何をきっかけにしてか長い間エルフは人と、ダークエルフは魔と歩んできた。
私たちは同族だけど、親しい間柄ではない。
ま、私からすると知ったこっちゃないけどね。
「ありがとうゴブザ。さて、私は一応? この先の村の代表をしているエイラというものだ。人と共に生きる君達が魔の地に一体なんの用かな?」
威圧する必要はない。彼らは部を弁えている。
ドワーフもエルフも一同に頭を下げた。そして髭もじゃ(皆そうだけど)のドワーフが一歩前に出て、膝を突くと、他のドワーフもそれにならった。
「エイラ殿、誠に勝手ながら我らが村に滞在する許可が欲しい。少しの間だけでいいのだ。心身を休める場所を……この通りだ」
それに続き一際美貌が目立つエルフもまた、隣で膝を突き、結果的に全員が私に膝まづいている状況になった。
うふふ、ちょっとした優越感を得ているよ。
「魔と共に歩む同族の長、エイラ様。我らエルフとドワーフは人の地を追われ逃げ延びました。必ずや村の役に立つと誓いますので、どうか慈悲を」
わお、プライドの高いエルフまでこうもへりくだるなんてびっくりだね。
しかし、人から追われるなんて酷い話だな。ドワーフもエルフも人間に大きく貢献してきた種族なのに。
皆を殺しまくってベルを奪って、挙句の果てに亜人まで手に掛けるのか。
全く、人間は随分傲慢な種族だ。反吐が出る。
本当に、なんで人間なんかの為にベルが……
ああ、違う違う。今は彼らの話だった。
「役に立つって、君らは具体的に私達に何をもたらしてくれるの?」
正直なところ、手放しで喜びたい提案だ。ドワーフが居ればまともな家が造れるし、その他建造物も武具の問題も一気に解決する。
エルフがいれば無病息災とまではいかないけれど、大抵の傷は治せるし、魔法関連は丸投げしたっていい。
それに、エルフは格の高い種族だから今後他種族との絡みには大いに貢献してくれるだろう。
デメリットなんてほとんどない。
ただ、それを彼らの口から言ってもらわないと後々ギャーギャー言われかねない。そんな事はしないと思うけどね。
「ワシらドワーフは、村全体の強化を約束しよう。建築、武器の生成、その他細かい事は任せてくれ」
髭もじゃはニカッと笑い自信満々に答えた。
「私達エルフは癒しと知識を、それから村に守護結界を張り治安維持に努めます」
優雅に一礼し彼女は鈴のような声で言った。
結界まで担当してくれるのは非常に有難い。諸々の警戒をしなくて済む。
うーーーん、中々素晴らしいんじゃない?
これ以上求めるのは野暮ったいし、彼らのお気持ち表明も上々。まぁ言わなかったとしても受け入れるつもりではあったけどね。
「わかった。人と魔では勝手が違うから戸惑うかもしれないけど、これからよろしくね」
「エイラ殿、恩に着る……! 申し遅れた、ワシはカイジンだ。これからよろしく頼む」
「ありがとうございます。私はミューラと申します」
「うん、皆よろしくね」
こうして急ではあるけれど、私達の村に必要不可欠な人材がやってきた。
「……僥倖、というやつだねぇ」
それから私は皆を村へと案内した。歩いていくにはそこそこ距離があったけれど、交流を深めるには丁度いい時間だったかもしれない。
「さて、突然ではあるけど、今日からこの村の仲間になった者たちを紹介するよ。種族は見ての通りドワーフとエルフだ。今日まで関わったことのない種族だと思うけど、深く気にする事はないよ。それじゃ軽く自己紹介お願い出来る?」
数十の目が一気に彼らに向き、ザワつき始める。動揺というか、驚くのも無理はない。
人の地の種族と交流する機会なんて滅多にないしね。弱小種族のゴブリンや攻撃的な獅子族は特にそうかもしれない。
「紹介の通り今日から世話になるカイジンと申す。建築や鋳造は任せてくれ」
カイジンがニカッと笑いそう言うと、他のものも続いた。
「ドンじゃ」
「ゴンです」
「……ザギン」
「デンガンだ」
と、濁点とンがつく名前がドワーフ流らしい。
ちっさい髭もじゃ筋肉だるまなのもドワーフの特徴なのかな。
「私はミューラです。皆様の傷を癒しますので、どうかよろしくお願いいたします」
それに続いて後ろのセシルとアロエも名乗り、優雅に一礼をした。
なんていうか、彼女達エルフは存在が上品だ。私が同じように一礼しても、こういう印象は受けないだろう。
あとなんでダークエルフの私はこんななのに、彼女達エルフは三人揃ってスタイル抜群なんだろう。高い背丈、白く細長い手足、そして……
「ぐぬぬぬ」
いいもん。私だってもう百年くらいすれば育つもん!
なんて思っているとレックスが一歩前に出て、
「俺ァ獅子族筆頭のレックスだ。うちのボスが決めたンなら文句は言わねェが……もし、もしもてめぇらが仲間を人間に売ったら……そん時ゃ一人残らす俺が八つ裂きにしてやっからな。覚えとけ」
なんで凄んではいるけどさ。素直じゃないなあって思うよ。
「でもレックス、尻尾ぴーんてなってるよ」
指摘すると周囲の目は一斉にレックスの尻尾に集まる。
獅子族は嬉しい時や幸せを感じると尻尾が垂直になる傾向がある。
つまり、レックスは新しい仲間が出来たことを喜んでるってことなんだよね。
そんな獅子族の豆知識を言われたレックスは、顔を真っ赤にさせ、視線が定まらずにおよぎまくっている。
「ばっ、おまっ……!! わっけ分かんねぇ事言ってンじゃねェ!」
「お師匠、尻尾がぴーんってなってるとなんかあるんすか? おいらに修行つけてくれる時、大抵ぴーんってなってるから気になってたんすよね」
と、ゴキチからレックスへのキラーパス。知識のある獅子族やエルフ達は暖かい眼差しでレックスを見ていた。
「いいかいゴキチ。獅子族は嬉しい時に尻尾がぴーんって――」
「よ、余計な事言ってんじゃねェ! あーくそ、俺ァ狩りに行くぜ! ゴキチ、てめぇもついてこいっ」
「は、はいっす!」
シャイボーイレックス君はそう言うなり、逃げるようにこの場を離れ、狩り(笑)に出てしまった。
ちなみに、今しがたその狩りとやらから戻ってきたばかりなのは言わないであげようかな。
その後、仲を深める為なのかなんなのか、誰かが宴だ!とか言い出すと周りも乗り気になり、この間したばかりの宴が催された。
いやほんと、このペースでする事じゃないと思うんだよね。
結局流れで始まった宴の中、皆笑顔でドワーフとエルフと打ち解けてくれていた。彼らも楽しそうでなによりだ。
酒は獅子族持参の癖のあるものだけど、多分この勢いだと今日底が尽きるんじゃないだろうか。
そして、酒に酔ったカイジンらドワーフが全裸で踊り出すのは出来ればやめて欲しいところだ。他のゴブリンや獅子族も何人かそれに乗っちゃってるし……
宴の度に脱がれたらたまったもんじゃないよこっちは。
「はぁ……でも今日くらいは勘弁してあげようかな」
私含め五つの種族が笑いあってる。今ここには、争いなんて無縁で、もしかするとこれはベルが望んだ世界の縮図みたいになってるのかな。
ねぇベル、あなたにもこの景色を見せてあげたかったわ。
「違うかぁ。本当はあなたと見たかったんだけどなぁ」
ボソリと呟き、私はあまり美味しくもない度数が高いだけの雑酒を口に運んだ。




