17話 エイラ様様
「ゴキチ、暑い」
「は、はいっす!」
私の一言でゴキチは大きい葉を仰ぎ風を送ってくれる。
「ゴキチ、肩凝っちゃった」
「おまかせくださいっす!」
うんうん、丁度いい力加減だ。さすがはゴキチ。
「ゴキチ、喉乾いた」
「も〜! エイラ様だらけ過ぎっすよぉ」
ついに不平を漏らしたゴキチは、それでもなんやかんや水を持ってきてくれた。
「だって座って見てるだけでつまんないもん」
ああ、ちなみにゴキチと言うのはゴブ吉君の事。レックスに弟子入りしたけど、レックスがゴキチって呼んでたから、私もそう呼んでいる。
最初は一々訂正されたけれど、面倒だから改名させてやった。
だからもう、この子は正式にゴキチだ。
そんなゴキチと下僕ごっこをしているには訳がある。いや、大層な訳ではないんだけど。
獅子族とゴブリン族が同盟を組み、知らない内にボスになってしまってから数日。
私はイヤイヤ引き受けながらま、その権限で一先ず住居等の生活インフラの向上を優先する事にした。
ゴブリンには悪いけど、ボロ小屋で寝泊まりしたくないし、獅子族も大いに賛成してくれた。
ただ、獅子族も獅子族で建築技術はたかが知れていた。小屋よりはマシになったけれど、正直微妙。
柱を一本立て、その周りに枝葉を組んだだけだもの。
それを今量産していて、私はただ見ているだけ。一応私の名誉の為に言っておくけど、これまでに村の長として最低限の事はしたつもりだ。
まず他種族が共に暮らす上でのルールを設けた。複雑すぎても不満が出るしややこしくなるだけなので、とりあえずはシンプルに三つ。
一つ、仲間内で傷付け合わない事
二つ、他種族を尊重する事
三つ、裏切らない事
仲間内で争わないのは当然。これを守ってもらわないと前の魔族みたいに弱肉強食になってしまう。
あとは他者を尊重して、仲間を裏切らなければ最低限の治安は維持できると思う。
違反者への処罰とかも考えてはいるけれど、公表するのはもう少しまとまってからでもいいかな。
最低限ルールを設けたあとは役割分担だ。やる事が山積みな上に、色々と不足しているものが多い。
優先順位をしっかりつけて、少しずつこの村を発展させればいい。
獅子族は二十居るうち、三つに班分けをした。
まずは、レックスをリーダーとした五名で組んだ狩猟班。
レックスは任命すると「おう、任せなボス!」と張り切ってくれるのはいいが、なんか変な方向に進んでいる気がした。
次に一番大柄なゼンガ率いる資材班。こちらは住居や設備の資材集めが主だ。木材、石材、草花に土やらなんやら、とにかく使えそうなもの全般だ。
最後に建築班。建築と言うほど立派な知識を誰一人持っていない。多少の知識なら私はあるけれど、細かいところが分からないし、やったこともないので下手に助言するよりも、彼ら獅子族伝統の家の方がいいと判断した。
そして五十程いるゴブリン達には別の役割を与えた。
警備隊として十。農業組と採取組にそれぞれ十。
数人のホブゴブリンは警備隊に配属して、ゴキチは私の秘書(下僕)としてこき使う予定だ。とはいえ、基本自由にしていいと言ったので本人は「師匠と一緒に狩りにでるっす!」と、日々張り切っている。
クソ雑魚だから狩猟班の足を引っ張らないといいけど……
村長のギニンには管理職的立ち位置を与えた。レックスにも同等の権利を与えたけど、多分あまり適性はないと思う。
残りのゴブリン達は足りない所の補助で臨機応変に動いてもらう予定。
私? まぁほら、ボスって色々忙しいんだよね。へへ。
何日かあと、空からくろすけと一緒に改めて村を見渡すと、初期とは見違えるくらい発展していた。
「うん、ぼちぼち進んできたね」
「かぁー」
環境整備を整え初めて数日で小汚い小屋だけだった村に、とりあえず住居と呼べる代物がちらほら出来始めた。
小規模ながらも畑もあり、近くにあった小川から水を引くこともでき、それなりに環境は整いつつあった。
食事は肉類と、木の実、あとは……ゴブリンしか食べてないけど芋虫みたいなキモイやつ。
数日にしてはそこそこいい結果なのではないだろうか。
本来ならこのままは私は退場して、他の種族を捜しに行きたい所なんだけど……
「へへ、もう少しだらだらしてたっていいよねぇ」
案外このダラケた生活を可能にする地位が気に入ってたりする。
ふふふ、ベルの側近やってる時も大抵は食っちゃ寝してばっかりだったな。そうそう、私はこう言うのが好きなんだよ。
だらけきった日常……素晴らしいぜ。
いやいや、でもちゃんとベルとの約束は果たすよ。ただ、レックスも他種族の行方は分からないらしいから、ちょっとした休憩ってやつ。
ほ、本当だとも。
なんて自問自答をしていると、下でゴキチが私を呼んでいるのに気が付いた。
「エイラ様ぁ〜! どこにいるっすかぁ〜!」
キョロキョロ辺りを見回している。
くくく、馬鹿め。そんな所を捜したって見つからないよ。
しかし珍しいな、ゴキチが私に用なんて。
大抵私が雑用を頼んでいるだけで、それが終わるとレックスにくっついているのに。
まぁもうしばらくゴキチの間抜け姿を眺めているとしよう。
「ね、くろすけ」
「かぁ」
とか何とか、思ってたんだけど、場所がわかっていないだけで、私が見ているのに気がついてるのかな?
ゴキチよ、私が鍋の中にいると思う? いないよ?
土にも埋まってないし、ゴキチのパンツの中なんて居るわけないだろ。なんなんだこいつ。
なんでパンツ覗きながら私の名前呼んでんの?
「くろすけ、うんち出そう?」
「かぁー!」
「よしよし、ゴキチの顔にかけていいからね」
そう言うとくろすけはバサバサと羽ばたき、ゴキチの頭上に飛んで行った。
その後二、三頭上を周り、狙いを定めると、
「――甘いっすねぇ」
生意気にも避けやがった。
「想定内だよ」
最近少し強くなりつつあるゴキチに当たらないのは想定している。だからうんちを魔法で操作して、そのまま顔を擦り付けてやった。
「ぶびゃぁっ!!」
「まだまだだねゴキチ」
下に降りて、さすがに可哀想だから水魔法で洗ってあげた。
「酷いっすよぉ……って、そんな事よりゴブザから報告っす!」
「ゴブザから?」
ゴブザは警備隊長のホブゴブリンだ。今日は確か森の外まで警備範囲を広げるとか言ってたっけ。
ゴキチはまだ少し顔にこびりついたうんちを拭いながら、
「なんでも少し離れた所でドワーフとエルフの集団と出くわしたらしいっす!」
「エルフにドワーフ?」
遠くで妙な魔力を感じると思っていたけど、彼らだったのか。
しかし、驚いたなぁ。彼らは随分前から人間領で良い関係を築き、共生していたはずだ。
稀に魔族領に来る事はあるけれど、それはドワーフが打つ武具の素材集めとか、そんな時だけだ。
エルフとドワーフが集団でこっちに来るなんて聞いたこともない。
「そうっす! 皆を集めた方がいいっすかね」
「いや、いいよ。レックス達が居ないなら私が直接行った方がいい。皆にはいつも通り動いてもらって、特に警戒はいらないよ。たまには私も仕事しないとね」
サボりすぎるといつかブーブー言われかねない。
「えっ、でもエイ――」
とゴキチが何か言いかけた所で、私は転移魔法を使った。
私が滅多に使わない転移魔法まで使ったのにはちゃんと理由がある。
まず、警備隊の安否確認。彼らがその気ならゴブリン達なんて瞬殺だ。
そして彼らの行動の真意を聞くこと。
少なくとも数百年間なかった行動を取るなんて、異常としか言えないからね。
敵なら殲滅すればいい。そうでないなら話をしよう。
あー……出来ればドワーフにちゃんとした家を造って貰って、炊事場に、大浴場に、武具やらなんやら……エルフにも畑に野菜を与えて貰って、水を清めて美味しく清潔に……なんて思ってないもん。




