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怠惰な私の建国奇譚  作者: 吉良千尋


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16話 荒れる王国



____________勇者side


 魔王城から西へ歩き続け十日程。

 魔族領についてからはずっと野営生活をしている。そのおかげか最近じゃどこでも寝れるようになってきたし、野営の準備もお手のもんだ。


 慣れてしまったのであまり不自由は感じないけれど、強いて言うなら湯船に浸かれないのと、髭の処理に手間がかかるくらいだ。

 剣で剃っているが、基本的にずっとジョリジョリしている。


 焚き火の周りでうずくまっていると、体中にある細かな傷がより一層熱を感じ取っているのに気がついた。


「はぁ……次の村でも話は聞いて貰えなさそうだなぁ」


 あれは先日、猫族の村に立ち寄った時の事だ。


 猫族は僕を見るなり怒り狂い、襲いかかってきた。


 当然だ。僕は魔王ベルゼビュートを殺したとされている勇者なのだから。

 どうにか話を聞いてもらおうとしたけれど、そんなに上手くいく訳もなく、結局逃げるようにそこを去った。


 驚いたのは若い猫族の女の子が魔法を駆使していた事。確か獣牙種のほとんどは魔法が使えないはずなのに、彼女はまるで違かった。

 元々高い身体能力に加え、身体強化をし、更に属性付与した攻撃は厄介極まりなく、僕の傷の大半は彼女がつけたものだ。


 やりようはあったけれど、戦う訳にはいかない。僕は殺されても文句を言えない立場だから。


「死ななかっただけまだマシかなぁ」


 この程度で赦されるはずがない。幹部に会ったらそれこそ命はないかもしれない。

 ベルゼビュートとの約束を果たしたあとなら、この命を差し出したって構わないけど、それまでは絶対に死ねない。


 念の為、王国への転移結晶を勝手に拝借してきた。転移魔法なんて古代魔法に分類されているし、カミラですら使えない。なので予め王国に転移魔法陣を設置し、魔法陣と転移結晶に膨大な魔力を注ぎ込みリンクさせれば一度限りの転移が可能という訳だ。


 因みに勝手に拝借してきたので、バレたら重罪だ。

 勇者が犯罪者だなんて……はは、なんだかなぁ。


 なんて思っていると、視界の奥の方に小さな砂煙が上がっているのが見えた。


「なんだ?」


 ボケっとしながらそこを見ていると、こちらに近付いているではないか。

 それに伴い、何か色とりどりの光のようなものが見えた。魔法だ。


「……何かと戦っている……というより、逃げているのか? なら、助けに行かないと!」


 直ぐに立ち上がり、砂煙の方に走った。

 正直に言うと僕には醜い下心があった。逃げているのが魔族なら、彼らを救えば少しは話を聞いてくれるんじゃないかって下心が。


 純粋に助けようとしている訳じゃない。こんな時にも打算的な思考をする自分に嫌気がさす。


 しかし、そんな下心が意味をなさないとわかるまでに、大した時間は要さなかった。


「あれは、ドワーフ……! それに、エルフまで」


 エルフもドワーフも人間領にいるの亜人だ。間違っても魔族領に来るような種族じゃない。


 そして彼らを襲っているのは、どうやら魔族ではないらしい。


「ワイバーンか」


 ワイバーンは竜種のモンスターで、性格は凶暴。捕食対象を定めると仕留めるまで追いかけてくる面倒なモンスターだ。


 相手か魔族じゃないのが不幸中の幸いだな。


「皆さんこっちへ! あれは僕が引き受ける」


「勇者か……! す、すまない、恩に着る!」


「助かります!お気をつけて」


 すれ違ったドワーフやエルフ達の姿は痩せこけ、酷い有様だった。生傷も多く、ワイバーンにやられた訳じゃなさそうだ。


 しかし、今は一先ず相手に集中しよう。


 ワイバーンが既に吐き出した火の玉を切り裂き、抜刀と同時に右翼が切断。

 ワイバーンは激痛に叫び、そのまま地に落ちていく。


 立ち上がろうとよろめきながらも、怒りの眼は僕をしっかり捉えている。咆哮を上げ、再び火の玉を吐こうとするが――


「少し遅かったね」


 瞬間的に距離を詰め、がら空きのクビを刎ねる。

 ワイバーンは断末魔を上げる代わりに血飛沫を散らした。


 いかに竜種といえど、一体ならさほど苦戦はしない。一応こんなんでも僕は勇者だから。


 ドワーフや、エルフ達は一先ず驚異が去ったのを見て胸を撫で下ろしていた。

 本来なら彼らでもワイバーン程度は倒せるはずだ。顔色も悪く全身傷だらけなのが、それを出来なかった理由なのかな。


「さてと……何があったか聞かせてくれるかい?」


 そう言うと先頭にいたドワーフは悔しそうな表情で口を開いた――






「なんて事を……アレクセイ王は正気なのか」


 一通り話を聞くと僕は自然と呟いていた。

 特に親しい訳ではないけれど、魔王討伐の任を受けてから何度か話している。

 その中で少し冷徹な発言もあったが、ここまで愚かな事をする人だとは思えない。


「正気なはずがねぇ。魔王がしんだっちゅうに、アレクセイの奴はワシら亜人も魔族と見なしたんだからな」


 僕が旅に出て少しした頃、アレクセイ王は彼の言う通り亜人を魔族と認定し、迫害し始めたらしい。

 奴隷として生き残る他なく、しばらくは耐えていたもののやがてそれすら禁止され、全員牢獄で処刑を待つ日々を送っていたとの事。


 にわかには信じられないが、彼らの身なりをみるに嘘とも思えない。というより、嘘をつく理由がない。


 運良く逃げ出したはいいものの、亜人達はバラけ、他の仲間が無事なのか、どこにいるのかもわかっていない。


「アレクセイ王は何故そんな愚かなことを……ドワーフもエルフも、人間と共に過ごしてきたと言うのに……」


 彼らの協力あってこその国だ。ドワーフは高い建築技術を駆使し建造物を建て、他にも物作りを担い、エルフは魔法の知識を授けてくれた。


 そんな彼らを迫害してまで一体何をしようと言うんだ。


「さぁな。気でも狂ったんじゃないか? しかし、お前さんが魔族領にいるのは奴らにとっちゃ幸運かもしれんな」


 彼はため息をつくと意味深な発言をした。


「奴ら?」


「お前さんの仲間たちだよ。剣聖に賢者に、神官か。みーんな、奴隷制反対して捕らえられちょる。反逆罪でな」


「……は?」


 彼が何を言っているのか分からなかった。だってそうだろ? レオンもマリアもカミラも、建前上では魔王討伐の立役者だ。救世主いってもいいし、民衆はそう感じているだろう。


 それを反逆罪……?


「この状況をどうにか出来るのはお前さんただ一人だ。勇者ロベルト」


「しかし……」


 くそ、やはりベルゼビュートの言った通りになっているじゃないか! 彼が死んでも尚、人間は……僕らは止まれない。

 アレクセイ王がそこまで愚かだと、人間の強欲さをまだ分かっていなかった。


 今すぐ……いや、駄目だ。僕が今戻ると彼らは生き延びる術を失う。迫害されここまで逃げてきた彼らをまず、安全圏に……


「なにを悩んどるのか知らんが、さっさと戻って馬鹿王を殴ってこい!」


 ガハハ、と豪快に笑い、カイジンさんは僕の背中に喝を入れた。ジンジンと背中を襲う痛みは、僕を後押ししてくれているみたいだった。


「あの森に行けば少なくとも私たちエルフの力は戻ります。そうすれば彼らの回復出来きますので、心配は無用ですよ」


 エルフのミューラさんはそっと肩に手を置き、優しくそう言ってくれた。


「カイジンさん、ミューラさん、それから他の皆さん……すみません、不甲斐ない勇者で……本当に」


 出来ることなら、時間が許すのなら、彼らの安全を確保してから戻りたかった。しかし、そんな余裕はない。


 今のトチ狂った王が、これ以上国を壊す前に止めなければならない。そうじゃないと、国も、皆も、ベルゼビュートとの約束すらも何もかもが守れなくなってしまう。


「勇者様、どうか民をお救い下さい。それはきっと、あなたにしか成せない事です」


「なに、ワシらの事は気にすんな! こちとら元々森住まいの集まりじゃ!」


「ありがとう、ございます。皆さん、どうかご無事で……! 必ず吉報を届けに来ます」


 そうして僕は転移結晶を手に取り、魔力を込めた。


 頭の中で嫌な妄想ばかりが駆け巡る。同時に感じたことのない怒りまで。


 ああ、皆……どうか無事でいてくれ。


 転移結晶の光に包まれる中、最後の一瞬で見えたのはカイジンさんとミューラさんの怯えた顔だった。

 きっと僕は酷い表情をしているのかもしれない。


 仕方ない。怒りに塗れた僕の脳みそは、最悪国を――王家を滅ぼす事も視野に入れ始めているのだから。


 アレクセイ王、頼むから僕にそれをさせないでくれよ。

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