15話 なんかボスになってた
「なんと……そのような事が……すまない、本当にすまなかった獅子族の若者よ。私はなんと酷い事を……許して欲しいとはいわない。償いとしてこの命――」
「だからもういいってばそれ」
あれから魔法を解くと、レックスの始祖返りも解除されていた。レックスの心音もわかったし、本人ももう暴れるつもりはないらしく、自らゴブリン達と話したいと申し出た。
それから私が転移させた獅子族も合流し、レックスは今回の騒動の訳を話し、謝罪した所だ。
「他のゴブリン達も、悪かった。俺が私情を挟みすぎちまった」
なんか意外だな。あの生意気小僧が素直に謝罪しているなんて。
レックスは謝罪したが、ゴブリン達は完全に被害者だ。村長はともかく、他から不満が出ないとは限らない。
そんな中、ゴブ吉君はまだ少しビビりながらも一歩前に出た。
「お……おいらは、きちんとケジメをつけて欲しいっす。理由はどうあれ、おいら達皆死ぬかと思ったんすから……!」
まぁそういう意見も出るだろうとは思ってた。
レックスの言い分は分かるけど、皆が皆それを受け入れられる訳ではないから。
レックスは少ししょんぼりした顔で、
「あ、ああ。そうだよな……俺に出来ることならなんでもする。言ってみてくれ」
「な、なんでもっすかぁ?」
ゴブ吉君はそれを聞くなりニヤリと笑い、ものすごい勢いでレックスの両肩を掴み、
「じゃ、じゃあ! おいらを弟子にして欲しいっす!!!」
「……は?」
私含め、この場にいる全員がきっと同じような感想を抱いたに違いない。みんなポカンと口を開けている。
「実はこっそりエイラ様との戦いを覗いてたんすよ! なんすかあれ! 爪から斬撃飛ばしたり、変身したり! かっけぇっすよぉ!! 正直いうとおいらちょっとだけエイラ様負けないかななんて――ぶへっ」
興奮しているゴブ吉君はなんていうか、かなり失礼な事を口にした。君らから頼まれて戦ったのにさ!
やっぱりクソバカゴブリンだなこれ。
だから魔力弾をプレゼントしてあげた。
「君さ、多分いつか私に殺されると思うよ」
「大丈夫っすよ、師匠に鍛えてもらうっすから」
はははと笑うゴブ吉君を見ていると、今殺してもいいんじゃないかとすら思えてくる。
「お、おい俺ァまだ弟子をとるなんて――」
「なんでもするんすよね?」
ニヤリというか、ニチャァって表現が似合うむかつく表情で食い気味に言った。
この子自分が優位だととことん強気だなぁ。いい性格してるよほんと。
「いや、そりゃあそうだが……」
「じゃあ決まりじゃないっすか!」
「あぁくそ、わかったよ。俺に教えられる事は教えてやるよ」
「いぃぃぃやった〜!!」
もしかしたらこの二人は、なんやかんやいいコンビになるかもしれないな。
こうやって他種族が笑いっているところを見ると、改めてベルが残してくれたものの大きさに驚くな。
昔なら他種族なんて殺して当たり前だったのにな。
「ああそれと、村長、虫のいい話かもしれねェけどよ、詫びも兼ねて一つ提案があンだ」
引っつこうとするゴブ吉君を押し退け、レックスは真面目な顔つきで言った。
「俺達獅子族とこの村のゴブリン達で同盟を結べねェか」
「レックス殿、こちらとしては有難い話ですが……その……」
村長が言い淀んでいる理由は明白だ。言いにくそうだから、私が代わりに言ってあげようかな。
「レックス、種族間の正式な同盟には族長の承認がいるはずだよ」
「ああ、だから言ってんだ。今の族長は俺だからな」
なんかさらっととんでもない事を言い始めた。
「えっ、だってライオネルは? ライオネルもまだまだ現役の歳だし……まさかあの化け物が死ん――いや、それは有り得ないか」
ライオネル・エウレウス。獅子王と呼ばれ、歴代最強と名高く、獅子族が生んだバグみたいな存在だ。
というか、他種族もそうだけど、現代の族長達はなんの因果か全体的にレベルがおかしい。
私は永く生きているから、二代、三代前の族長達を知っているけど、現代の強さは異常な程だ。
ライオネルはその中でもかなり上位で、あれを殺せる生物なんて、ほとんどいないんじゃないかな。
世代交代にしては早すぎる。レックスもライオネルもまだ若いし……
「一年と少し前くらいか? 親父の奴、突然後は任したっつって消えちまったんだよ」
「はぁ?」
「だから今は俺が獅子族を纏めてんだ。つっても、親父の奴、馴染みの連中をごっそり連れてっちまったから規模は小せぇけどな」
呆れたような顔でレックスはそう言った。
ライオネルは一体何を考えてるんだろう。まぁ今のレックスなら大抵の敵は倒せるけど、それでも放置するほどか。
一年と少し前って事は、ベルが亡くなる直前くらいかな。
さすがに関係はないだろうけど、あの化け物は一体どこで何をしてるのだろう。
「まぁそんなのはどうでもいいんだ。同盟の件、どうだ?」
「私としては有難くお受けしたいですが、エイラ様、如何されますかな?」
村長だけじゃなく、他のゴブリンたちの視線が一斉に私に集まってきた。
まさか、さっき言ってた忠誠を誓うって本気だったの? 忠誠の押し売りじゃん。
「え、私? まぁ……好きにしたらいいと思うよ」
「んじゃ、同盟成立だな」
「うむ、矮小な我らを同等に扱っていただけること感謝しますぞ」
二人は互いに右手を差し出し、ここに獅子族とゴブリン族の同盟が結成した。
とはいえ、全ての獅子族とゴブリン族という訳ではない。あくまでも、彼らの管理下だけの話だ。
獅子族に関しては、レックスの話的にベルの下にいたほぼ全てって認識でもいいのかな。
その後、村長は記念に宴を開くといって、ゴブリン達に準備をさせた。
私はこっそりレックスに「ご馳走様は芋虫だから自前で調達したほうがいいよ」とアドバイスしたおいた。
レックスはそれを聞くと急いで仲間を連れて森に行き、直ぐに数種の肉を調達してきてくれた。
ふふ、これで私も芋虫を回避してお肉にありつけるというものだ。我ながら名案だ。
宴では皆で食卓を囲い、酒を飲み、他愛のない話をして親睦を深めていた。最初の方こそ双方ぎこちなかったけれど、酒の力もあってゴブ吉君なんか今じゃ肩組んで飲んでる。
こういう姿を肴にして飲むのも悪くないな。なんて、柄にもない。
私も少しだけ酔っているのかもしれない。
しばらくして、大半が酔いつぶれた後、私は背の高い木の上でまん丸なお月様をぼーっと眺めていた。
「夜風が気持ちいいね、くろすけ」
「かぁ」
ちょこんと肩に乗って一鳴きするくろすけは、ほんのちょっと酸っぱい臭いがする。こいつ、また芋虫食べたな。
それにしても今日は色々あったなぁ。ゴブリンにあって獅子族にあって、なんか戦うことになって、それが思ったより面倒な類で……
「それから、自分の醜さを痛感した」
冷静になってみると、どうかしてたと思う。
なんであんなこと思っちゃったんだろう。少しは割り切れたと思ってたのにな。
なんて思っていると、下からレックスが登って来るのが見えた。
またタイミングの悪い時にこの子は……
「よォ、こんな所にいやがったか」
「やぁレックス。夜風が気持ちいいよ」
「それじゃ俺も話ついでに夜風を堪能するぜ」
そう言うなり木の上で寝転がり、ぐいと酒を飲んだ。
「こんな所で飲んで、落ちても知らないよ」
そう言うと「ぎゃはは」とレックスが笑った。
「獅子族が木から落ちるたァ傑作だな!」
「ふふ、その傑作にぜひなって欲しいところだよ。それで、私なにか話があるんでしょ?」
そうじゃなきゃ、わざわざ木に登ってまでここに来ない。あれから敵意は感じないし、少しは距離が縮まったような気がする。
レックスは「あー」とか「うー」とかいいながら、モジモジしている。
そのうち覚悟を決めたように酒をグイグイと飲み、私の方に向き直る。
「あのよ、その、ありがとうな。お前のおかげで、なんつーかな……憑き物が取れたっつーか、肩が軽くなったっつーか……」
ああ、なんだお礼がいいたかったのか。
実際の所、私は礼を言われるような事はなにもしてない。ただお子ちゃまがお酒の力を借りて、勇気を出してくれたなら、受け取っておこうかな。
「大したことはしてないけど、力になれたなら良かったよ」
「俺にとっちゃ人生変わるレベルの話なんだけどなァ……まぁいいけどよ。んじゃ、明日から忙しくなるから俺はもう寝るぜ」
「忙しくなる?」
「ああ、色々ゴブリン達と話し合ったんだけどよ……俺達もここに住むことにした。だからお前ももう少しここにいろよ? 俺達のボスなんだからよ」
「……はぁ?」
前半も後半も、レックスは一体何を言ってるんだろう?




