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怠惰な私の建国奇譚~魔王の死後、仲間を託されたダークエルフは連邦国家を設立す~  作者: 吉良千尋


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12話 始祖返り



「オオオォォォ――」


 始祖返りしたレックスは天を仰ぎ、怒りをぶちまけるように叫ぶ。

 その咆哮は大気を振動させ、鼓膜が破れるんじゃないかと思う程凄まじい。


 それに、彼が放つ重圧は中々のものだ。あまり手を抜きすぎると、殺されかねない。


「あー……うるっさいなぁ」


 ただの咆哮と言えど、それからある程度戦闘力を推測する事は出来る。さっきまでとはまるで別人だ。


 しかし、暴走しているみたいだし、技術を用いた戦闘方法にはならないだろう。

 けどその前に、他の子らは避難させた方がいいかな。


「獅子族の君たちとゴブリン達さ、離れてた方がいいよ。見ての通りレックスは正気じゃない」


 誰を標的にするかもわかったもんじゃない。


「は、はいっす! エイラ様、どうかお気をつけてっす! 皆逃げるっすよぉ〜!」


 ゴブ吉君は、レックスの異常さを理解してなのか、早々にみんなを連れて走り去っていった。

 懸命な判断だよね。


「若が俺たちに牙を向く訳ねぇ!」

「そうだ! 俺達にゃ獅子の誇りがある! 若一人置いて逃げるなんざ出来ねぇ!」


 子分たちは反対に逃げようとしなかった。邪魔しなきゃ私は構わないけど、彼らが死んでしまったらレックスが正気に戻った時なんて言えばいいかわからない。


 なんとなく私にも責任ありそうじゃない?


「めんどくさいなぁ。それなら強制的にこの場から排除するよ」


「何を言」


 返答を待つ前に転移魔法で飛ばしちゃった。結構近場だけど、戻ってくるほど馬鹿じゃないでしょ。


「さてと、それじゃあストレス発散の相手になってあげるよ」


私はレックスに向き直り、杖を構えた。

 その直後、ほんの少しの砂煙を上げ、レックスの姿が消える。


「……殺してやる」


 ほぼ同時に後ろから殺意満々の声。


 即座に防御魔法を三重展開。一枚目には粘性を、二枚目には伸縮と反発、三枚目には硬度を高くする術式を付与。

 したのだけど、


「うわ、三枚目まで来るの? 冗談でしょ」


 一枚、二枚と破壊され、レックスの爪は三枚目でようやく止まった。前二枚で力を消さなかったら多分私に届いてたな。


 闘気の鋭さは実力以上か……始祖の血がそうさせてるのかな? 全くめんどくさい相手だよ君は。


「でも、隙だらけだよレックス」


 既に振り上げられた左手よりも、魔法の発動速度の方が早い。


 私は無防備なレックスの腹に杖先を当て、


「水流砲」


 高密度の水の弾がレックスの腹を穿つ。加減はしない。殺傷能力の低い魔法だから。


「ブッ――」


 それでも衝撃は凄まじく、レックスはくの字に折れ曲がり後方へと吹っ飛んでいく。


「逃がさないよ」


 引力魔法により吹っ飛ぶレックスはピタリと止まり、ものすごい勢いで私の元へと引っ張られる。


「クソがぁぁぁぁッ!!」


 その引力を利用して私を引き裂くつもりらしいけれど、術者がそれを許すとでも?


「濁流葬」


 杖先から大量の濁流が放たれ、引っ張られるレックスを迎え撃つ形で激突。レックスは必死にもがいているけれど、無闇に水を斬り裂く事に大した意味はない。


 押し寄せる濁流と、引力が均衡するように調整した。


 つまり、レックスは前にも後ろにも行けず、固定されたように濁流に呑まれている。


「あとはレックスが気を失うのを待つだけの簡単なお仕事――」


 なんて呟いたのが悪かった。レックスは闘気に物を言わせ、あの濁流を蹴散らしてきた。

 即座に引力魔法は解除し、迎撃の構えをとる。


「ァァァァァッ!!」


「……そんな力技で抜け出せるような魔法じゃないはずなんだけどなぁ」


 上下左右から来る高速の連撃をヒラヒラと躱す。なんで私が躱せるかって?

 私とレックスに反発するように磁力を纏わせているからだ。


 双方が強引に近付こうとしない限り、彼の爪が私を引き裂く事はない。

 ただ、そうでもしないととても躱すのは無理だ。


 めちゃくちゃ速いもの。


 なんて思っていると私の頬に焼けるような鋭い痛み。


「……化け物かよぉ」


 こいつ、直接触れられないと分かったら直ぐに闘気を放ってきた。

 飛ぶ斬撃みたいな? 言うほど容易い技術じゃない。暴走していてもさすがだなぁ……戦闘センスは抜群だ。


「お前も……ゴミ共も気に入らねェんだよ!! 俺がぶち殺してやる!!」


 血走った目で殺意を叫ぶ。


 感情に呼応するように速度が上がり、闘気の斬撃は徐々に私の身体を切り刻んでいく。

 直撃はしてないものの、浅い切り傷がそこかしこにある。


 多分、始祖の力が少しづつ解放されてるんだ。このクラスの高速戦闘はレックス程度の身体で出来ることじゃない。


 放っておけばどんどん強くなり、そのうちレックスの身体が耐えられなくて崩壊してしまうかもしれない。


 となると、早急にケリをつけないとダメか。


「かなり痛いよ。けど、謝らないからね」


「ルぁぁあァァァッ!!」


 せっかく忠告してあげたのに聞いてもないや、なんかムカつく。もう加減してあげないから。

 私は杖を地面に突き刺し、右手をレックスに向ける。


「封殺魔法・第一節……亡者招来」


 唱えた次の瞬間、空が黒へと変わり静寂が全てを支配し、レックスの足元からは地面をから突き出た無数の亡者の手が伸びる。


「こんなモン――」


「無理だよ」


 私はレックスに向けた手で、空を握り潰した。

 それに連動するように、亡者の手はレックスを黄泉へ連れ去ろうとするが如く、身体に纏わりつき、地面へと押し付ける。


 レックスは逃れる為に暴れるも、無数に伸びる手には無意味に等しい行為だ。


「第二節、千伏針」


 千伏針。封殺魔法の第二節であり、亡者が捕らえた者に鉄の針を刺す。言ってしまえばそれだけだ。


 空から針というか杭というか、どっちでもいいのだけどそれらが降り注ぐ。その内の一本がレックスの背中に刺さり、他は陣を描くように周囲に突き刺さる。


「かはっ」


 これで封殺方陣が完成した。


 もうレックスはどう足掻いても逃げられない。


「終節――は、さすがに要らないか。死なれても困るし」


 詠唱破棄してるとはいえ、最後まで唱えるとまず間違いなくレックスは死ぬ。殺すのが目的ではないから、二節で辞めておいてあげよう。


 とりあえずはこれで暴れだす心配がなくなった。あとはレックス次第かな。


 ふっと吹いた風が全身に出来た切り傷を刺激する。地味に痛いんだよねこれ。


「さて、完全に君の負けだけど異論はある?」


 地面に押さえ付けられ、背中から地面に太い針が背を貫き、固定されているレックスはそれでもまだもがいている。


 勿論抜け出せる訳はない。身体が動こうとしてるだけ。


「殺してやる! お前ら全員!」


「うーん、始祖返りが解除されないと話も出来ないのか」


 しかし、私はそれの解除方法なんて知らない。そもそも始祖返り出来る実力者自体が稀だし、始祖返りについて詳しくわかっている者なんて更に稀だ。


 となると、限られた情報で推測していくしかないか。


 まずレックスは私達に相当腹を立てていた。でも多分、殺意を抱く程じゃない。それは私にもゴブリン達にも。


 肝心の始祖返りしたのは私と戦って劣勢になった時だ。

 なんだっけ、なんか言ってたな。


「……二度と負けられない?とか、そんな事言ってた気がする」


 敗北がきっかけ? いやいや、そんな都合いい理由で超強化される訳ない。もっと根深い、それこそレックスの深層心理に起因するはず。


 負けられない……理由がある?


 仮にそれが正しいとして、今日まで一度も負けなかったのかな。

 本来なら有り得ないけれど、ベルが統治してから平和な期間がほとんどだから、そういう事も有り得るのか。


 レックス自身、獅子族の中じゃ強い方だし。


 整理してみよう。レックスの怒りは私とゴブリン。

 私はベルを護れなかったから。ゴブリン達は平和な世界だかなんだかといった発言が気に入らなかった。

 そして、彼は負ける事が許されない。


 そこら辺が含まれる過去にトラウマでもありそうだなぁ。


「それじゃ、ちょっと悪いけど記憶を覗かせてもらうね」


 私は拘束され悪態を吐くレックスの額に、そっと手を当てた。






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