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10話 見学

 ――ポットは「アウス」と聞くと、なるほどと頷いて俺を見た。


「カズミチ様はアウスを気にしてらっしゃいますよネ。あれが欲しいんですカ?」

「い、いや! ただちょっと気になることがあって」

「気になること、ですカ。どんなことでしょウ?」


 そういえば、TTコープはアウスを何のために使っているのだろう。あんな走り回る殺戮兵器を。


「アウスってどんな機能がついてるのかな、とか」

「なるほド。では、ついてきてくださイ」


 ポットは車輪を回転させ、リボンを絞めた。

 そういえば、ポットのテレポートはどんな条件なのだろう。いつも電話してから瞬間移動しているから、それが条件なのだろうか。名前も「()()イン」だし。


 しばらく歩くと、廊下の突き当たりに出た。この会社はまっすぐな廊下を中心に部屋が作られているので、会社の最奥ということになる。


 そこには、何か物々しい雰囲気の機械が取り付けられたアウスがあった。あの足はなく、機械に埋まっている。


「えっと、これは……?」

「転移電波を吸い取るための装置でス」


 アウスはピピッと何かを受信する音を流している。


「あの、転移電波について改めて説明してくれない?」

「はイ! 転移電波はテレポートした際に必ず発生する特殊な電波で、テレポートを繰り返したり、近い距離で複数人が同時にテレポートしたりすると、電波が溜まって時空が歪んでしまうんでス」


 時空が歪む。意外と重大な問題らしい。


「それきっかけで体が捻じ切れたり、他の人と()()してしまう事故も起きたりするんでス」

「うわ……」


 かなり重大な問題らしい。

 先ほど見た、空中で携帯が重なり合っていたのはその現象が起きていたからなのか。ポットたちはロボットなので直せるかもしれないが、俺は一発アウトだ。


 そこまで考えて、あの社長の姿が頭に浮かんだ。

 何度もテレポートをしてダメなら、服を着るためだけにテレポートを繰り返していたのは駄目なんじゃないか?


「テレ社長ってめっちゃテレポート使ってなかった? あれは転移電波大丈夫なの」

「本当は大丈夫じゃないんですけド……」


 ポットは目を横棒にする。


「あんな感じでテレポートをばんばん使っちゃう人なので、社長はちょっと特殊な空間にいるんですヨ」

「特殊な?」


 社長室は扉で繋がっていなかった。もしかしたら、あそこは全く別の場所なのかもしれない。


「カズミチ様にも分かりやすく言うト……あそこは社長以外の人間がテレポートを使えなくなってるんでス。他にも色々あるんですけド。それでなんとか転移電波が暴発しないようにしていまス」


 そこまでしてテレ社長のテレポートを許容しているのか。一言自重するように言ってもいいと思うのだけれど。


「ま、社長は実体がないので事故に巻き込まれても平気なんですけどネ!」


 ポットはふふんと胸を張るポーズをとった。本人が平気でも周りに迷惑をかけたらいけないと思うのだけど。


「そ、そっか。それで、アウスは何に使ってるの?」

「あれはその転移電波を吸ってくれるんでス! まあ、全部には程遠いですけどネ」


 なるほど、それなら貸し出しを拒否するのも納得だ。事故を気をつけてちまちまテレポートするのは彼らの性に合わない気がする。


「ワタクシどもも詳しい仕組みはわかっていないのですガ……。地球マーク付きのものは研究が進んでいませんからネ」

(地球マークって非常口のやつのことか)

「俺もあれ全然分かんないや」


 地球ユーザーだからと言って、それらの仕組みはわからない。スマホの仕組みを深く理解していないのと同じだ。


 さて、今やりたいことはアウスの検証だ。本当に「帰還」が俺の求める意味なのか確かめるため。


「あの、ちょっと呼びかけてみてもいいかな」

「呼びかけル? そこから外さなければ大丈夫でス」


 AIスピーカーに話しかける時と同じように、これの名前を呼びかける。


「ヘイ、アウス」

「――はい、なんでしょう。」


 ポットはその光景を見て「なんト!」と驚いた。


「これ、反応するんですカ!? ワタクシどもが試しても無反応だったのニ!」

「え、そうなの?」


 あの非常口――地球マークがついているから、地球ユーザー以外には反応しないのかもしれない。それにしてもメカニズムは不明だが。


「……ヘイ、アウス。君の言う「帰還」について詳しく教えて」


 ピコン、とアウスのてっぺんが緑に光る。


「――はい。私は、*ユーザー名*様を地球にお帰しすることができます。現在、この機能は故障中です。」

「……は」


 言った。確かに「地球に帰す」と言った。

 紛れもなく、嘘じゃなく、本当に。


 手が震える。息が止まる。

 心のどこかで二度と帰れないんじゃないかと思っていた。でも、帰る手段が目の前に存在するのだ。


「ああ、マジで良かった……」


 その場にしゃがみ込む。ポットが心配して俺の周りをくるくる回った。

 だが、まだ帰れると決まったわけじゃない。なんでも「故障中」だと言うのだ。それの直し方が分かるまでは。


「ヘイアウス、それってどうやったら直せる?」

「――はい。少々お待ちください。……自己修理機能に必要な物資が不足しています。物資を投下して下さい。」


 物資?

 自己修理をしてくれるというのはありがたいが、一億円とか無理難題を出されたらどうしようもない。


「何が必要?」

「――はい。まずは、高密度転移電波装置を投下して下さい。」

「……なんて?」


 こうみつどてんいでんぱそうち。使い道はなんとなく分かるが、どこにあるのか、どんな見た目なのかさっぱりだ。

 ただ、転移電波ということならテレポートに詳しいポットが知っているかもしれない。


「ポット、高密度転移電波装置?って知ってる?」

「あー……知っては、いますヨ?」

「本当!? それってどこにある!?」


 ポットはロボットアームを顔に当て、キョロキョロと俺から目を逸らした。何か、気まずそうな反応である。


「……どうしたの?」

「えっとオ……知ってるんですけド……そノ……」


 電子の顔に汗のマークが出る。


「いや、カズミチ様は恩人ですし、力になりたいのは山々なんですけど、でモ……」

「教えて、本当にお願い」


 土下座してお願いする。だって、それが手に入れば家に帰れるのだから。

 ポットはうんうんと唸った後、小さな声で言った。


「あの、絶対の絶対に、ワタクシが言ったってこと言わないでくださいネ?」

「言わない。絶対」


「……うちの、最終秘密兵器でス」

「…………は?」


 今の言葉を反芻した。だが飲み込めない。

 なにか、特殊な装置ということはなんとなく察してはいたが、最終秘密までいくとは思わなかった。


「簡易ブラックホール的な、実体吸い込み機的ナ……。とにかく凄まじいエネルギーを持つ超級の兵器デ……!」


 秘密にして欲しい、と言った割にはよく喋る。

 というか、ブラックホールときたか。転移電波で起こる事故を限りなく強化したとか、そういう装置だろうか。


「……それ、どこにあるかな」

「でででですので、社長室にあるかト……!」


 ……頭を抱えた。

 そりゃそうだ。そんな危険なものは安全な場所に保管する。鍵がかかった場所とか、超強いテレポーターがいる部屋とか。

 それを持ち出して? この中に入れる? 何をどうやったらそんなことを許してくれるんだ?


「……やばい。これ、詰んだかも」


 番人は圧倒的格上だ。しかも人の指を簡単に解体しようとするやつ。

 ただでさえ嘘がバレたら終わるのに、その上秘密兵器を持ち出すとか頭がおかしいとしか思えない。


 もしここに牢記とか、ノーティーがいればもっと強く出られたかもしれない。でも今の俺は完全にアウェーだ。「帰りたいから秘密兵器よこせ」なんて言えるわけない。向こうが俺を帰したい理由もないし。


「どうやったら帰れるんだよ……」


 地に伏して落ち込む俺を、ポットはずっと心配してくれていた。

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― 新着の感想 ―
 前回の疑問ですが電波の問題だったんでしょうか。  双方が繋がらないと送受信はできないのが道理ですもんね。
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