表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

9話 ご対面

 ――「社長室」。未知の言語で書かれたプレートが光っている。

 テルイン・ポットは無いネクタイを締めて、ふふんと息の音を漏らした。


「あまり緊張なさらないデ。社長はとてもお優しい方ですかラ」

「は、ははは……」


 もし時間を巻き戻せるなら、手品をしようと思い立つ前に戻りたい。……いや、戻るなら電車に乗る前か。

 目の前の扉を見つめながら後悔する。


「……ん? これ……」


 見つめていると、それが扉ではなく、扉型の窪みだということに気がついた。ドアノブもなく、開くようになっていない。


「どうやって入るんだ?」

「まあまあ、見ててくださイ」


 すると、テルイン・ポットは高速でノックをした。それがここの礼儀なのか?


「社長、テルイン・ポットと地球ユーザーのハザマダカズミチ様でス。お願いしまス」

「お願いします?」


 失礼します、ではなく、お願いしますと言ったのが不自然だった。どうなるのか身構えていると――


 ――俺は地面に寝転がっていた。


「ぐえっ」


 いきなり平衡感覚が保てなくなって、その場に倒れたのだ。ここまで来れば、これがテレポートのせいだと理解できる。それでもこの気持ち悪さは拭えないが。


「カズミチ様、平気ですカ?」

「はい、なんとか……」


 TTコープのテレポートは予備動作というものがないようだ。意見箱とかあったらそれを書いておこう。


「おわ、ごめんごめん。テキトーにしすぎたみたいだわ」


 ふいに気だるげな声が聞こえてきた。ぐらぐらする頭を上げ、声の主を見る。

 そこにいたのは、全身が薄いホログラムでできた簡素なヒト型だ。ヒト、よりも棒人間に近しいかもしれない。


「あー、まだお客さんだし、服着た方がよさげ?」


 すると、そのホログラムがスーツを纏った。服は空中に浮いている。よく見ると、それは落ちて浮いてを高速で繰り返しているので、テレポートで無理やり服を着ているように見せているのだろう。


「えっと、お、俺……」

「どもー。地球ユーザーでテレポートできるっていうヒトよな? まじパネェ」

「……ぱねぇ?」


 そこに座るナニカは、俺が想像する社長とは全く違かった。その見た目が、ということではなく、喋り方が。


「あ、自分TTコープの社長?やってるテレって言います。テレポートまじ最高みたいな。よろ」

「あ、はい、よろしくお願いします……?」


 フランクとかいうレベルじゃない。口調が若者すぎる。あまりに軽いノリのテレ社長に安心した。これなら緊張しなくてもいいだろう。


「……うーん、久々にこれ着たけどショボいかも。ちょい待ち、いいのに着替えるわ」

「あ、はい」


 テレ社長はひゅんひゅんと次々に服を変えていく。これが彼の能力なのだろうか。

 鏡を見ながら考えるテレ社長を横目に、テルイン・ポットに近づく。


「ねえテルイン・ポットさん、社長ってどういう力を持ってるんですか?」

「なんでもできまス! 長距離テレポートだって、ア……物体のテレポートだって自由自在ニ!」


 それってかなり凄くないか?

 今服をどんどん変えているように、好きなところからすきなものを引っ張り出せて、どこにでも自在に行けるなんて、便利なんてレベルじゃない。


(ノーティーとは別タイプのボスだな)


「自分のテレポまじ最強なんよな。どこでも行けるし、なんでもテレポートできるし。そりゃエグ楽しーってなるっしょ」

「なんでもって、それはテレポートというよりアポートなんじゃ」


 俺の馬鹿野郎。言わなくていいことを口走った。


「あーそれイァドユーザーからめっちゃ言われたー。でも自分の世界はまとめてテレポートだったからさぁ。合わせてくんね? 自分社長だし」

「あ、はい、すみません……」


 こだわりが深いタイプじゃなくてよかった。変に知識をひけらかそうとするな、この馬鹿たれ一道。


「んで、カズミチ君は何のテレポートができんの?」

「カズミチ様は物体の短距離テレポートができまス! コインほどの大きさノ!」


 まずい。訂正する時間がない。訂正するにしても何て言えばいいか分からないし。


「正直テレポで見ればひよっ子レベルやね。でも転移電波出ないとかいうチートなんでしょ?」

「はイ! 先ほど検査しましたが、全く検出されませんでしタ!」


 ふーん、とテレ社長は机の上の書類を見る。わざわざ目線が合う場所まで紙をテレポートさせ、落ちるたびに同じところに転移し直している。逆に疲れないのか、それ。


「じゃ、やってみてよ」

「……え?」

「だからやってみてって。テレポート」


 できるでしょ、と言われる。

 不可能ではない。昨日練習しまくったし、さっきも成功させた。しかし、手が妙に震えるのだ。相手はあんなノリだが社長。すぐに見抜かれるのではないか。


「何? できなさそ?」

「あっ、いえ、緊張しちゃって」

「テレポートで緊張? ウケる」


 ポケットからコインを取り出す。手汗がひどい。

 失敗しないことを、そしてテレ社長の世界に手品がないことを祈る。



――――――――――――――――――――――――――



「じゃーん、こ、コインの瞬間移動成功〜……」


 なんとかうまくいった。焦ってコインを落としたりしたが、無事に右手から左手に移動したように見せることができた。テルイン・ポットは拍手している。


「……ほーん」


 テレ社長はなぜだか微妙な反応だった。

 もしかして、バレたか?


「それ、なんで隠さなきゃいけないわけ?」

「えっ」


 魔法や卓越した技術がない以上、地球人はタネを仕込まなくてはいけない。そうすれば当然、全てを大っぴらにしてパフォーマンスをすることは不可能だ。

 だが、この世界ではテレポートは単なる技術、または魔法である。隠す必要なんてない。


「え、えと、人が見てるとテレポートができないんです」

「へー、初めて聞く条件。てかそれまじ不便だね」

「は、ははは」


 愛想笑いしかできない。

 咄嗟の嘘をつけた自分を褒めたい。嘘自体は褒められたものではないが、この場では一番の選択肢だ。


「それって生まれつき? 教えたら自分らでもできる?」

「え? いや、地球じ……ユーザーじゃないと厳しいかも、ですね」


 タネがあることは知られてはいけない。

 そう答えると、テレ社長は後ろで腕を組んだ。


「ふーん……そっかー」

「あの……?」

「や、ちょい悩んでた。イァドユーザーじゃないし、解体したら死んじゃうよね」


 解体、という言葉にぎょっとした。何だ、何をするつもりなんだ。


「地球ユーザーをうっかり殺しちゃいましたーなんてしたらめちゃ怒られるし……でもよく調べないと仕組みなんて分かるわけないってゆーか。まじむず」

「え、えと」


 俺の転移電波が出ない理由をどうしても探りたいようだ。もしここで俺が「実はあれ嘘でした」なんて言ったら、火山の中とかにテレポートさせられるかもしれない。


「え、じゃあさ、サンプルとして小指のさきっちょだけちょーだい」

「は!?」


 目の前にナイフが現れた。スーツと同じ原理で浮いている。


「だいじょぶだいじょぶ。あんたらで言う……第一関節?だけ貰えればいーから」

「いや、無理、無理無理!」


 ナイフをはたき落とす。反射的な動きだったが、手を切らなくて良かった。


「いやさ、転移電波出ないってガチヤバいからね? 会社の発展に貢献するみたいな。だから欲しいってゆーか」


 しかし、ナイフは再び宙に浮く。しかも今度は数が増えた。まるで、今から殺されるみたいな景色。


「あ、でも、あの」

「へーきだって。うち体の一部で色々調べられるやつがあるからまじ一発。一部だけでいいから、まじで」


 じりじりとナイフが近づいてくる。

 終わった。俺の小指もここまでか。覚悟も決まらないまま、俺は目を強く閉じた。


「あの、社長!」


 テルイン・ポットが挙手をして声を上げた。


「なに、どしたん」

「我々はサイボーグやロボットに分類される者ばかりですから、肉体の解析技術がまだまだで、カズミチ様の身体で十分な検査はできないかト……」

「え、そうなん?」


 テレ社長は目を開き、俺とテルイン・ポットを交互に見た。まさか、テルイン・ポットが助け舟を出してくれるとは。


「えエ。しかもカズミチ様は地球ユーザーですから、TTコープのものでは調べきれない可能性が高いでス」

「え? B4でも無理なん?」

「無理かもですネ」


 すると、俺に向けられていたナイフが全て消えた。力が抜けて、その場に座り込んでしまった。


「あごめん。自分実体ないからさ、実体持ちって全部同じもんだと思ってたわ」

(勘弁してくれ……)


 ひとまず、体の一部に別れを告げなくてもよさそうだ。自分の小指をぎゅっと握る。


「でも、貴重な人材を放っておきたくもないんよねー。あ、じゃこうしよ」


 テレ社長は、テルイン・ポットの元にLEDが光る奇妙なリボンを転移させた。「つけて」とテレ社長が言うと、テルイン・ポットはそれを首らしき場所に巻きつけた。


「ポット、君今日からカズミチ君記録係ね」

「エ? ワタクシがですカ?」


 テルイン・ポットは車輪をきりきり回しながら電子の目をぱちくりさせた。俺も、テレ社長が何を言っているのかイマイチ分からなかった。


「そ。色々記録して送って。電波ゼロの理由がわかるかもしんないし」

「か、かしこまりましタ!」


 ビシッと敬礼のポーズをとった。果たしてそれで合っているのだろうか。

 ……ということは、常にテルイン・ポットが俺について回ることになるのか?


「カズミチ君はしばらくうちにいてね」

「はい?」


 予想外の言葉だった。てっきりもう帰してもらえるのかと思っていた。


「詳しい検査できないにしてもさ、色々調べたいし。てかテレポートに詳しくないっしょ? ぶっちゃけ」

「はい、全然……」

「勉強したらなんかコツとかつかめるかもしんなくね? まず知ってもらわなきゃさー」


 嘘だろ。異世界に来てまだ勉強しないといけないのか?


「あ、あの、俺ホテルに……!」

「んじゃよろ。空いてる部屋好きに使わせていーから」


 テレ社長に抗議する間もなく、テレポートされて飛ばされた。俺の上にはテルイン・ポットが乗っている。


「いっで!……もう」


 全く、散々である。まだテレポートが使えると嘘を吐き続けないといけないようだ。

 しかしともかく、テルイン・ポットのおかげで指を失うことなく戻ってこられた。小さなラジコンロボに感謝である。


「テルイン・ポットさん、ありがとうございました」

「いえいエ。あ、あとワタクシのことは「ポット」とお呼びくださイ! 敬称も不要でス!」


 電子の目がにっこり笑う。


「あ、ありがとう。あと、なんで俺のこと庇ってくれたんで……くれたの?」

「カズミチ様はアウスを起動してくださった恩人ですかラ! 地球ユーザーが部位を再生できないことも存じておりますのデ」


 なんていい人なのだろう。最初は変なロボットとしか思っていなかったが、今ではかなり信頼できる相手だと確信している。窮地を救ってくれた効果は大きい。


「本当にありがとう。本当に」

「いえいエ! エヘヘ」


 そして、テルイン・ポットの言葉を聞いて思い出した。なぜ自分がここにいるのかを。


「……ポット、早速お願いなんだけど」

「はイ! ワタクシにできることなラ!」


「その、アウスってどこにある?」


 地球への帰還に役立つ、かもしれない機械「アウス」。

 あれの正体を知るため、俺はテレポートが使えると偽ったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 ひとつ疑問。 「どこでも行けるし、なんでもテレポートできる」という話が本当ならば元の世界への帰還もそれで可能なのでは?  まあ、表現が誇張されているというのが実際のところなのでしょうけどね。(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ