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4  生き延びるために


 自らの生命がかかっているためか、アレクはみるみる成長した。


 いや、それだけでは言い表せないほど優秀なのは明らかだ。平民として生きていた無学な少年が、たった三ヵ月で十代前半の貴公子に求められる言葉遣い、振る舞いを高いレベルで取得したのだから。


 すべてライラという素晴らしい教師がいたおかげなのは、疑いようがない。


「若くして教師まで務めるなんて、わたくしの才能が末恐ろしいわ」

「俺が間違える度に扇で叩く体罰教師のくせに、よく言うぜ」


 馬車の向かいに座っているアレクの手を、ピシャリと扇で打つ。同乗している淑女に対して悪態を吐くとは、何事か。ライラが睨みつけると、アレクは「私が悪うございました」と尊大にのたまった。

 その整った容貌と自信に満ちた所作だけ見れば、名門の出身だと勘違いされても不思議ではない。だからこそ、その口から粗野な言葉が出るのはライラの美学が許さない。


「おまえ、先ほどまた『俺』と言ったでしょう。品がなくてよ」

「そもそも育ちが悪いもので、どうぞご容赦ください」


 言葉遣いは上等になったが、生意気さには拍車がかかってしまった。小憎たらしい。この性格については生来のものに違いないので、いくら優秀な教師であっても矯正はできないだろう。よって、ライラの力不足ではない。


「こんな調子で皇帝に取り入ることができるかしら」


 挑発的な態度も相手によっては悪くないが、皇帝は実直な者を好む傾向がある。この生意気で可愛げのない少年が、気に入られるだろうか。ライラはふうと悩ましげなため息を吐く。


 それを横目で見ていたアレクが、フンッと鼻を鳴らした。


「せいぜいご期待に沿えるように、芝居してみせますよ」

「あら? おまえ、意外にやる気があったのね」

「……母さんと約束したんだよ、生き延びるって」


 そのためなら、なんだってしてやる——窓外の景色に目を向けたまま、アレクは呟くように言った。その脳裏には、在りし日の母親との思い出が浮かんでいるのかも知れない。


 粗野な言葉遣いはいただけない。だが、今回だけは見逃してやることにする。扇を持つのが面倒だっただけで、決して同情したからではない。


 ただ、皇帝と会う前にお母様の墓参りへ行っておこう、と思い出すきっかけにはなった。


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