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3  ライラの天才的な計画


 今から皇后を追い落としたとて、一度ライラを袖にした皇帝なんて願い下げだ。それなら子供を保護して皇帝にして、この帝国を丸ごと手に入れてしまえばいい。


 それが、ライラの天才的な計画だ。


「……と、言うことでお父様。この子供を皇帝にして、愚か者どもに目にもの見せてやりたいのです」


 視察から戻ってきた父である公爵に、ライラは磨き上げた少年を引き合わせる。艶のある黒髪に、通った鼻筋と、赤く輝く目。こうして見ると、容貌は皇帝に瓜二つだ。


 長く途絶えていた“時逆の力”まで持ち、血筋なんて覆す資質を備えている。帝国一の家柄であるカイロス公爵家の後ろ盾があれば、皇太子にも楽々登り詰められるだろう。


「やめろよ、こんな馬鹿な真似……こういうの、叛逆って言うんだろ」


 ふて腐れた顔をした少年がライラを見上げてくるが、頭を扇で打ち据えて黙らせる。


 なんとこの少年、母の埋葬のために借りた金の返済という実にささやかなものを求めて城に来たらしい。他は資産も、地位も、名誉も、なにもいらないそうだ。

 しかし、そんなことをライラが許すはずもない。高貴なる血族が市井に紛れているなど、あり得ないことだ。なによりタイミングよく転がり込んだ切り札を、手放すはずがない。


 そして、その考えは公爵も同じはずだ。


「うん、いいじゃないか! さすがライラ、私の自慢の娘……やはり天才だな!」

「うふふ、さすがお父様! 絶対に分かってくださると信じていましたわ!」


 公爵はライラの脇に手を入れて持ち上げ、クルクルと回った。親子でひとしきり「あはは」「うふふ」と笑い合った後、ライラを下ろした公爵は「さて」と表情を一変させる。


「ライラという完璧な令嬢がいるというのに、他の女を選ぶ男なんて皇帝に相応しくないからね。早々に首をすげ替えてしまおう」


 その凄んだ顔の、冷酷さと言ったらない。


 少年は諦めたような顔をして「こいつら、親子揃ってヤベェ」とため息を吐いた。

 カイロス公爵家の親子に対して、なんと生意気な態度だろうか。叱るべく呼びかけようとしたライラは、少年の名前を知らないことに気づいた。


「そういえば、おまえの名前は?」

「アレクだけど」

「そう、アレク。今後は俺ではなく、私と自称なさい。俺だなんて、いかにも粗野だわ」

「はあ? 知るかよ、そんなの」

「そんな甘えは許さなくてよ。おまえは三ヶ月後に皇帝へ謁見して、皇子の地位を得なくてはならないのだから」


 ライラの謹慎が明けるまで、後三ヶ月。その喪が明けた瞬間、首都へ乗り込む算段だ。

 それと同時に、カイロス公爵家が後見人となった皇帝とそっくりの少年が城に現れる。皇室とそれにおもねる貴族は大混乱になるだろう。想像するだけで小気味いい。


「そんなの、無理に決まってんだろ」

「無理だったら、おまえが死ぬだけよ」

「はあ!? なんでそうなるんだよ」

「おまえが皇子の地位を得られないのなら、利用価値はない。そうなれば、当家がおまえを生かしてやる意味なんてないわ」

「そんなら、こんなとこ出てってやるよ!」


 部屋を飛び出そうとしたアレクを、護衛の騎士がひっ捕らえる。「離せ!」と暴れるアレクの前までわざわざ足を運んでやったライラは、ふうと悩ましげな息を吐いた。


「おまえ、思った以上に愚かなのね」

「うるせぇ、この性悪女!」

「その上、品もないなんて……やはり叩き出そうかしら」

「そうすりゃいいだろ! 今まで通り生きられれば、俺はそれで……」

「本当に愚かね。当家が手を下さずとも、街へ戻れば同じことよ」

「……どういう、ことだよ?」


 ようやく大人しくなったアレクに、騎士は掴んでいた腕を離した。それで逃げ出すほど愚かではないようで、アレクは真っすぐな目でライラを問うように見つめた。


「公爵の城へ迎えられた貧しい少年が、ただの市民なはずがないでしょう? それは、誰が見ても明らかだわ」

「それは……そう、だけど」

「おまえが見せた力は、使用人づてに知れ渡るでしょう。そしておまえの容姿は皇帝に似ている。そうなれば、おまえがいることで不利益を被る者に生命を狙われる」

「そんなの、使用人のみんなに口止めをしてくれれば……」

「嘆かわしいことに根性なしばかりで、我が城の使用人は出入りが激しいの」

「ああ、うん。出入りが激しいのは納得だけど」


 遠い目になったアレクは肩を落とし、諦めたような表情でライラを見上げた。


「分かった……協力するよ、アンタに」


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