24 お嬢様と御者
「これを買い取りなさい。ふざけた査定をしたら、許さなくてよ」
乱雑にテーブルへ放られた宝飾品たちが、ガチャッと音を立てる。
見ただけで一流の職人によるものとわかる繊細な細工。そのうち一つを震えながら手に取り、宝石を陽に照らせば虹のように光った。間違いなく、本物だ。裏を返せば皇室御用達の工房の刻印が入っている。
圧倒された商会長は、ゴクリと喉を鳴らした。
今日の昼下がり、目の前にいる令嬢はふらりと店頭にやってきた。
身なりこそ庶民的であるものの、立ち居振る舞いは明らかに上流階級。慌てた店員が商談室に通し、商会長が用件を聞くことになったが……まさか、こんなことになるとは。
(買い取っても売り先が見つからないかもしれないが……)
ようやく帝都への出店が叶ったばかりで、まだ中央貴族の顧客は少ない。ましてや、こんな超一級品を買えるような貴族はいない。そんな品を気軽に扱うこの令嬢は、何者なのか。
買い取らずに勘気に触れれば、商会がなくなってもおかしくない。
大貴族のお忍びである可能性が高いことを悟り、ありったけの金貨を袋に詰めるように指示する。そして額をテーブルにすりつけて頭を下げ、令嬢の前に重たい袋を差し出した。
「こ、こちらで……精一杯でございます……!」
差し出された袋を興味なさそうに一瞥した令嬢は、そのまま袋を押し戻す。
「これは報酬よ、取っておきなさい」
「は、はい……?」
「これを資金に、用意して欲しいものがあるの」
銀色の髪を持つ悪魔的に美しい令嬢は、すみれ色の目を細めて笑った。
(フン……さすがは未来の大商会と、言ったところかしら)
優雅なティータイムを楽しみながら、ライラは鼻を鳴らした。
準備を待つために用意された部屋も、この着替えのドレスも、ギリギリではあるがライラのお眼鏡にかなう程度だ。みっともなく動揺はしていたが、目利きと仕入れは一級品。だからこそ、ここから数年もせずに人気の商会へと成り上がるのだろう。
「お嬢様、準備が整いました」
その声に目を向けると、商会長が頭を下げている。ライラは微笑み、部屋を後にする。
表へ出ると、大きな馬車が停まっている。車体には紋章こそないが、どこぞの貴族のものだったのか装飾もそこそこある。馬は二頭立てで質素ではあるが、それなりの貴族のお忍びだとしたらこんなものだろう。
馬の頭を撫でていた男を商会長が呼び寄せ、ライラの前に立たせる。
「こちらが御者です」
「ヒッポスって言いやす、どうぞよろしく」
気軽に手を上げて挨拶をした御者を、商会長が「バカッ!」と言って叩く。
「失礼しました……気のいい、誠実な男ではありますので」
「おうよ! 訳アリでも秘密は必ず守りますんで」
御者はドンッと胸を叩いて請け負う。まあ、こういう愚直そうな人間は意外に悪くない。脳裏にうっすらと某ポンコツ騎士を思い浮かべて、ライラは「よろしい」と頷く。
「以後、わたくしのことは『お嬢様』とお呼びなさい」
「ハハッ、随分と上等な言葉遣いさせられるもんだ! お城にでも行くんですかい?」
御者が笑うのに合わせて、ライラもにっこりと笑う。
「ええ、行き先は皇城よ」
一瞬の沈黙――その後、目を見開いた御者が大声で叫んだ。
「はあぁあああぁ!!!?!!?」




