表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/36

23  むしろ好都合だわ


 目を開けた瞬間、見慣れた天井が目に入った。


 やわらかく身体を受け止めているベッドの感触も、窓の外に広がる庭園の長閑な景色も、たっぷりと毛足の長い絨毯も……どれも、よく知っている――帝都の屋敷のもの、だが。


(……模様替えでもしたかしら?)


 わずかに異なる家具の種類や配置、カーテンの色合いが目に留まる。


(いえ、それよりも……どうして、ここに?)


 直前の記憶がよみがえって、強烈な違和感として襲ってくる。ライラは帝都の屋敷にいるはずがない。カイロス公爵領にあるアレクの生家を訪ねていたはずだ。


 アレクの母の遺品――皇家の紋章が入った指輪を握った瞬間、ここにいた。


 移動した理由はどう考えても、この指輪だろう。握っている指輪の感触を確かめつつ、ライラはベッドを降りる。ひとまずアレクに連絡を取るため、遣いを出すべきだろう。


(まずは、使用人ね)


 部屋にベルが見当たらず、しかたなく廊下に出る。昼間にしては静まり返っている屋敷を妙に思いつつ進むと、少し先に使用人の姿を見つけて「ちょっと、おまえ」と声をかける。


 使用人はライラを見た瞬間、目を見開いて「ひ、ひぃ!」と悲鳴を上げる。


「奥様の、幽霊が出たあぁあああぁ!!!」


 大声を上げて逃げていく後姿を、ライラは唖然として見送るしかない。


「奥様……ですって?」


 この屋敷でそう呼ばれる者は、ライラの母――アリシア以外にありえない。しかし使用人の入れ替わりが激しい公爵家で、アリシアの顔を知る者は古株の執事しかいないはずだ。


 それなのに見覚えのない使用人がライラを見て「奥様」と言った。


 母譲りの銀色の髪を見て、見間違えたのだろう。それは、つまり――あの使用人がアリシアを知っているということに他ならない。これらが意味することは、ひとつだけ。


(なるほど、過去に来たのね)


 ライラの明晰なる頭脳は、すぐに正解をはじき出した。

 恐らく時期は母が亡くなってまだ間もない頃。それならば屋敷の沈んだ空気にも納得できる。自身の部屋に違和感があったのも、十年以上も昔ならば当然のことだろう。


「これはむしろ好都合だわ」


 誰に聞かせるでもなく口に出し、ニヤリと口の端を上げる。


 足早に部屋へ戻ったライラは、宝石箱から目ぼしい宝飾品を掴み取る。これだけあれば、十分だろう。あとは、また見つかる前に屋敷を出るだけだ。本来はライラが忍ぶ必要など微塵もないが、対応が面倒なので人通りが少ない廊下を選んで外を目指す。


 その途中で父の執務室の前を通ると、扉が薄く開いていた。


(おとう、さま……)


 見えてしまった部屋の中では、父が壁にかかった肖像画を見つめて立ち尽くしている。かつて愛する母を失った父は、ライラが目に入らないほどの絶望の中にいた……きっと、今がその時なのだろう。


 幼い頃に感じた無力感を思い出し、ライラは目を伏せる。


 ライラには、父を救うことはできない――父を癒すことができるのは、時間という薬だけだ。それをよく知っているライラはそっと扉を閉めて、そのまま通り過ぎた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ