表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/36

幕間 アレクとピスティス


「ここまで来れば、大丈夫だろ……」


 ふう、とアレクは息を吐く。


 ライラに着せられた貴公子らしい服に葉っぱがついているのを払う。こんな服で木登りなんてしたくなかったが、今回ばかりはしかたない。公爵家の庭で一番高い木の中腹で、アレクはようやく腰を落ち着けた……が、すぐに真下から声がする。


「アレク様ーー!」

「げ……うわっ!?」


 その声に驚いて、枝から足を踏み外す。あ、死んだかも。逆さまになった景色にアレクがそう覚悟していると――ボスッという音と共に、身体がやわらかく受け止められた。


「急に降りてきては危ないですよ」


 顔を上げれば、なんなくアレクを受け止めたピスティスがいた。いくら子供とは言えど、もう十三歳のアレクが三階くらいの高さから落ちたというのに。


(ピスさんって、身体能力が異常なんだよな……)


 この騎士――名はアダマス・ピスティスと言うが、現在アレクに仕えることを熱望している。アレクはそれを断っているのだが、諦めずにどこまでも追いかけてくる。


 クローゼットに隠れても「呼吸音が聞こえました」と言って見つけ出すし、屋根の上に逃げて梯子を外しても「壁を登ってきました」と言って顔を出す。おまけに銃に撃たれて大量の血を流していたのに今はピンピンしているし、あまりに頑丈過ぎる。


 ピスティスの腕から降ろしてもらいながら、アレクは再度説得を試みる。


「ピスさんさあ、すごいんだから陛下に仕えてなよ。陛下も喜ぶって」

「いえ、陛下は私がアレク様に仕えることを喜んでくださっています」

(ぜっっっっったい! 厄介払いできて喜んでるだけだろ、それ!)


 ピスティスは異常にしつこく、思い込んだら一本鎗で誰の話も聞かない。あのライラも調子を崩されるほどなのだから、皇帝も扱いに困っていたのは疑いようがない。


「でもさ、俺に仕えたら近衛騎士じゃなくなっちゃうんじゃないの?」

「陛下は近衛騎士としてアレク様に仕えよ、とおっしゃいました」


 近衛騎士とは、皇族の身辺を守るからこその“近衛”なのだとライラからは聞いた。大舞踏会でもアレクを守るようなことを言っていたが……ライラの思惑通り、皇帝はアレクを皇子として迎えるつもりなのだろうか。


 皇帝に撫でられたことを思い出して、自分の頭をさわってみる。すると、それを見たピスティスがワタワタと慌て出した。


「まさか、どこかぶつけられたのでは!?」

「大丈夫だって、ピスさんが助けてくれただろ」


 ピスティスの情けない顔が面白くて、アレクは「ハハッ」と声を出して笑った。


 頑固な上にややポンコツだが、ピスティスは間違いなく善人だ。だからこそ、自分に仕えさせるのは申し訳ないとも思う――人を容赦なく陥れる悪の化身のようなライラのことを、嫌いになれずにいる自分なんかに。


 そんなアレクの想いも知らず、ピスティスは誇らしげに胸を張る。


「その程度、我が命を救われたことに比べれば!」

「だからさ、俺はライラに言われて力を使っただけだって……」

「だとしても、私がお仕えしたいのはライラ嬢ではなくアレク様です」


 あまりに真摯な目で見つめてくるピスティスに、アレクは言葉に詰まる。

 アレクだってピスティスが嫌いではない……むしろ、好きな方だ。この愉快で善良な騎士がそばにいてくれるのは、正直に言って嬉しい。しかし命を懸けて仕えてもらうのは重い……一体、どうしたらいいのだろう。


「おまえたちいつまでやっているの、出かける準備をなさい」


 そんな場の空気なんて読むはずもない女が、いつも通りの調子で二人に歩み寄ってくる。その言葉に「どっか行くのか?」と聞いてみれば、ライラはふうと優雅なため息を吐いた。


「戻るのよ……我がカイロス公爵領に」


少し休憩をいただいた後、第二章を投稿予定です。

ブックマークしてお待ちいただけたら嬉しく思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ