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ライオネルふたたび

 一番まずい敵に見つかってしまったようだ。あともう少しで宮殿へ辿り着けるというのに。

 一番嫌なタイミングで、一番会いたくない者に遭遇してしまう。しかし、それでもこの場を切り抜けないといけない。アーシェは剣を抜いた。ノエルも杖も構えて、魔法を使うタイミングを伺っている。

「お前らの行動は全部わかってんだよ。筒抜けってやつだ」

 ライオネルはニヤリと笑みを浮かべ、アーシェたちを見下しながら言った。

「どう言うことだ!」

 オーレンが叫んだ。

「お前らがどこに潜り込んでやがるのか、もうわかってんだ。お前らドブネズミどもが伯爵に直訴しようなんざ、容易に予想できる。だからここで待ってたんだ」

「……僕たちが君らのテリトリーに侵入するまで、泳がせていたわけか。ここなら街の中よりやりたい放題だものな」

 ノエルは憎々しげに言った。まんまと罠に嵌められたというわけだ。

 アーシェたちの周囲には大勢の衛兵が取り囲んでいる。その数、百人以上――いや、数百人はいるようにも見える。

 ノエルは魔法の杖を構えた。しかし、ライオネルは余裕の表情である。

「おい、魔法使い。お前の魔法など、何の役にも立たんぞ」

「何だと?」

 ライオネルの後ろから、魔道士と思われる男が数人進み出てきた。そして、何かの呪文を唱え始める。

「ちょっとノエル。あれ何なの? なんか嫌な予感がするけど」

 アーシェが言った。

「この呪文はまさか……!」

 ノエルはこの呪文を知っていた。魔法封じの呪文だ。魔道士の頭上に魔力を凝縮した球ができている。これは魔力を吸い取る球で、その領域内では使われた魔法が、この魔封じの球に吸い取られる。そのため、まったく魔法が使い物にならないか、その力から逃れても、威力が減退してしまう。

「お前の魔法もこれで使い物にならねえわけだ。ハッハッハ!」

 ライオネルは、勝利を確信したのか高笑いを始める。

「どうすんの、ノエル。これ、結構ヤバくない?」

「どうだろうな。しかし僕らは、オーレンとダリルを伯爵の元に連れていくのが目的のはずだ」

 ノエルはそう言って、アーシェの方を見た。

「アーシェ、ここは二人に先に行ってもらって、僕たちがここで彼らを引き受ける」

「どうやって?」

 アーシェが言った。

「ここは街中じゃない。君の剣技で衛兵たちの壁に穴を開けるんだ」



 ノエルの魔法も封じられた。これで大勢に囲まれて、この危機を乗り越えられるのだろうか。オーレンとダリルの頭には不安がよぎる。しかし、どうしてもここで倒れるわけにはいかない。

「何かしようたって、無駄だぜ?」

 絶対的な自信で立ちはだかるライオネル。その顔は勝利を確信している顔だ。

「それはどうかな……闇の精霊よ、我が命に従い、その力を行使せよ!」

 ノエルが呪文を唱えると、その両手から黒い光が浮かび上がってくる。

「おいおい、魔法は使えねえって言っただろうが! お前はバカかよ、ハッハッハ!」

 ライオネルの笑いが響く。しかしノエルの顔には、負けを認めるようなものはない。

 ノエルの手から発せられる黒い光は徐々に膨らんでいき、強烈な魔力を発している。同時に魔封じの球が反応して、その闇の魔法の力を吸収し始めた。

 が、何かおかしい。次第に魔封じの球の挙動がおかしくなっていく。

「ど、どうなっているのだ?」

 魔道士の一人が、その異変にたじろいでいる。

 ノエルの使った魔法は闇の魔法で、魔力を敵の中に送り込み、最後にはオーバーフローさせて崩壊させるものだった。闇の精霊を行使する魔法は人間たちの世界では非常に難しく、また珍しいものだった。

 そして、魔封じの球の内部から魔力が溢れ始めた。球は次第に形が崩れ、とうとう崩壊した。その時強烈な閃光が走った。

 それに目が眩んだ敵たちに隙ができる。

 ノエルが叫んだ。

「アーシェ、今だ!」

「ガッテン承知! 我が手に宿る闘志の光よ! 阻む敵を薙ぎ倒せ!」

 アーシェの手に持つ剣が赤い光を放ち始める。そして剣を頭上高く掲げると、剣先に赤い光が収束し、光は真っ直ぐに天を貫いた。

 アーシェはその光を放つ剣を、そのまままっすぐ眼前に振り下ろす。

「ドォォォリァァァッ! 必殺! ヴァリアントブリンガー!」

 赤い光はどんどん大きくなっていき、目の前に振り下ろされた時には、幅数メートルはあろうかという巨大な光の柱となっていた。

 その光に多くの衛兵は薙ぎ倒され、吹き飛ばされていく。

「バ、バカな――な、何だ!」

 ライオネルはその凄まじい威力に戦慄した。前に戦った時とは全然違う。これは一体、どう言うことなのか。

「さあ、オーレン、ダリル! 道は作ったわよ! ここは任せて、先に行っといで!」

「お、おう! すまねえ。オーレン、行こう」

「わかった。アーシェさん、ノエルさん。どうかご無事で!」

 ダリルとオーレンは、薙ぎ倒されて囲いがない部分を駆け抜けていく。

「あっ! このやろう! てめえら、何してやがる! 捕まえろ!」

 ライオネルの怒号に慌てて、衛兵たちがダリルとオーレンを追いかける。見たところダリルたちの方が足が速そうなので、うまく逃げられたように見えた。



「こ、このクソガキ……よくもやってくれたな?」

 ライオネルは憎々しげにアーシェを見た。

「そう簡単にやられてなるもんですか。私はオーレンを伯爵の元に送り届けるのが役目だし」

「クソがっ! 調子に乗ってんじゃねえ!」

 激昂したライオネルが斧を振り上げ猛然と突進してきた。アーシェはそれを軽々と回避する。

「甘く見ないでよ、私はそう簡単にはやられないわよ!」

 剣を正面に突き出し、今にもライオネルに飛びかかろうと、体を低く構える。

「黙りやがれっ!」

 ライオネルは咆哮と共に突進してきた。しかし、突然凄まじい力が体を締め上げ、その場に立ち止まってしまう。

「――な、なんだ! どうなってやがる!」

「僕を忘れてもらっては困るな」

 その声はノエルだ。ノエルが束縛の魔法を使って、ライオネルの動きを封じた。ライオネルもマジックアイテムの力で、魔力を跳ね除けることが可能だが、どう足掻いてもできない。

「どうして、魔法を解除できない!」

「無駄だ。僕の魔力は君如きに破られはしない」

 ノエルは冷静かつ自信に満ちた表情で言った。

「さっすがノエル、やるぅ」

 アーシェが嬉しそうに言った。しかしそんなところに衛兵が十数人ほど囲むように突撃してくる。

「アーシェ、まだ敵はいるぞ!」

 ノエルが叫ぶ。

「わかってますって!」

 アーシェは頭上高く飛び上がると、その真下に向かって剣を振った。するとその刃から赤い閃光が周辺に向かって飛び出した。

 その閃光を受けた衛兵たちは気を失って、次々に倒れていく。

 まだ何人かいる衛兵は、彼女たちの強さにたじろいて、その場から動けない。

「き、貴様らっ! 何をやっている!」

 ライオネルが怒鳴る。慌てて動こうとする衛兵もいたが、多くはアーシェとノエルの強さに尻込みしてしまっていた。

「アーシェ、防御は僕がやる。思いっきり蹴散らしてやれ!」

 ノエルは言った。

「了解! さあて、やっちゃいますか!」

 アーシェは腕をぐるぐる回して剣を構えた。衛兵たちはそれに恐怖を感じ、その場にへたり込んだり、逃げ出そうとするものまで出てきた。

「待て、逃げるな! この意気地なしども!」

 ライオネルは、衛兵を叱咤するが、まったく効果はない。衛兵たちは完全に戦意を失っていた。


「おのれ…… おのれぇっ! 舐めるなよ、このクソガキども!」

 ライオネルは己の武器、インプラカブルを天に向かって突き上げると、何か呪文を唱え始める。

「我が命に応えよ、雷の精霊! ガアァァァッ! スパークッ!」

 魔斧インプラカブルから凄まじい閃光が走った。

「キャァ!」

 アーシェは咄嗟なことで、回避できず、吹き飛ばされた。石壁に叩きつけられフロアに転がった。

「アイタタタ……ノ、ノエル?」

 ゆっくりと体を起こして周囲を見渡すと、そこら中にボロボロになった建物の残骸と衛兵たちが散らばっていた。すぐそばに倒れて動かない衛兵に声をかける。

「ちょっと君、大丈夫? ……!」

 その衛兵から返事は返ってこない。先程のライオネルの攻撃の巻き添えをくらったのだろう。よく見れば、他の倒れている衛兵も同様で、おそらく息をしてない。

「ひどい……ちょっとオッサン! この人たち、あんたの仲間でしょ! 仲間を巻き添えにするってどういう神経してるのよ!」

「クックック……そりゃ、決まってんだろ。こういう神経してんだよ! この役立たずどもがっ!」

 ライオネルはそう叫ぶなり、そばに倒れていた衛兵の亡骸を蹴飛ばした。その冷酷さにアーシェの怒りが高まってくる。

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