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伯爵の元へ

 坑道からはほぼ一本道の通路だった。特に何もなく、結構長い道だったと思うが、出口に到着したのは予想以上に早かった。外に出ると、見覚えのあるスラム街である。衛兵らしき人影もない。

「こんなところに出るんだな。君たちの隠れ家はここからだとすぐだろう」

「おう。そこの道を入ったところだ。すげえだろ。こんな通路があるんだぜ」

 ダリルは得意げに言った。続いてアーシェが言う。

「ほんとだね。全然見つかることなく、ここまで来ちゃったよ。さあ、いざオーレンの元へ!」

「よっしゃ、行こうぜ」



 レジスタンスのアジトにはすぐに到着した。中に入ると、メンバーの若者が気がついて歓迎してくれた。そして、部屋の奥にあるテーブルにはオーレンが待っている。

「よく来てくれました」

 オーレンは笑顔で歓迎してくれた。アーシェももう傷が癒えて問題ない状態であることも喜んでくれた。お互いの健在を確認して、軽く世話話をした後、ノエルが話を切り出した。

「僕たちに何かしてほしいようだけど、何事だろうか?」

 オーレンは笑顔から一転し、真剣な顔になると、アーシェとノエルに頼みたいことを話した。

「――まず何がしたいのかというと、私はウィスラー伯爵に会うつもりです」

「えぇ、伯爵に? それは無理でしょ」

「そうだ。どうやって会うつもりだ? それに話を聞くとも思えないが……」

 アーシェもノエルも否定的だ。どう考えても無理そうなのは明らかで、当然の反応と言えた。

「無理だと言うのはわかります。しかし、私は会って話をしなければならないのです」

「なぜ?」

「ロドネスの横暴をなんとかしなくてはなりません。この街でいくらロドネスに抵抗しても、どうにも事態は変わりませんでした。しかし今、ロドネスが仕える伯爵が来ています。伯爵にロドネスの横暴を訴えなくては、もう手立てはありません」

「確かにそうだけど……」

 アーシェには、言うことはわかるが、それでも無理じゃないかと思った。

「ものすごい警護だぞ。あれを突破するのは、たとえ僕らが支援しても無理だ」

 ノエルは言った。しかし、彼ら聖騎士の力であれば実は難しくない。しかし、オーレンのような清廉な人物を危険な目に合わせるわけにはいかない。この街を平和に治めていくには、オーレンのような人物が上に立つべきである。ノエルはそう考えていた。

「この街の外壁を通るのです」

 オーレンが言った。

「外壁? それって、街の周囲をぐるっと囲んでいる?」

「そうです。あの外壁はかなり古いのですが、人が歩くことができます。また、ほとんど人も近寄らないこともあって、警備はほぼありません」

「そんなものが……」


 トーランの市街地を囲むように、大きな外壁がそびえている。これは街を守るための城壁で、良質な鉱物が産出され始めた頃に、この鉱山を外敵から守る目的で作られたようだ。

 かなり大きな城壁で、内部に通路もある。しかし、オーレンの言う通り、かなり古い建造物であることもあり、あちこちに損壊がありボロボロだった。倒壊の危険もあって、ゴロツキも近づかない。


「外壁の南側から侵入し、東側を通ります。西は途中で倒壊して通行できませんが、東は問題ないです。北側まで行って、そこから官庁区へ侵入するのです」

 オーレンは言った。すでに事前の調査はしてあるらしく、かなり具体的に計画を話した。

 計画では、オーレンがこの外壁を通って、ウィスラー伯爵のところまで行くのを手伝ってほしいということだった。途中何があるかはわからないが、優れた剣士であるアーシェと、優れた魔法使いであるノエルがいれば、ここを突破するのも不可能ではないと考えているようだ。

 ノエルは話を聞きながら、ずっと黙り込んでいる。アーシェも黙って聞いているが、少し表情が明るい。

「ダリルが案内してくれる。同行するのはダリルとあなた方二人で、四人です」

「ダリルが案内してくれるの?」

「はい。こういった場所は、私はあまりよく知らないのです。しかしダリルは詳しい。彼に案内してもらうのが一番確実です」

「そういうこった。この街のことなら俺が一番詳しいんだぜ」

 ダリルは自信満々な顔で言った。

 しかし、ノエルの表情は渋い。あまり計画に乗り気ではないような顔である。それを見たアーシェが声をかける。

「ねえノエル。いいじゃん、もしかしたらうまく行くかもしれないよ」

「そんな簡単な話じゃない。その直訴ができたとしても、それを聞き入れるとは限らない。そして聞き入れられない場合――オーレン、君が逮捕される可能性がある。最悪、その場で殺される可能性すらある。君はこの街にはなくてはならない人だ」

「そう言ってもらえるのは光栄なことです。しかし、このままでは何も変わらない。ここで何かをしなくては、ロドネスの横暴を止めなくてはなりません。お願いします、力を貸してください」

 オーレンはそう言って頭を下げた。

「ねえ、ノエル。手伝おうよ」

 アーシェが言った。

「しかし……もっといい方法があるかもしれないじゃないか」

「そんなこと言って行動しなきゃ、いつまで経っても変わらないわよ。私、オーレンのこと気に入ったわ。ノエルが何を言おうが私は協力する」

 アーシェは断言した。アーシェはこういう話に弱い。

「ありがとうございます、アーシェさん」

「さすがはアーシェ。美少女剣士ってのは伊達じゃねえな!」

 ダリルが嬉しそうに言った。

「でしょ。まあ私に任せてよ。きっと伯爵のところまで送り届けてあげるわ!」

 アーシェは自信満々に宣言した。

「お、おいアーシェ。そんな勝手に――」

 ノエルが言いかけるも、もう場の空気は出発に向けて動き始めていた。

「やれやれ……これだからアーシェは……」

 ノエルは頭を掻きながら渋々つぶやいた。



 すぐに行動したほうがいいということで、早々に準備して、二時間後には出発した。

 ダリルは衛兵のいない道をよく知っており、南外壁まで衛兵の姿を一度も見ることはなかった。

 アーシェは感心した様子でダリルに声をかけた。

「ダリルって本当にこの街に詳しいねえ。さすが!」

「当然だろ。このトーランで生まれて、街中走り回って遊んでたんだぜ。街のことなら俺に任せろって」

 ダリルは得意な顔をして言った。

「――それで、ここが南側の街の外壁か」

 ノエルが、巣美えるような巨大な壁を見上げてつぶやいた。

 眼前には二、三十メートルはあろうかという巨大な壁がそびえている。石煉瓦でできており、中に通路もあるらしいというのもあり厚みも相当あるように感じる。防御用なのだから、ゴツいのは当然だろう。

「さあ行こう。ぐずぐずしてはいられない」

 オーレンはそう言って、すぐに壁面にある出入り口へ歩いていく。アーシェたちもすぐについていった。



 壁の中へ入ると、細い通路が左右にずっと続いている。西側は途中で壊れているという話で、アーシェたちが進む方は東側――左側だ。

 中は本当に使われていないようで、ボロボロの内部はあちこちが破損していて、迂闊に歩くと床板を踏み抜きそうだ。しかしダリルはよく心得ているようで、躊躇なく進んでいく。みんなダリルの通ったところを歩くようにした。少し進むと、外に出る戸があり、ダリルはここを通り抜けた。

 その通り抜けた先は、壁の外側だった。

「ここからは外を歩くぜ。みんな、気をつけてくれ」

 ダリルが言った。


 外壁の外は絶壁の崖だった。トーランの周囲は渓谷があり、そこを天然の堀としてしていた。深い渓谷と高い城壁に守られたこのトーランは、まさに要塞と呼ぶにふさわしい。

 しかし、どうしてこんな壁の外を歩ける通路が備えられているのか不思議だったが、もしかすると、今のように城壁としては役目を終えた後、その後の時代になって後付けされたのかもしれない。

「高いわねえ。どのくらい高さがあるのかしら?」

 アーシェが言った。アーシェは四人のうちの、一番後ろを歩いている。

「十階建ての建物より高さがあると思うぜ」

 一番前を歩いているダリルがアーシェに向かって言った。

「落ちたら助からないわね」

「……それをいうな。足がすくむぞ」

 ノエルが少々不機嫌気味に言った。

「気をつけてください。この通路も結構古いですから」

 オーレンが言った。オーレンも表情が固く、かなり無理をしている風だった。

 


「本当にいないねぇ」

 しばらく進んだ頃、アーシェは周囲をキョロキョロしながら言った。危険と隣り合わせの壮大な景色と、無機質な城壁以外何もない。

「なんもねえからな。てか、いるのは俺たちだけだろ」

 ダリルも周囲の様子を眺めて言った。人気はなく、街の賑わいも聞こえてこない。壁に完全に遮断されているようである。

「もう少しで壁の上に上がるぜ。この先に梯子があるんだ」

 ダリルが言った。


 ダリルの言う通り、梯子があり、そこを登って、城壁の途中でまた壁の中へ入った。そして、壁内の狭い通路を通っていくと階段がある。それをずっと登っていくと、戸があった。

「この先が外壁の上だ。目的地はもうすぐだぜ」

 ダリルが戸を開けて、外の様子を見る。誰もいないようである。

「よし、大丈夫だ」

 ダリルの合図でアーシェたちも外に出た。

「ここも高いわねえ」

 アーシェは眼下に広がる街を眺めた。しかしこの辺りだと街並みというよりも、官舎や遺跡のような神殿などしか見えない。そしてこの何処かにウィスラー伯爵がいるようだ。

「さあ行こう。ダリル、降り口は?」

 オーレンが言った。

「ああ、こっちだ」

 アーシェたちはダリルの跡をついていく。程なく街側の方へ降っていく石の階段があった。ダリルはこの階段を降りていく。壁の途中でまた壁の中へ入る。それを見たアーシェは不満げにつぶやいた。

「また狭い通路歩くわけ?」

「そうだぜ。でもこれで最後だ。次に外に出たら地上だ」

 中に入って、また階段を降りていく。この道中はまさにダンジョンのようだ。

 そしてまた戸があり、ダリルがそこをそっと開けて外の様子を見る。

「――大丈夫のようだな。みんな、行こう」

 ダリルの合図にアーシェたちも外に出る。

「ここはもう自由に出入りできる場所じゃない。衛兵もあちこちにいる可能性がある。アーシェさん、ノエルさん。どうかお願いします」

 オーレンが真面目な顔をして、アーシェとノエルに護衛を要請する。

「任せといてよ。誰が来ようがこの美少女剣士アーシェちゃんがコテンパンに蹴散らしてあげるんだから」

 アーシェが自信満々に宣言する。しかしノエルが深刻な表情で言う。

「……早速、役目を果たす機会が来たようだ」

 その言葉に呼応するように、周辺から武装した兵隊が出てきた。衛兵だ。見つかってしまったらしい。そして、ここでは絶対に聞きたくない厄介な男の声が聞こえてきた。

「フフン、ようやく見つけたぜ――お尋ね者」

 そう言って姿を見せたのは、衛兵たちのボス、騎士ライオネルだった。

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