ロドネスの野望
ダリルはロゼッタの宿にやってきた。衛兵の数は見るからに減っている。やはり伯爵のお出迎えの方が重要なのだろう。しかしこれは好都合である。一昨日までは街で何度も見かけた騎士ライオネルも今日はまったく見かけない。
ダリルはアーシェたちの部屋に駆け込むと、すぐにオーレンが会いたいと言っている旨を伝えた。
「オーレンが僕たちに?」
ノエルが言った。
「ああ、ウィスラー伯爵がやってくるんだが、それについて、何か考えがあるみたいなんだ。あんたらにそれを手伝ってほしいようなことを言っていたぜ」
「ふむ……何をするつもりなんだろうか?」
「まさか伯爵に会って、ロドネスをクビにしてくれっているんじゃないの?」
アーシェが言った。
「まさか。そんな大それたことはオーレンたちには無理だろう。あまりに無謀すぎる」
「いや、そのまさかなんだ。そのために何かしたいようなんだが……」
「正気か? 僕たちに何かできるのなら、力になりたいとは思うが、僕らも任務がある」
「ああ、それはわかっているぜ。オーブを探しているってんだろ。でも――頼む! 力を貸してくれよ」
ダリルは土下座して頼み込んだ。ノエルは困った顔をしたものの、手伝う気になったようだ。
「……しょうがないな。アーシェ、とにかく言って話を聞いてみよう」
「いいの? まあ、ノエルがいいって言うなら私は文句ないけど」
「ありがてえ! じゃあ、ついてきてくれ。衛兵にみつかりにくいルートがあるんだ」
ダリルはすぐに飛び上がると、二人に手招きして部屋を出て行った。アーシェとノエルはその後をついていく。
宿の裏口から出てくると、隣との間の狭い路地を進んでいく。薄暗く、お化けでも出てきそうな雰囲気である。
「ねえ、アジトに行くんでしょ? こっちじゃ反対方向じゃないの?」
アーシェが言った。確かにレジスタンスのアジトとは反対方向に進んでいる。ノエルも疑問に思っているようだ。
「ああ、でもそれでいいんだ。この街は高山の街だったからよ、あちこちに穴掘った後の通路が地下にあるんだ」
そう言って、路地の途中で立ち止まると、近くに木の板が数枚立てかけてあるところに行った。
「ここもそうなんだ」
そう言って、木の板を除けると、そこに小さめの洞穴があった。少し屈んでであれば何とか通れそうな大きさだ。
ダリルは、持っていたカバンからランプを取り出して火をつけた。そして洞穴の先を照らす。中は大分先まで続いているようである。
「少し入ったところに横穴が空いている。そこから古い坑道に出られるんだ。その行動はスラムの方までつながっているんだぜ。出たらアジトはすぐそこなんだ」
アーシェとノエルは、ランプに照らされた中の様子を眺めて言った。
「まさに鉱山の街だな」
「前のもそうだけど、街の地下はダンジョンなんだねえ。ねえ、ノエル。なんかワクワクしてこない?」
「あのなぁ……僕たちは遊んでいるんじゃないんだぞ」
「わかってるって。さ、行こう! ほらほら、ダリル。ノエル」
アーシェはノエルとダリルの背中を押して、洞穴へ入っていった。
そんな頃、ウィスラー伯爵がトーランに到着したということで、伯爵の馬車が通る大通りでは、大勢の見物客でごった返していた。先頭は衛兵たちのボスである騎士ライオネルで、以下三十人ほどの衛兵が馬車をぐるりと囲んでいる。また、通りと見物人の間には一定間隔で完全武装した衛兵がずらりと並んで、見物人を睨んでいた。
この見物客の中には、レジスタンスのメンバーも複数おり、状況を監視していた。
ウィスラー伯爵が貴族たちの区域に入っていくと、もう一般人の目には届かず、あれほどいた見物客もあっという間に散っていった。
伯爵を乗せた馬車が官邸に到着すると、ロドネス以下、官僚と貴族たちが総出で出迎えた。
馬車の戸が開き、ウィスラーが出てきた。眼前に平伏しているロドネスたちをジロリと睨む。その鋭い眼光には、武名を轟かせた威厳が備わっている。
「おいでくださり、誠に光栄至極にございます」
ロドネスが挨拶をした。ウィスラーは特に表情を変えることなく、落ち着いた様子で言った。
「うむ、ここに来たのも随分久しぶりのように思う。とりあえず中で話を聞こう」
ウィスラーは役人に案内されて官邸内に入っていく。ロドネスたちもそれに続いて入っていった。
官邸内に貴賓室がある。通常、伯爵のような要人はここに通されて、もてなされる。豪奢な内装であり、ここへ通されるのは余程の人物である証拠である。ウィスラーはロドネスが仕えている君主であるから当然ここに通される。
庶民の口にはとても入りそうにない料理を食べながら、ウィスラーは言った。
「わしがここに来たのは、もう言うまでもないだろうが……ロドネスよ、オーブはどうなっている」
「はは。今、ようやく場所の特定が出来、発掘作業を続けているところです」
ロドネスが言った。
「そうだ、特定できたと報告があったな。よくやった。とにかく急がせろ。これは我らにとって、とても重要なものなのだ」
「はは、お任せください。ついぞ昨日も発掘を急ぐよう命じたばかりでございます」
得意げなロドネスの顔を見て、ウィスラーはトーランに来て初めて、ニヤリと笑みをこぼした。
「そうか。よし、後で発掘場所を視察する。案内せよ」
「ははっ!」
発掘現場では、かなり急ピッチの作業が進められていた。実作業に従事しているのは、外から雇われた男たちだった。皆、どこの誰かも出生も不明だというようなゴロツキや流れ者ばかりだった。街の住民は従事していないどころか、この現場に入ることさえ禁じられていた。
これらの作業員を監視しているのが衛兵や役人だ。作業員たちがゴロツキ連中であることもあって、衛兵などには横柄な態度のものが多く、しょっちゅう揉め事が起きていた。
監視員の衛兵が合間に仲間と話をしている。
「おい、伯爵様が視察に来るってよ」
「やっぱり来るのかよ。クソッ、あの役立たずどもがグズグズしやがるから痺れを切らしたな」
「まったくだぜ。どいつもこいつもまともに仕事できねえのかよ。ほんと使えねえよな。にしても、伯爵様が来るってなると、またロドネス様がうるせえよな」
「だよな、ほんとに辛えわ」
お互いに愚痴を言い合っている。そんな時、近くで作業していた作業員数人からどよめきが起こった。
「おい、どうした?」
「え、衛兵さま! あ、あれ! あれって――」
「何?」
衛兵が覗いてみると、そこには古びた地下通路があった。ランプで通路を照らしてみると、奥に大きな部屋があるように見えた。
「おい、これって……」
「まさか見つかったのか?」
「とりあえず上に報告しろ」
衛兵たちの間でも騒ぎになる。しかし、衛兵たちを指揮監督している貴族から「これ以上口外するな」との厳命が下された。そして、この場所以外を発掘しろと命令させて、作業員たちは他へ回された。
「至急、ロドネス様だけに報告せよ。それ以外には、くれぐれも内密にするのだ」
「はは」
「何! 見つかっただと?」
ロドネスは驚き声を上げたが、すぐに口をつぐんだ。ここは市長室で、ロドネスと彼の側近しかいない。しかし、伯爵とその家来たちに知られたくないので、あまり大騒ぎするわけにはいかないのだ。
「伯爵には言っていないだろうな?」
「はっ! ロドネスさまだけに報告せよと命じられました」
「よし、これから俺も行く。伯爵にはまだ発掘を続けている、見つかったことは絶対に言うな」
ロドネスは何を考えているのだろうか? 探しているものが見つかったと報告が来たにもかかわらず、伯爵には報告しないとは。
ロドネスの野望に満ちた眼光が鈍く光る。その目には何かの企みを企てている色をしていた。




