仕組まれた危機
朝。
王都は、いつも通りのざわめきに包まれていた。
――表向きは。
「……外出、ですか?」
医務室のベッドの上で、アオイが少し驚いた顔をする。
「ああ」
カイルが頷く。
「軽い任務だ。空気を変える意味もある」
レオンが補足する。
「ずっと中にいれば、余計に目立つ」
ノアが肩をすくめた。
「ま、散歩ついでってやつ」
「……でも……」
少しだけ、不安がよぎる。
あの広場の出来事。
ミサキの視線。
(……また何か……)
その考えを――
「俺たちがいる」
カイルが遮る。
迷いのない声。
「……はい」
小さく頷く。
⸻
王都・市場通り。
人の流れ。
行き交う声。
「……すごい……」
アオイが目を輝かせる。
「初めて来たのか?」
ノアが笑う。
「ほら、あれうまいぞ」
自然に、肩を引き寄せる。
「……ちょっ……ノアさん……」
距離が近い。
「迷子になるだろ?」
「なりません……!」
そのやり取りを、少し離れてカイルが見ている。
「……」
無言。
だが視線が鋭い。
レオンが横で小さく言う。
「過保護が過ぎるな」
「……」
カイルは何も答えない。
ただ――視線を外さない。
そのとき。
「――来るぞ」
ユリウスの声。
一瞬で空気が変わる。
「……え?」
アオイが振り返る。
次の瞬間――
爆音。
市場の一角が、弾けた。
「きゃああああ!」
悲鳴が広がる。
煙。破片。
「……っ!」
アオイの体が硬直する。
(……これ……)
(……わざと……?)
「アオイ、下がれ!」
レオンが即座に前に出る。
ノアも動く。
「チッ、来たな……!」
煙の中から、影が現れる。
黒装束の男たち。
明らかに、一般人ではない。
「標的確認」
低い声。
「対象――アオイ」
「……っ!」
空気が凍る。
「やっぱりか」
ノアが笑う。
だが目は鋭い。
カイルが前に出る。
「ここは通さない」
短く宣言。
その瞬間――
敵が一斉に動いた。
速い。
「散開しろ!」
レオンの指示。
ノアが一人を迎え撃つ。
「おらっ!」
剣がぶつかる。
火花。
カイルは二人を同時に抑える。
圧倒的な力。
ユリウスは後方で詠唱。
「拘束術式、展開」
光の鎖が走る。
だが――
一人が、すり抜けた。
一直線に、アオイへ。
「……!」
体が動かない。
(……やばい……)
その瞬間――
「させるか!」
ノアが割り込む。
だが、間に合わない。
刃が迫る。
(……守らなきゃ……)
あの時と同じ感覚。
胸が、熱くなる。
「……やだ……」
小さく呟く。
「……もう……誰も……」
光が、弾ける。
アオイの足元から、魔力が広がった。
ドンッ、と空気が震える。
刃が、止まる。
いや――
弾かれた。
「なっ……!」
敵が驚く。
そのまま、吹き飛ばされる。
周囲の人々を包むように、光が広がる。
防御。
完全な“守り”。
「……また……」
ユリウスが呟く。
「この規模……」
レオンが息をのむ。
「制御している……?」
カイルは、ただ見ていた。
「……あれが……」
確信する。
「こいつの力だ」
ノアが笑う。
「すげーな、お前」
だが戦いは終わらない。
残りの敵が、撤退の合図を出す。
「……撤収」
煙玉。
視界が遮られる。
「逃がすか!」
ノアが追おうとする。
だが――
「待て」
カイルが止める。
「深追いは危険だ」
煙が晴れる。
敵の姿は、消えていた。
静寂。
そして――
ざわめき。
「……今の……」
「またあの子が……」
「守った……?」
視線が集まる。
アオイは、立っていた。
息を荒くしながら。
「……はぁ……」
膝が、少し震える。
その体を――
カイルが支える。
「無理するな」
「……だいじょうぶ……です……」
そう言いながらも、少し寄りかかる。
ノアが近づく。
「ほんと無茶すんなって……」
自然に、頭に手を置く。
「でも助かった」
レオンも静かに言う。
「……判断は正しかった」
ユリウスは一歩近づく。
「……やはり、狙われている」
その一言で、空気が変わる。
カイルの目が鋭くなる。
「……ああ」
「守りを強化する」
アオイを見下ろす。
「絶対に、手放さない」
低く、はっきりと。
その言葉に――
誰も反論しなかった。
⸻
その頃。
王城の奥。
「……失敗、です」
報告を受けるミサキ。
「……そう」
表情は変わらない。
だが、指先だけがわずかに強くなる。
「……やっぱり、甘かったわね」
ゆっくりと立ち上がる。
「次は――」
微笑む。
「もっと確実にいきましょう」
目が、冷たく光る。




