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2_07 思惑×3

 朝焼けの霧の中に、遠くに赤く濁った目が並んでいた。


 数は、どこかの国民的映画のように埋め尽くすほどではない。


 ただ、それと、安心できることはまったく別の話だった。


 急ごしらえの防壁の上で、ガルドは息を細く吐いた。


 ここは、澪のログハウスからは見えない。


 森の奥、澪の生活域からは外れた場所。負傷者や避難者をさらに奥へ通すため、その手前に築いた壁だった。


 位置関係で言うと、放棄した前哨基地と、負傷者の避難所との間に位置している。


 倒木を組み、杭を打ち、土を盛り、外側には堀を掘ってある。森の中には足を引っかけるための縄も仕込んだ。


 だが、急造は急造だし、大半は子供だましだ。


 長く保つ構造ではない。


 ここは、勝つための場所ではなかった。時間を稼ぐための場所だった。


「距離を取っていますね」


 横でドーンが言った。


「すぐ突っ込んでくるかと思ったがな。あいつらに脳みそがまだ残ってたなんて驚きだ」


 ガルドは森の奥を見た。


 敵の前列は、肉食系の兵のみだった。黒っぽい鎧をまとい、爪を地面に食い込ませ、獣のように低い姿勢でこちらを見ている。


 だが、その後ろに、戦士ではない者がいた。


 細い体。骨飾り。黒い布。乾いた皮をつなげたような上着。手には杖のようなものを持っている。


 風もないのに、その周囲だけ空気が揺れて見えた。


「……あれは何だ」


 防壁の下で、誰かが言った。


 ガルドは目を細めた。


「前の時にもいた。まじないしみたいな奴だ」


「まじないし?」


「あれが、ほら、何かやっていると、矢や石が効かなくなるわけのわからん歪みみたいなのが生まれる」


 言い終わるより早く、見張り台から矢が放たれた。


 矢はまっすぐ飛んだ。


 はずだった。


 まじないしの前に差しかかった瞬間、見えない膜に触れたように矢尻がぶれた。速度が落ち、軌道が曲がり、敵の足元に落ちる。


 続けて放たれた矢も、同じようにずれた。


 投石用の小さな石も、空中で力を失ったように地面を転がった。


「本当に効かねえのかよ」


 防壁の上で、誰かが低く言った。


「全部ではありません」


 ドーンが、板を抱えたまま言った。


 前線に出るような男ではない。けれど、物資と人の配置を動かすには、結局、彼が見ている方が早かった。


 その目は、まじないしの周囲を追っている。


「前より薄い、ように見えます」


「よくそんな違いが見えるな」


「見えると言うより、失敗が増えていると言うべきでしょうか」


 ラージュが、壁の内側から大きな石を持ち上げた。


 普通の者なら、二人がかりでも持てない大きさだった。


「大きい石ならどうですか」


「試す価値はあります」


「じゃあ、試します」


 ラージュは大きく振りかぶった。


 投げた。


 石は低いうなりを上げて飛び、まじないしの前で一度だけ揺らいだ。勢いはかなり殺されたが、それでも完全には止まらない。前列の兵の何人かを吹っ飛ばし、土を跳ね上げた。


 敵がわずかに下がる。


 だが、吹っ飛ばされた兵士はゆっくりと立ち上がり、何事もなかったかのように元の位置に戻る。


「まあ、一応通りはしますね」


 ドーンが言った。


「次弾は?」


「もう無いっす」


手ごろな大きさの岩なんてごろごろしているわけもなく、ラージュはしょんぼりしていた。


「ダメじゃねえか」


 ガルドは舌打ちした。


 向こうも分かっている。


 こちらの遠距離攻撃は完全には死んでいない。だが、決定的でもない。まじないしの守りは、開拓村で見た時より薄い。澪様の領域に近いせいかもしれない。


 だが、敵はそれ以上近づかない。


 まじないしの守りが一番濃く効く距離を、探っているように見えた。


「あいつらの中にも、まだまともな脳みそのやつが残っているらしい」


 ガルドが言うと、ドーンは小さく頷いた。


「全員が獣のように突っ込んでくるなら、まだ楽だったのですが」


「楽か?」


「まあ、比較の問題ですね」


 ドーンの声は静かだった。


 やがて、まじないしが杖を地面に打ちつけた。


 音は小さい。


 だが、前列の肉食獣人たちが一斉に動いた。


 走る、というより、跳ぶような動きだった。


 低く、速く、まっすぐに。


「来るぞ!」


 防壁の上で声が飛ぶ。


 矢が放たれる。


 石が投げられる。


 しかし、勢いは削られ、狙いはずれた。何本かは当たった。だが、黒い鎧に弾かれ、刺さっても動きは止まらない。


 敵は堀に足を取られた。


 前列の一人が落ちる。続いた者がその上に乗り、後ろから来た者がさらに押し込む。


 普通なら、そこで動きが止まる。


 だが、彼らは違った。


 爪で土を削り、壁に手をかけ、下の仲間を踏み台にして登ろうとする。骨が鳴る音がした。誰かの肩がありえない方向に曲がった。


 だが、声は上がらない。


 痛みが、遅い。


 あるいは、届いていない。


「堀で止まっているうちに落とせ!」


 ガルドが叫んだ。


 防壁の上から長柄の棒が突き出される。鉤のついた農具が敵の腕を引っかける。だが、黒い鎧に刃が滑り、爪が杭を削る。


 ラージュが壁の内側から前へ出た。


 大きな鋤を片手で持ち、壁に手をかけた敵を横から殴る。


 鈍い音がした。


 敵は壁から剥がれ、堀へ落ちた。


「どうですか」


 ラージュは、すぐ近くの兵に聞いた。


「何がだ!」


「強そうに見えますか?」


「まあ、そりゃな!」


 ラージュは少しだけ満足げに頷いた。


 そして、二体目を鋤で押し返しながら、もう一度聞いた。


「怖そうに見えますか?」


 兵は、壁に取りつこうとする敵を棒で押し返しながら叫んだ。


「笑顔で聞いてる間は無理だな、あきらめろ!」


「ぐうう……」


 ラージュは本気で悔しそうな顔をした。


 そのまま、三体目を堀へ叩き落とした。


 本人の中では、今の自分はかなり悪そうな立ち回りをしているつもりらしかった。


 敵が堀の中で暴れる。


 強い。


 間違いなく強い。


 だが、動きは単純だった。


 壁に来る。登る。押し返される。堀で暴れる。また登ろうとする。


 それだけなら止められる。


 ただし、止め続けられれば、の話だ。


 黒い鎧に剣が弾かれた。


 防壁に取りついた敵の腕を切り落とそうとした兵が、逆に手首を掴まれた。引きずり込まれそうになる。


「離せ!」


 隣の兵が槍を突き出す。


 弾かれる。


 敵の赤い目が、壁の上へ向いた。


 その時、別の兵が半ばやけで、手に持っていた鍬を振り下ろした。


 澪の倉庫から出てきた、妙に数のある農具の一つだった。


 鍬の刃が、黒い鎧に妙な音を立てて食い込んだ。


 敵の腕が、一瞬だけ止まる。


「……入った?」


「わからん! もっかいやってみろ!」


「もっかいって!」


「いいからやれ!」


 鍬を持った兵は、ほとんど泣きそうな顔でもう一度振り下ろした。


 今度は、肩口だった。


 剣では弾かれた黒い鎧に、鍬の刃がまた入った。深くはない。だが、確かに入った。


「やっぱり効きます!」


「マジか!」


「なんでこの鍬が効くんすかね!?」


「知らねえ!?」


「澪様の道具だからっすかね?」


「ああー……」


 その場にいた数人が、妙に納得したような顔になった。


 弾かれた農具は獣人たちのもので、通った農具は澪から借りた物だった。


「まあ、細かく考えてもしゃあねえ! 効くなら使え!」


 ガルドがすぐに声を張った。


「澪様の農具を前に出せ! 剣は足止めだ! 黒い鎧には農具を使え!」


 ベロームも続けた。


「倒しに行かないでください! 壁から剥がす、堀へ落とす、近づいたものだけを止める! 抜かせなければこちらの勝ちです!」


 勝ち。


 それは、敵を全て殺すことではない。


 時間を稼ぐことだ。


 こちらには食料がある。味はともかく、量はある。布もある。消毒に使える酒もある。負傷者を寝かせる場所も、少しずつ整っている。


 だから、持てばいい。


 その間に、相手が崩れる可能性はある。


 こちらが崩れる可能性も、もちろんある。


 だが、正面から討ち取ろうとするよりは、まだ勝ち筋があった。


 農具を持つ兵が前へ出る。


 鍬が黒い鎧に食い込んだ。


 鋤の先端が、敵の足を裂いた。


 鎌が腕の隙間に引っかかり、壁から剥がす。


 敵は痛みに叫ばない。


 だが、動きは止まる。


 澪の農具で傷つけられた場所だけ、黒い鎧の色が濁り、薄く崩れるように見えた。


「効いている」


 マーヤが小さく言った。


 それは希望だった。


 同時に、不気味でもあった。


 防壁の下で、まじないしが杖を振った。


 今度は、敵側から矢が飛んだ。


 細い骨のような矢だった。普通の矢より軽く、速い。音もほとんどしない。


 狙いは、ドーンだった。


 ドーンは気づいた。


 だが、避けるには遅すぎた。


 近くにいた兵が声を上げる。


 ガルドも振り向いた。


 間に合わない。


 矢は、ドーンの胸元に届く直前で消えた。


 折れたのではない。


 逸れたのでもない。


 燃えたわけでもない。


 最初からそこになかったように、ふっと消えた。


 ドーンは一瞬だけ固まった。


 それから、自分の胸元に手を当てた。


「……今、何かありましたか」


「ありましたよ!」


 近くの兵が叫ぶ。


「矢が! 今、矢が!」


「そうですか」


 ドーンは顔色を変えずに言った。


 ただ、その声はいつもより少しだけ硬かった。


「まあ、それはそれとして正念場ですよ」


「ええっ!?」


「今は前を見てください。死にます」


 兵は慌てて前を向いた。


 ドーンも前を見た。


 だが、ほんの一瞬だけ、彼は澪のログハウスがある方角へ視線を向けた。


 借りが増えた気がした。


 そう思った。


 それが正しいのかどうかは分からない。


 だが、ドーンは、そういう種類の感覚を無視するほど鈍い男ではなかった。


     


 戦いは、長くは続かなかった。


 少なくとも、最初の衝突としては。


 ヴァルガ側の兵は、何度か壁へ取りついた。堀に落ち、杭に引っかかり、ラージュに押し返され、農具で傷つけられた。


 決定的な崩壊は起きなかった。


 澪の農具がヴァルガ側の兵士の鎧を砕くたびに、兵士から力が抜けて行くのが判った。


 だが、防衛側も無傷ではない。


 腕を折られた者がいる。爪で顔を裂かれた者がいる。壁から引きずり落とされかけ、肩を外した者もいた。


 敵は強い。


 けれど、押し返せる。


 その事実だけが、今は必要だった。


 まじないしが後ろへ下がる。


 赤い目の兵たちも、ゆっくりと距離を取った。


「追うな」


 ガルドが言った。


「壁を離れるな」


 誰も追わなかった。


 追えるほど余裕がなかった、という方が正確かもしれない。


 防壁の上に、荒い息だけが残った。


 ドーンは、敵が引いていくのを見ながら言った。


「こちらの武器を見ましたね」


「見たな」


 ガルドは答えた。


「次は対策してくるかもしれん」


「かもしれませんね。想像もつきませんが……」


 それでも、一度は押し返した。


 勝ち鬨の声を上げようとした瞬間、


 森の奥で、別の音がした。


 地面が、かすかに震える。


 鳥が飛ぶ。


 霧の向こうに、新しい影が増えた。


 数が違う。


 今までの前衛とは違う。もっと多い。隊列らしきものがあり、旗のようなものも見える。先ほどのまじないしだけではない。複数の骨飾りが揺れていた。


 その先頭に、若い肉食獣人が立っていた。


 ガルドの表情が変わった。


「……ハ・ヴァルド」


 横にいたラージュが、首を傾げる。


「誰っすか」


 ガルドは、少しだけ間を置いた。


「獣人王の子だ」


 それから、低く続けた。


「弟だ」


 空気が沈んだ。


 ハ・ヴァルドと呼ばれた若い獣人は、遠くから防壁を見ていた。


 赤く濁った目。


 けれど、先ほどの兵たちのような粗さはない。静かだった。静かすぎた。


 獲物を見ているようにも見える。


 兄を見ているようにも見える。


 あるいは、どちらでもないのかもしれない。


 ガルドは、防壁の上で拳を握った。


「向こうも本気みたいだな」


 ドーンは、すぐには答えなかった。


 言われなくても分かっていた。


 農具は効いた。


 堀も効いた。


 ラージュも、ガルドも、ドーンも、今いる者たちはよくやっている。


 ベロームも後方で新しい避難所の構成と、兵站を取りまとめている。


 だが、相手が数を増やし、まじないしを増やし、こちらの手を見た上で来るなら、同じことは続かない。


「俺が向こうへ入る」


 ガルドが言った。


 その場にいた者たちの視線が、一斉に向いた。


「……本気ですか」


 ベロームが聞いた。


「ここで冗談を言えるほど余裕はない」


「寝返るふり、ということですか」


「そうだ」


 ガルドは、森の奥にいるハ・ヴァルドを見たまま言った。


「あいつらは、なぜか俺を欲しがっている。王の血だの、古き声だの、ろくでもない言葉ばかりだった。まじないの素材にでもする気かもしれんが……向こうが欲しがっているなら、入口にはなる」


「危険すぎます」


「ここで壁の前に座っているだけの方が、危険だ」


 ドーンは黙った。


 反論したいのではない。


 反論できる材料を探していた。


 けれど、見つからなかった。


「内部に入って、何を探るつもりですか」


「まじないしの数。あの黒い鎧の正体。弟の状態。父上が、どこまであの古いものに食われているか」


 ガルドは、少しだけ口元を歪めた。


「それと、俺が本当に素材にされるのかどうかだな」


「笑えません」


「俺もあまり笑っていない」


 ラージュが、かなり嫌そうな顔をした。


 防壁の向こうで、ハ・ヴァルドはまだこちらを見ていた。


 兄を待つように。


 供物を待つように。


 どちらなのかは、分からなかった。


「いずれにしても我々では判断できません。一度後方でベローム様と相談を」


 ドーンはガルドを見てそう言う。


「判った」

     



 その日の昼過ぎには、人類側にも断片的な情報が入っていた。


 新しい防壁の前で、ヴァルガ側の兵を一度は押し返したこと。


 澪の農具が、なぜか黒い鎧に効いたこと。


 そして、ガルドが後方へ戻り、ベロームと何かを相談していること。


 もちろん、人類側に正式な報告が来たわけではない。眼の良い人間を配置しているだけだ。


 ここは森の奥であり、休戦しているとはいえ、味方ではない。



 澪は、ログハウスの前で、まだ少し落ち着かない気持ちのまま空を見ていた。


 天気はいい。それが、かえって現実感となってやってきていた。


 遠くで誰かが怪我をしているかもしれない。殺し合いがあったのかもしれない。かもしれないというよりは、事実ではあるが。


「心配ですか」


 グラーフさんが、横から静かに言った。


「まあ……そうですね」


 私は遠くの空を見ながら正直に頷いた。


「顔見知りが傷つくのは、やっぱり嫌です。まあ、独善的ですけれど。彼らの敵側にも、家族はいるでしょうし」


 グラーフさんは、少しだけ黙った。


「……そうですな」


「変なことを言っていますよね」


「いえ」


 グラーフさんは首を横に振った。


「戦場の外にいる者が、そう思うのは悪いことではありません。ただ、そのまま全部を背負おうとすると潰れます」


「はい。たぶん、私には無理です」


「わかっておられるなら、これ以上は差し出口になりますな」


 グラーフさんは、森の方を見た。


「記憶はないのですが、私の生まれ故郷では戦争というものを実際に体験した人はもうほとんどいなかった気がします。だからこんな気持ちになっているのでしょうか」


 澪の言葉にグラーフは少しだけ目を開いて、小さく首を振る。


「戦争なんてろくでもない。それは世界共通の感情ですよ。それが失われているなら、命にかかわる問題がほかにあるからです」


「そう、ですよね」


 そこへ、ラントさんとティッシさんも来た。


 ラントさんは疲れた顔をしている。ティッシさんはいつも通りだった。


「そういえば」


 ラントさんが、思い出したように言った。


「ドーンさん、死にかけたらしいっす」


「えっ」


「矢が飛んできたんですけど、当たる直前に消えたとか」


「消えた?」


「はい。折れたんでも、逸れたんでもなくて、消えたって」


「へえ……そうなんですか。不思議なこともあるんですねぇ」


 私がそう言うと、三人とも黙った。


 グラーフさんも、ラントさんも、ティッシさんも、なぜか私を見ている。


「?」


「いえ」


 グラーフさんがゆっくり首を振った。


 ここでは、ときどき変なことが起こる。


 倉庫の中身は増えるし、畑も妙に育つ。変なものが消えたり、増えたりすることだってある。そもそも、ここ自体が邪神さんの用意したよく分からない場所なのだ。


 だから、矢が消えたと言われても、そういうこともあるのかな、くらいにしか思えなかった。そもそも初めて会ったときは武器自体が消えていたし。


「澪さん」


 ティッシさんが急に真面目な顔をしてこちらを向く。


「はい?」


「一個だけ、お願い聞いてほしいッス」


「一個、ですか。まあ、見ての通り何もないですので……、内容によります」


「そんな無茶なことを言うつもりはないっスよ」


 ティッシさんは、いつもの軽い調子で言った。


「今すぐ何かしてほしいって話じゃないッス」


「はい」


「いつか、あたしが本当に困った時に、一回だけ話を聞いてほしいんスよ」


「話を聞く、だけですか?」


「はい。まずは、話を聞いてほしいッス。そのうえで無理なら無理でいいッス」


 話を聞くだけ。


「分かりました。話を聞くだけなら。なんなら今でもいいですよ?」


「ありがとうございます。今まだいいっス」


 ティッシさんは、軽く頭を下げた。


「じゃあ、その時が来たら、お願いします」


 その時。


 それがいつなのか、何を意味するのか、澪には分からなかった。


 ティッシは、少しだけ森の方を見た。


 ガルドが向こうへ入る。


 獣人側は、たぶんこのままでは本国の数に押し切られる。


 それなら、次に何が起こるか。


 澪は、そこまでは考えられなかった。


 具体的に考えたくもなかった。




 ティッシがグラーフに声をかけたのは、その少し後だった。


「グラーフさん」


「何だ」


「お願いがあるっす」


 グラーフは、少しだけ嫌そうな顔をした。

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