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第六十九話/離愁②

 幼馴染の彼女と同じ大学への進学が決まり、国宝級イケメン高校生、爽哉の人生は順風満帆だった。卒業式を迎えたその日、第二ボタンはおろか、袖のボタンからネクタイに至るまで、全て取られるモテ男ぶりを如何なく発揮する。自らが築き上げた学園ハーレムの総括とでも言わんばかりに、爽哉の周辺は華やかさに満ちていた。

 しかし、そんな彼を神は祝福しなかった……


 彼女のストーカーに襲撃され命を落とした爽哉は、稀代のブサメンとして高校生活をやり直す現実を強いられる。学園の抱える問題、断ち切れない因縁、消化不良な想い……。ブサメンの自らと向き合う覚悟を決めた爽哉は、果たして絆を取り戻すことができるのか――

 今、試練の扉が開かれる。


【登場人物】

中間爽哉なかまそうや  イケメン高校生→ブサメン高校生

藤川千絵ふじかわちえ  爽哉の幼馴染

木崎優子きざきゆうこ  第三十六代生徒会長。図書委員

小澤詩織おざわしおり  攻守両立のコミュニケーションお化け

本八幡香奈もとやわたかな 大手健康器具メーカーの社長令嬢

宮永遥みやながはるか   陸上部。インターハイ優勝候補

皆川結衣みながわゆい  第三十七代生徒会長

本条鈴音ほんじょうすずね  第三十五代生徒会長。爽哉の姉的存在

中間涼香なかまりょうか  爽哉の妹

内藤亮介ないとうりょうすけ  爽哉の親友

大里拓馬おおさとたくま  ブサメン高校生→イケメン高校生


 几帳面な優子の言う通り、ほぼ三十分きっかりでスマホが到着を知らせた。

 ソワソワしながら家を出て程なく、キョロキョロと辺りをうかがう優子の姿を視界に捉える。見知った路地に佇む彼女に嬉しい違和感を覚えた俺だったが、そんな事はすぐに頭から弾け飛んだ。戸惑うように歩み来る、その装いに息を呑む。


 浴衣だった。

 竜胆りんどうが淑やかに踊る薄紫の浴衣は、銀細工が煌めく栗色のストレートヘアと相まって涼しげに見える。日傘を差して、静々と歩くその様は深窓の令嬢を彷彿とさせる。紫の腰帯が全体のバランスを締めて、高貴な雰囲気を漂わせていた。

 その姿を捉えた瞬間、自分の普段着だと見劣りするだろうと訳のわからない感想を抱く程、俺は動揺していた。思わず着替えに戻ろうと踵を返した時、俺を呼び止める澄んだ声が響いた。


「爽哉くん!」


「あぁ……優子。ごきげんよう……」

 見つかってしまった。

 不意に、知っている限りで一番上等な挨拶が口をついて出ていた。


「ごきげんよう。びっくりした?」


「あぁ、驚いたよ……。暑かったろう。汚い家だが、お茶でも出すよ」

 俺は優子を自宅へ促す。優子は久しぶりに見せる緊張した面持ちで、お邪魔しますと囁いて玄関の扉をくぐった。


 俺の部屋がある二階へ案内しようとした矢先、階段を一人の少女が下りてくる。なんてタイミングが悪い! 我が妹、涼香だった。その場にいた全員の時が一瞬、止まった。


「……け、警察!」

 涼香は早足に踵を返した。


「待て! 犯罪じゃない! 早まるな! お前も会ったことあるだろう!」

 涼香は俺と優子の顔を、目移りするように交互に見回す。


「……や、やっぱり! 警察!」

 なんでそうなる! その時、優子がはっとしたように意識を取り戻し、声を上げた。


「お久しぶりです。涼香さん」

 優子は丁寧にお辞儀した。


「えぇーと、木崎先輩。大丈夫ですか? 連れ込まれたのなら、すぐに警察を呼びますよ」

 頭を上げた優子は笑いながら、首を左右に振った。


「いえいえ、今日は私が無理を言って、連れてきて頂いたんです。お邪魔しますね」

 涼香の顔がこの世の破滅を目の当たりにしたが如く、驚愕に染まる。階段を駆け下りると、優子の眼前へ迫り、細部に至るまで全身をくまなく眺め倒した。


「えぇーと、木崎先輩?」


「はい?」

 戸惑った様子で優子が身を固くする。


「視力は大丈夫ですか?」


「それが少し悪くって」


「やっぱり! いい眼科を紹介しますよ!」

 どういう意味だ。俺の容姿は視力測定器具じゃないんだぞ。


「おい! 涼香! いい加減に皮肉はやめろ!」


「でも、この愚兄の家にこんな美少女がやってくるなんて……。犯罪の匂いしかしない!」

 本気で怯える様子を見せる涼香に、優子は苦笑いで応じていた。


「もう、いい。行こう、優子」

 俺は涼香を無視して部屋へと急ぐ事を決めた。


「まぁ! 呼び捨てですって⁉ 破廉恥な!」

 名前を呼んだだけだぞ。俺は挑発に応じず、部屋を目指した。


「木崎先輩、何かあったら大声を上げてください。すぐに急行しますから」

 俺は涼香を睨みつけた。涼香はあかんべぇして立ち去る。


 優子は苦笑いを続けていた。


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