第六十四話/本八幡香奈②
幼馴染の彼女と同じ大学への進学が決まり、国宝級イケメン高校生、爽哉の人生は順風満帆だった。卒業式を迎えたその日、第二ボタンはおろか、袖のボタンからネクタイに至るまで、全て取られるモテ男ぶりを如何なく発揮する。自らが築き上げた学園ハーレムの総括とでも言わんばかりに、爽哉の周辺は華やかさに満ちていた。
しかし、そんな彼を神は祝福しなかった……
彼女のストーカーに襲撃され命を落とした爽哉は、稀代のブサメンとして高校生活をやり直す現実を強いられる。学園の抱える問題、断ち切れない因縁、消化不良な想い……。ブサメンの自らと向き合う覚悟を決めた爽哉は、果たして絆を取り戻すことができるのか――
今、試練の扉が開かれる。
【登場人物】
中間爽哉 イケメン高校生→ブサメン高校生
藤川千絵 爽哉の幼馴染
木崎優子 第三十六代生徒会長。図書委員
小澤詩織 攻守両立のコミュニケーションお化け
本八幡香奈 大手健康器具メーカーの社長令嬢
宮永遥 陸上部。インターハイ優勝候補
皆川結衣 第三十七代生徒会長
本条鈴音 第三十五代生徒会長。爽哉の姉的存在
中間涼香 爽哉の妹
内藤亮介 爽哉の親友
大里拓馬 ブサメン高校生→イケメン高校生
ゴールデンウィークが明け、水曜日、教室には本八幡香奈の姿があった。親友の詩織と仲良く話し込んでいる。あと数時間後には覆されるその笑顔を、俺は忸怩たる思いで遠くから眺めていた。あの時、加賀谷を取り抑えられていれば、この笑顔を守れただろうに。俺は止め処ないやるせなさに押しつぶされそうだった。
翌日、香奈は学校に来なかった。困り顔で教室に入ってきた小畑教諭は、ホームルームで簡単に事情を説明し、テレビや雑誌の取材に応じることが無いように、と強く念押しした。そして、被害者である香奈の事を温かく見守るように、と付け加えた。
週が明けた月曜日、教室には香奈の姿があった。青ざめた顔で、悲しそうに笑っている。
昼休みになり、俺は行動を開始した。
「本八幡さん」
詩織と静かに話していた香奈へ声をかけると、一瞬肩を震わせた。その瞳は怯えている。
「大事な話があるんだ。少し時間をもらえないかな?」
「……えぇ。いいよ。でも、詩織も一緒でいい? 今は……」
「あぁ、もちろん」
俺は二人を生徒会室へ案内した。事前に許可は取っている。対面の椅子を勧めると、香奈は上品に腰をかけた。詩織も見届けるように香奈の隣へ座った。
「なに? 話って……」
香奈は明らかに警戒している。
「会社の事、聞いたよ。大変だったね」
「あなたには関係ない事よ」
「そうだ。今から言う事はただのお節介だ。拒否してもらってもいい」
香奈は見定めるように俺の目をまっすぐに見つめた。
「君のお父さんの会社は、この学校へ多大なる貢献をしてくれている。生徒会としても、大変感謝している。感謝しても、しきれないくらいだ。なんとか恩を返したい」
「あなたにできる事なんてたかが知れてるわ。放っておいて」
香奈は突き放すように冷たく言った。
「……過剰な在庫があれば」
俺は言葉を切った。香奈の顔がみるみる驚きの色に染まっていく。
「それを販売するのに協力したい。生徒会にはそのアイディアがある」
「な……」
香奈の顔から血の気が引いた。
「なんで……なんで知っているの! そんな事! まだ報道もされていないはずよ!」
青ざめた顔で、声を荒らげる香奈。俺は努めて冷静に言った。
「あれば、の話だ。想像でしかない。でも、その様子なら、あるんだね」
「あなた! 何か知ってるんじゃないの⁉ あなたは過剰在庫がある前提で話を進めてるじゃない!」
香奈は勢いよく立ち上がり、肩を震わせて叫んだ。もはや理性を失いつつあった。
「悪いようには、絶対しない! ただ、君の力になりたいだけなんだ」
俺は対峙するように立ち上がり、その目をまっすぐに見た。香奈の動きが止まる。ゆっくりと深呼吸をすると、静かに椅子へ腰かけた。
「その目……詩織の時と一緒……。あなたって、何者なの?」
「ただの醜男さ。それ以上でも、それ以下でもない」
「……不思議な人。わかった。話します。他言無用ね」
香奈は鼻を鳴らすと、観念したように話してくれた。
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