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第六十五話/本八幡香奈③

 幼馴染の彼女と同じ大学への進学が決まり、国宝級イケメン高校生、爽哉の人生は順風満帆だった。卒業式を迎えたその日、第二ボタンはおろか、袖のボタンからネクタイに至るまで、全て取られるモテ男ぶりを如何なく発揮する。自らが築き上げた学園ハーレムの総括とでも言わんばかりに、爽哉の周辺は華やかさに満ちていた。

 しかし、そんな彼を神は祝福しなかった……


 彼女のストーカーに襲撃され命を落とした爽哉は、稀代のブサメンとして高校生活をやり直す現実を強いられる。学園の抱える問題、断ち切れない因縁、消化不良な想い……。ブサメンの自らと向き合う覚悟を決めた爽哉は、果たして絆を取り戻すことができるのか――

 今、試練の扉が開かれる。


【登場人物】

中間爽哉なかまそうや  イケメン高校生→ブサメン高校生

藤川千絵ふじかわちえ  爽哉の幼馴染

木崎優子きざきゆうこ  第三十六代生徒会長。図書委員

小澤詩織おざわしおり  攻守両立のコミュニケーションお化け

本八幡香奈もとやわたかな 大手健康器具メーカーの社長令嬢

宮永遥みやながはるか   陸上部。インターハイ優勝候補

皆川結衣みながわゆい  第三十七代生徒会長

本条鈴音ほんじょうすずね  第三十五代生徒会長。爽哉の姉的存在

中間涼香なかまりょうか  爽哉の妹

内藤亮介ないとうりょうすけ  爽哉の親友

大里拓馬おおさとたくま  ブサメン高校生→イケメン高校生


 過剰発注された商品は腕・ひじ用の医療用サポーターセット。

 数は一万三千個。原価は千円程度。定価は二千五百円。それは記憶にある商品と変わりなかった。


「月に百個も売れないのにね……。融資を頼んでるけど、反応は渋いみたい。製造工場に支払う代金すら立て替えてもらってるの。もうウチは終わりね。倒産するしかない……」

 香奈は自嘲するように笑う。

「で、どうやって売るつもりなの?」


 凍てつくようなその瞳に、俺は一つ頷いた。


「生徒会チャンネルで宣伝する。五千人以上の登録者がいるからな。そこで協力を募る」


「ステマじゃん!」

 それまで黙って聞いていた詩織が、おもむろに声を上げた。


「ダイレクトマーケティングだ。正攻法で行く。購買部の延長だと思ってもらえばいい」


「……が、学校にはなんて説明するの? いきなり通販番組やります、じゃ通用しないでしょ」

 俺の提案に唖然としていた香奈は 引きつった顔のまま問いかけた。


「購買部のネット販売の話は、既に進んでいる。協賛企業の商品もラインナップに上がっている。生徒会チャンネルで宣伝することも含めて、な。そこに商品が一つ増えるだけだ」

 生徒会の発言力が大きなうちに計画は進めておいた。学校側も文化祭での実績を目の当たりにして、拒否はできなかった。既に稼働直前まで漕ぎつけている。


「俺のやってる筋トレ動画との親和性も高い商品だ。問題ない」


「やばばばばば! 策士じゃん!」

 詩織は興奮冷めやらぬ様子で足をバタつかせている。


「まるであなたの手の平の上で踊ってるみたい……」

 香奈は小さく息を吐き出して、天井を仰いだ。ふと覚悟したように口元を引き結ぶと、おもむろに立ち上がって、深々と頭を下げた。


「……ありがとう。助かります。これでしばらくは会社を続けられるかもしれない」


「きっと、大丈夫。会社は盛り返すよ。健太さんならやってくれる」


「健太、さん?」

 頭を上げた香奈は、いぶかしげに俺の言葉を繰り返した。


「あー、馴れ馴れしかったな。文化祭で話したもんだから、つい……」

 口が滑った。健太さんとは以前のような食事を共にする関係ではないのだ。


「そう。旧知の仲のように言うから……。あなたって、本当に不思議な人ね……」

 そう言って笑った香奈の顔色は、朝よりも良くなっているように感じた。


 とりあえず生徒会用に五個、購入する約束をして、香奈と詩織を教室へ帰した。二人が生徒会室を出るのを見届けて、俺は長机に突っ伏した。

 助かった……なんとか話がまとまった。香奈の性格を考えると、突っぱねられる可能性が五割はあった。学校の運命が首の皮一枚で繋がった、と俺は安堵していた。


 しかし、楽観ばかりしてもいられない。記憶を辿る。イケメンだった俺が更新していた生徒会チャンネルの登録者数は一万人をゆうに超えていた。それでも、過剰在庫は五千個程度しかさばけなかった。今の生徒会チャンネルの登録者数と、俺の訴求力を勘案すると、およそ二千五百個しか売れない計算になる。俺は頭を抱えていた。何とかもっと売れるようなアイディアを考えなければ……。

 頭を上げた俺は泡を食った。目の前に森崎かなみが立っている。


「いつの間に⁉ なんでいるんだ!」

 椅子から転げ落ちそうな身体を支えながら、俺は叫んだ。


「また、お節介?」


「聞いてたのか? 別にいいだろう……」

 そっぽ向いた俺に、かなみはクスリと笑う。


「その過剰品、本八幡さんから受け取ったら私の所に持っておいで」

 かなみはきびすを返すと、悠々と生徒会室を出ていった。


 どこで聞いてたんだよ……。


 かなみが漂わせる、ただならぬ雰囲気に、俺は戦慄を禁じえなかった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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