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第五十二話/決戦前夜④

 幼馴染の彼女と同じ大学への進学が決まり、国宝級イケメン高校生、爽哉の人生は順風満帆だった。卒業式を迎えたその日、第二ボタンはおろか、袖のボタンからネクタイに至るまで、全て取られるモテ男ぶりを如何なく発揮する。自らが築き上げた学園ハーレムの総括とでも言わんばかりに、爽哉の周辺は華やかさに満ちていた。

 しかし、そんな彼を神は祝福しなかった……


 彼女のストーカーに襲撃され命を落とした爽哉は、稀代のブサメンとして高校生活をやり直す現実を強いられる。学園の抱える問題、断ち切れない因縁、消化不良な想い……。ブサメンの自らと向き合う覚悟を決めた爽哉は、果たして絆を取り戻すことができるのか――

 今、試練の扉が開かれる。


【登場人物】

中間爽哉なかまそうや  イケメン高校生→ブサメン高校生

藤川千絵ふじかわちえ  爽哉の幼馴染

木崎優子きざきゆうこ  第三十六代生徒会長。図書委員

小澤詩織おざわしおり  攻守両立のコミュニケーションお化け

本八幡香奈もとやわたかな 大手健康器具メーカーの社長令嬢

宮永遥みやながはるか   陸上部。インターハイ優勝候補

皆川結衣みながわゆい  第三十七代生徒会長

本条鈴音ほんじょうすずね  第三十五代生徒会長。爽哉の姉的存在

中間涼香なかまりょうか  爽哉の妹

内藤亮介ないとうりょうすけ  爽哉の親友

大里拓馬おおさとたくま  ブサメン高校生→イケメン高校生


 どれくらい時間が経っただろう。

 俺が最後のページに手を掛けた時、窓の外は暗闇に包まれていた。


「感想を聞かせて?」

 突然後ろから声を掛けられた俺はバランスを崩し、体重を預けていた長机から滑り落ちそうになった。手をついて、辛うじて致命傷を回避する。


「……起きてたのか?」


「ついさっきね……起きたの……」

 優子は腰かけたまま、大きく腕を振り上げ伸びをする。


「怒らないのか? 勝手に読んだこと」


「……君になら、いいかな。近い未来、読んでもらうことになってたと思うから」

 優子の顔には照れくさそうな微笑みが浮かんでいた。


「読むだけじゃなくて、書く趣味もあったのか。気づかなかったよ」


「毎日、コツコツ書いてるの……。で?」


「で?」


「感想……」

 責めるような、ねだるような瞳が催促する。


「そうだな……」

 俺は考えた。だいぶ粗削りだ。突拍子がないと言ってもいい。


「率直に言って。慰めは、いらないから」

 一瞬の躊躇いに何かを感じ取った優子は、懇願するように念押した。


「わかった……。だいぶ粗削りだ。前後を無理矢理繋げるために、設定に矛盾がある。俺は最初、優子が書いたとは思えなかった。それくらい、勢い任せの印象を受けた。でも、読ませる。一気に読ませる迫力が、この作品にはある。それに、文がきれいだ。そこは、優子らしいと思った」

 俺は素直な感想を、可能な限り端的に伝えた。


「慰めなんていらなのに……」

 優子は不満そうに呟いた。


「事実だ。そうでなければ、筆者本人の隣で最後まで盗み読んだりしない。目を離すことができなかった……」

 優子ははにかんで、うつむく。大きく息を吸い込むと、長く吐き切ってから、顔を上げた。


「あぁー、緊張した! 実は、心臓バクバクなの。誰かに読んでもらう事ってなかったから」


「俺は最初の読者か?」


「そう、だよ。なんだか身体がムズムズするね。心の中を覗かれてるみたいで」


「俺は嬉しいよ。また、優子の知らない一面を知ることができて」

 優子は一瞬動きを止めると、瞳を大きく見開いた。


「……ありがとう」

 消え入りそうに呟いて、笑った。


 優子を家まで送り届けた後の帰り道、夜闇に覆われた住宅街で俺は考えていた。

 以前の優子も小説を書き続けていたのだろう。だが、そんな様子はおくびにも出さなかった。生徒会の業務で忙殺される中、爪に火を点すような努力で書き続けていたに違いない。


 三年生になったら、本格的に受験の準備が始まる。二年生という貴重な期間を、俺の軽い気持ちが奪ってしまった。それは今も変わっていない。

 また、だ……。また、取り返しのつかない事をしてしまった。

 何度味わっても慣れない後悔の痛みが、俺の胸を激しく穿うがつ。俺が罪を償えるとするのならば、それは優子に見たことのない景色を見せてやることだけだと思った。


 優子の努力と、素直さと、笑顔に見合うだけの景色を。


お読みいただき、ありがとうございます。

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