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第四十八話/宮永遥④

 幼馴染の彼女と同じ大学への進学が決まり、国宝級イケメン高校生、爽哉の人生は順風満帆だった。卒業式を迎えたその日、第二ボタンはおろか、袖のボタンからネクタイに至るまで、全て取られるモテ男ぶりを如何なく発揮する。自らが築き上げた学園ハーレムの総括とでも言わんばかりに、爽哉の周辺は華やかさに満ちていた。

 しかし、そんな彼を神は祝福しなかった……


 彼女のストーカーに襲撃され命を落とした爽哉は、稀代のブサメンとして高校生活をやり直す現実を強いられる。学園の抱える問題、断ち切れない因縁、消化不良な想い……。ブサメンの自らと向き合う覚悟を決めた爽哉は、果たして絆を取り戻すことができるのか――

 今、試練の扉が開かれる。


【登場人物】

中間爽哉なかまそうや  イケメン高校生→ブサメン高校生

藤川千絵ふじかわちえ  爽哉の幼馴染

木崎優子きざきゆうこ  第三十六代生徒会長。図書委員

小澤詩織おざわしおり  攻守両立のコミュニケーションお化け

本八幡香奈もとやわたかな 大手健康器具メーカーの社長令嬢

宮永遥みやながはるか   陸上部。インターハイ優勝候補

皆川結衣みながわゆい  第三十七代生徒会長

本条鈴音ほんじょうすずね  第三十五代生徒会長。爽哉の姉的存在

中間涼香なかまりょうか  爽哉の妹

内藤亮介ないとうりょうすけ  爽哉の親友

大里拓馬おおさとたくま  ブサメン高校生→イケメン高校生


「はい! はい! そこまで!」

 手を打ち鳴らす軽い音と、甲高い声が響き渡った。


 振り向くと、一人の女性が立っている。初対面の婦人だが、俺にはすぐにそれが誰だか分かった。顔が瓜二つだったからだ。


「お母さん!」


 紅潮した顔で叫んだ遥は、

「聞いてたの⁉」

 母の元へ駆け出した。


「聞いてません! だけど、もう車へ戻りなさい! 危ないから」

 タイミングを考えると、聞き耳を立てていたことは明らかだった。遥がそうであるように、俺の顔も耳まで紅いに違いない。


「君も! 爽哉君、だよね」

 遥の母は俺を指さした。


「お、俺も? いやいや、俺は走って帰ります」

 俺は両手を振って否定した。


「なにバカなこと言ってるの! あぁ、バカだったわね……。でも、そのまま帰すわけないでしょ! 早く乗りなさい!」


「でも、車が汚れて……」


「そんな事、気にしない! すぐに乗りなさい!」

 その叫びは、保健室の遥のそのままで、俺の知らない本来の彼女を垣間見るようだった。


 問答無用のその勢いに背中を押された俺は、車に乗らざるを得なかった。促されるままに、ミニバンの後部座席へ乗り込む。隣には遥が座った。


 遥の母は、自宅へ連れて帰ると言った。つまり、遥の家だ。服を洗濯して乾かして、お風呂にも入りなさい、と仰天の提案を並べた。俺は固辞した。何度も何度も断った。それだと片方が風呂に入る間に、もう片方が風邪をひくと言い訳して、やっと収まりがついた。遥の母がぼそりとこぼした、一緒に入ればいいのに……、という呟きは、俺たち二人を無言にするのに充分だった。

 車は俺の自宅の前で止まる。遥に、また明日、とだけ告げて、俺は転がり出るようにミニバンから跳ね降りた。


 帰ってからも、ひと悶着あった。ぐっしょり濡れた俺を見た、出勤前の母が大激怒した。そりゃそうだ。俺の奇行に目をつむってくれていた母だったが、さすがに今回ばかりは見過ごさなかった。俺はすかさず土下座する。そして、遥の母に助けてもらった事を自白した。母は半狂乱で連絡先を問い質した。俺はスマホを取り出して、遥の番号を呼び出す。待ち合わせのために、連絡先は交換していたのだ。そこで、ふと思った。あれ、もしかして、ランニングへ出る前に電話すれば済んだんじゃね、と。

 ほうける俺からスマホを取り上げて、母は息子の愚行を謝罪した。謝り倒した。そんな母の様子がみるみる変化していく。どうやら遥の母が事情を説明してくれているようだった。俺と壁の染みとを交互に見やる母。もはや話はついているようだったが、俺をどう処すべきかを決めあぐねて、電話を切れないようだった。何度かの謝罪とお礼の言葉の応酬の末に、通話は切られた。大きく息を吐き出した母は、土下座の姿勢を貫いたままの俺に、台風の日は家で大人しくするよう厳命した。俺はおもてを上げないまま、床に頭を擦りつけるように何度も頷いた。母は、既に出勤していた父には告げ口しない旨、合わせて申し渡した。寛大なご処置に俺は感謝の念を何度も申し上げて、釈放と相成った。バカとハサミは使いよう、意味深な言葉を残して、母は足早に出勤していった。


 陰から様子をうかがっていた涼香が総まとめの一言を呟いた。


「……バカ兄貴」




 翌日、台風一過で晴れ渡った空を仰ぎ見て、俺は日課のランニングへ出かけた。

 一二三四段の石段の前にはジャージ姿の見知った顔がある。俺は軽く手を上げて挨拶を交わすと、石段を駆け上がった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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