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第四十六話/宮永遥②

 幼馴染の彼女と同じ大学への進学が決まり、国宝級イケメン高校生、爽哉の人生は順風満帆だった。卒業式を迎えたその日、第二ボタンはおろか、袖のボタンからネクタイに至るまで、全て取られるモテ男ぶりを如何なく発揮する。自らが築き上げた学園ハーレムの総括とでも言わんばかりに、爽哉の周辺は華やかさに満ちていた。

 しかし、そんな彼を神は祝福しなかった……


 彼女のストーカーに襲撃され命を落とした爽哉は、稀代のブサメンとして高校生活をやり直す現実を強いられる。学園の抱える問題、断ち切れない因縁、消化不良な想い……。ブサメンの自らと向き合う覚悟を決めた爽哉は、果たして絆を取り戻すことができるのか――

 今、試練の扉が開かれる。


【登場人物】

中間爽哉なかまそうや  イケメン高校生→ブサメン高校生

藤川千絵ふじかわちえ  爽哉の幼馴染

木崎優子きざきゆうこ  第三十六代生徒会長。図書委員

小澤詩織おざわしおり  攻守両立のコミュニケーションお化け

本八幡香奈もとやわたかな 大手健康器具メーカーの社長令嬢

宮永遥みやながはるか   陸上部。インターハイ優勝候補

皆川結衣みながわゆい  第三十七代生徒会長

本条鈴音ほんじょうすずね  第三十五代生徒会長。爽哉の姉的存在

中間涼香なかまりょうか  爽哉の妹

内藤亮介ないとうりょうすけ  爽哉の親友

大里拓馬おおさとたくま  ブサメン高校生→イケメン高校生


 記憶を辿り、三年前の体育祭を思い出す。

 宮永遥は騎馬戦で落馬して怪我をした。怪我の程度は大したことはなかったが、それまでの鬱積うっせきにじむように遥の心は折れた。インターハイを二ヶ月後に控えていた。怪我が治っても遥の心の傷は癒えなかった。俺は毎日、遥を見舞った。美しい言葉を掛け続けて、励ました。インターハイの直前で何とか立ち直ったものの、遅かった。前年のチャンピオンは八位入賞に留まった。あの時の後悔の面持ちを、悔し涙を、俺は鮮烈に覚えている。


 この世界には遥を支える眉目秀麗な俺はもういない。大里が心の折れた遥へ優しい言葉を掛けるとも思えなかった。今、遥に付き添えるのはこの俺しかいない。見た目は悪い、だけど一緒に走った俺しかいない。俺の声が果たして届くのだろうか。


 俺は保健室へ駆けた。扉をノックして開けると、待合の椅子に深くもたれかかって遥が座っていた。目はうつろで、呆然としている。


「遥! 大丈夫か?」


「爽哉……」

 俺に気づいた遥は、虚空に視線を彷徨さまよわせた。


「ご、ごめん……アハハ、あんなに怪我に気をつけろって言われてたのにね……私、ホントに、馬鹿だね……」

 遥の瞳からは涙が零れ落ちていた。しかし、拭う様子はない。自分が泣いていることにも気づいていないようだった。


「大丈夫だ、大丈夫。今はしっかりと休もう。きっと良くなる」


「もう! ダメだよ!」

 不意に遥が大声を張り上げた。


「インターハイまで! 二ヶ月しかないんだよ! 間に合いっこないよ! 私、自分が憎い! 責任感なさすぎっ!」

 頭を抱えて叫ぶ遥に、俺は一瞬、言葉を失った。


「……インターハイなんて、どうでもいい。走る楽しさを知ってる遥なら、きっと大丈夫」

 俺は心を軽くするように努めた。インターハイという枷をどうにか外したかった。


「勝手なこと言わないで! 私にとって! インターハイがすべてなの! 結果がすべてなの!」


「そんなことないさ。また走りたくなったら、走ればいいんだよ」

 内心、俺は焦っていた。遥がこれほどまでにインターハイに固執しているとは思わなかった。それに激情に呑まれた遥にも驚いていた。こんな荒々しい様子は、記憶には無かったからだ。


「もう……出てって……。出てってよぉ!」

 それは完全な拒絶だった。今の俺には遥を救うことはできないのだと、悟った。顔を覆ってすすり泣く遥を、これ以上見てはいられない。無力な俺は、踵を返した。


「猿田彦神社で毎日、待ってる。遥が良くなるように、願掛けしてるから」

 遥は何も言わなかった。ただ、静かに泣いていた。

 オロオロと様子を伺っていた養護教諭へ軽く会釈して、俺は保健室を後にした。


 結局、俺は何もわかっちゃいなかった。

 以前の俺も、今の俺も。

 遥がインターハイを大切に思っていること。人から期待されることを重荷に感じている遥が、それを乗り越えてでも為そうとしている覚悟を。遥はわかっていた。その苦しみは自分だけのものだって。俺は余計なことをした。余計なことをして、悪い方向へ未来を変えてしまったかもしれない。取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。堪えきれない焦りに、冷や汗が止まらなかった。


 死んでも治らない、己のお節介な性分を呪うしかなかった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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