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第四十四話/皆川結衣③

 幼馴染の彼女と同じ大学への進学が決まり、国宝級イケメン高校生、爽哉の人生は順風満帆だった。卒業式を迎えたその日、第二ボタンはおろか、袖のボタンからネクタイに至るまで、全て取られるモテ男ぶりを如何なく発揮する。自らが築き上げた学園ハーレムの総括とでも言わんばかりに、爽哉の周辺は華やかさに満ちていた。

 しかし、そんな彼を神は祝福しなかった……


 彼女のストーカーに襲撃され命を落とした爽哉は、稀代のブサメンとして高校生活をやり直す現実を強いられる。学園の抱える問題、断ち切れない因縁、消化不良な想い……。ブサメンの自らと向き合う覚悟を決めた爽哉は、果たして絆を取り戻すことができるのか――

 今、試練の扉が開かれる。


【登場人物】

中間爽哉なかまそうや  イケメン高校生→ブサメン高校生

藤川千絵ふじかわちえ  爽哉の幼馴染

木崎優子きざきゆうこ  第三十六代生徒会長。図書委員

小澤詩織おざわしおり  攻守両立のコミュニケーションお化け

本八幡香奈もとやわたかな 大手健康器具メーカーの社長令嬢

宮永遥みやながはるか   陸上部。インターハイ優勝候補

皆川結衣みながわゆい  第三十七代生徒会長

本条鈴音ほんじょうすずね  第三十五代生徒会長。爽哉の姉的存在

中間涼香なかまりょうか  爽哉の妹

内藤亮介ないとうりょうすけ  爽哉の親友

大里拓馬おおさとたくま  ブサメン高校生→イケメン高校生


「私たちの生徒会は経験者がいないから、君の力を貸してほしいの。変えたいという気持ちをぶつけてほしいの。この学校のために」


 結衣の目が見開かれ、動きが止まる。そして、

「それは……」

 歯噛みするように、口籠った。


 俺にはわかっていた。

 結衣は本気でこの学校を愛している。そのために、素直な気持ちで校則緩和に反対しているという事を。結衣は理想の学生像を、明確に持っている。おためごかしではなく、毅然と意見を言い放ち、行動する人間だ。だからこそ、記憶の中の結衣は浜中とともに立ち上がった。生徒会へ反旗をひるがえしたのだ。今まさに、目の前の優子が結衣の理想を体現しようとしていた。


「少し、考えさせて下さい……」

 結衣は上の空で生徒会室を出て行った。


「生徒会へ入ってくれるかしら……」

 心配そうに優子は呟いた。


「たぶん大丈夫だろう。彼女の愛校心は筋金入りだ。冷静になれば、何が大切なのかはわかる子だよ」


「ずいぶんよく知っているのね、皆川さんの事……」


「え、いや、たぶんね」

 俺は誤魔化した。

 優子の責めるような視線が痛い。


「職員室へ資料を返しに行ってくるであります! 会長!」

 俺はおどけて敬礼してみせると、生徒会室を飛び出した。


 金曜日、無事に新校則は発効を迎えた。

 臨時全校生徒集会で、優子は変更点と注意点を説明した。そして、生徒会規約の変更も告げた。今後は学年を問わず、興味がある人はいつでも生徒会室の扉を叩くように、と付け足した。俺は聴衆の中に、鈴音の満足そうな笑顔を見た。そして、浜中の落胆の顔を見たのだった。集会が終わると俺は駆け出し、教室へ戻る途中の浜中を捕まえた。


「浜中!」

 振り向いた浜中を、人気のない廊下の端へと促した。


「生徒会の……。何の用だ?」


「本当に生徒会へ入る気はないのか」


「ない」

 浜中は即答した。


「俺たちはいつでも待っている。意見があるならいつでも聞くぞ」

 牽制だった。浜中は一瞬、表情を曇らせたが、すぐに笑顔を作った。


「なんの事だ。意見なんてないよ。君たちの健闘を祈ってる」


「ありがとう」

 俺は浜中の肩を軽く叩くと、踵を返して講堂へ戻った。




 結衣が生徒会室を訪ねてきたのは、週が明けた月曜日の放課後だった。

 軽く頭を下げて室内へ入ってきた結衣は優子の眼前まで歩み寄ると一言、お受けします、とだけ言った。

 優子は、歓迎します、と言って微笑んだ。


お読みいただき、ありがとうございます。

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