第四十話/新たなる決意①
幼馴染の彼女と同じ大学への進学が決まり、国宝級イケメン高校生、爽哉の人生は順風満帆だった。卒業式を迎えたその日、第二ボタンはおろか、袖のボタンからネクタイに至るまで、全て取られるモテ男ぶりを如何なく発揮する。自らが築き上げた学園ハーレムの総括とでも言わんばかりに、爽哉の周辺は華やかさに満ちていた。
しかし、そんな彼を神は祝福しなかった……
彼女のストーカーに襲撃され命を落とした爽哉は、稀代のブサメンとして高校生活をやり直す現実を強いられる。学園の抱える問題、断ち切れない因縁、消化不良な想い……。ブサメンの自らと向き合う覚悟を決めた爽哉は、果たして絆を取り戻すことができるのか――
今、試練の扉が開かれる。
【登場人物】
中間爽哉 イケメン高校生→ブサメン高校生
藤川千絵 爽哉の幼馴染
木崎優子 第三十六代生徒会長。図書委員
小澤詩織 攻守両立のコミュニケーションお化け
本八幡香奈 大手健康器具メーカーの社長令嬢
宮永遥 陸上部。インターハイ優勝候補
皆川結衣 第三十七代生徒会長
本条鈴音 第三十五代生徒会長。爽哉の姉的存在
中間涼香 爽哉の妹
内藤亮介 爽哉の親友
大里拓馬 ブサメン高校生→イケメン高校生
春がやってきて学年が上がり、俺たちは二年生になった。我が校は基本的に、クラス替えが無い。不登校や成績、行動に問題のある生徒が移動しただけで、クラスメイトはほとんど変わらなかった。
俺は生徒会の活動に忙殺されていた。俺が優子の露払いになる。その決意を胸に、頭と身体をフル回転させて毎日を過ごしていた。今ならよくわかる。どれだけ優子に負担をかけていたか……。俺は寝る間も惜しんで校則緩和の準備を進めていた。
もちろん、日々のトレーニングも欠かしてはいない。夜が明ける前にランニングに出て、戻ってくると筋トレをこなしてシャワーを浴びる。その後、生徒会室へ直行し、パンを齧りながら書類整理をした。人気のない生徒会室で書類を繰る手を止めた俺は、三年手帳をパラりと捲った。そろそろ行動へ移す頃か……。
新たな覚悟を胸に秘めていた。
俺はランニングのコースを変えた。高校からほど近い福山の頂上に猿田彦神社はある。猿田彦は道を指し示す神様で、開運、魔除けのご利益があると言われている。しかし、頂上のご神殿に至るには、一二三四段の石段を昇らねばならない。過酷なお詣りだった。
俺が猿田彦神社への参拝をランニングコースへ組み込んだのには理由があった。そのコースを彼女が利用していることを知っていたからだ。
「あれ……あなたは確か……」
日が昇りつつあった参道で、俺は宮永遥と出会った。
「あれ! 奇遇だね、宮永さん」
俺は白々しくも驚いた様子を演じる。
「変態紳士!」
声を上げた遥は、身体を隠すように腕で覆った。
「いやいや、ひどくね……。ランニングしてるだけだって」
「確か、中間、くん……だっけ」
「そうそう。覚えていてくれて、ありがとう」
俺は近くの岩へ腰を下ろすと、タオルで顔を拭った。
「でも、なんだってこんな所を? 私だってキツいのに」
「この春から、生徒会の活動を始めてね。願掛けを兼ねて、お詣りしてるんだよ」
「あぁ、確かに、任命式の時にいたような」
遥は思考を巡らせるように虚空を見上げた。
「まぁ、書記だから雑用みたいなもんだけどね。遣いっぱしりさ」
俺が弱ったような苦笑いを浮かべると、つられて遥も笑った。
「宮永さんはお詣り?」
「え、あぁ、まぁ。身体づくりには丁度いい階段だし、よく来るんだ」
猿田彦は迷いを断ち切る。やはり、まだ迷っているんだろうな。
「そっか。それは邪魔しちゃだめだね。俺はもう行くよ」
立ち上がり、下りの階段を指して駆け出す。その背中に声が掛けられた。
「あ、あの……!」
振り返ると、遥が恥ずかしそうに眼を伏せていた。
「夏祭りの日、別れ際に言ってくれたでしょ。注目されると辛いね、って。あれ、私、すごく嬉しかった……。そういう風に言ってくれる人っていなくって。いつも頑張れってばかり言われて、期待ばかりされて、辛かった……」
身を縮こませて、噛みしめるように言った。
「だから、ありがとう……」
遥は消え入るような声で俺を見つめていた。
「あぁ。宮永さんは、もう十分に頑張ってるもんね。これ以上頑張れとは、言えないさ。宮永さんの迷いが晴れるように、俺も毎日願掛けに来るよ……」
俺も遥の顔を見つめた。
「だからきっと、大丈夫だよ!」
俺はエールを送るように大きな声で言うと、踵を返して駆け出した。我ながらクサい気もしたが、今は何とか遥の心が晴れるように願っていた。その一助になればと祈っていた。
それから俺は毎朝、猿田彦神社へ参った。雨の日も、風の日も。遥とはほぼ毎日、顔を合わせる。次第に一緒に走ることも多くなってきて、色々な話をした。勉強の話、進路の話、詩織や香奈の話で盛り上がった。
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