第三十八話/生徒会長選挙③
幼馴染の彼女と同じ大学への進学が決まり、国宝級イケメン高校生、爽哉の人生は順風満帆だった。卒業式を迎えたその日、第二ボタンはおろか、袖のボタンからネクタイに至るまで、全て取られるモテ男ぶりを如何なく発揮する。自らが築き上げた学園ハーレムの総括とでも言わんばかりに、爽哉の周辺は華やかさに満ちていた。
しかし、そんな彼を神は祝福しなかった……
彼女のストーカーに襲撃され命を落とした爽哉は、稀代のブサメンとして高校生活をやり直す現実を強いられる。学園の抱える問題、断ち切れない因縁、消化不良な想い……。ブサメンの自らと向き合う覚悟を決めた爽哉は、果たして絆を取り戻すことができるのか――
今、試練の扉が開かれる。
【登場人物】
中間爽哉 イケメン高校生→ブサメン高校生
藤川千絵 爽哉の幼馴染
木崎優子 第三十六代生徒会長。図書委員
小澤詩織 攻守両立のコミュニケーションお化け
本八幡香奈 大手健康器具メーカーの社長令嬢
宮永遥 陸上部。インターハイ優勝候補
皆川結衣 第三十七代生徒会長
本条鈴音 第三十五代生徒会長。爽哉の姉的存在
中間涼香 爽哉の妹
内藤亮介 爽哉の親友
大里拓馬 ブサメン高校生→イケメン高校生
その後、他の二人の候補者のスピーチが続いた。
一人は、浜中伸志と名乗った。校則の緩和には断固反対の立場だった。理由は、風紀が乱れるから。コースの再編が進んでも、在校生に影響は出ないと強調していた。
もう一人は、森崎かなみ。同じクラスの女子だった。三年手帳によると確か、選挙は浜中との一騎打ちになると記憶していたが……。未来が少し変わったのだろうか。候補者の追加が与える影響を慮った俺は戦慄した。
かなみは、校則の緩和には慎重な姿勢で、必要な部分の改善のみに留めるべき、という意見だった。校内行事の一部を地域共催とし、地元住民へ開放するという斬新な案を掲げていた。かなみの公約を聞いて、俺は胸を撫でおろした。校則緩和反対派の票を、浜中とかなみで取り合う形になるだろう。
二人が校則の緩和に尻込みするのは理解できた。あの鈴音でさえ公約にしてなお、成し遂げられなかったのだ。多大な労力が掛かることは目に見えている。
続いて、応援演説が始まった。詩織が笑顔で登壇する。それまでとは打って変わって、講堂を歓声が包んだ。暗転に沈んだ聴衆のどこからか、詩織の名を叫ぶ声が上がる。
「いやー、皆さん。どうもどうも」
詩織は相変わらずの軽口を並べながら、手を振って聴衆が静かになるのを待った。
「一年A組の小澤詩織です。これより、生徒会長候補、木崎優子さんの応援演説を行わせて頂きます」
詩織は終始笑顔だった。原稿に殆ど目を落とすことなく、まっすぐに前を見て演説していた。練習を重ねたであろう事は明らかだった。浜中も詩織に応援演説を頼みに来たのだと香奈が教えてくれた。先約があると、断ってくれたらしいが。この辺りの細かなやり取りは、三年手帳を反復しても見通すことはできない。俺は胸を撫でおろしていた。
詩織の応援演説は時に真摯に、時に笑いを織り交ぜながら進んだ。折々に湧き上がる歓声に、俺は手応えを感じていた。
「……皆さん、木崎優子に清き一票を! 小澤詩織でした!」
最後まで鮮やかに語り終えると、ペコリと頭を下げた。その瞬間、万雷の拍手が沸き起こった。詩織は手を大きく振って笑顔で応えると、満足そうに自らの椅子に腰かけた。
各候補の応援演説が終わると、鈴音が挨拶をして、文化祭の閉幕を宣言した。
それから二ヶ月は、毎週月曜日に校門へ立った。支持者を増やすために街頭演説を繰り広げるのだ。詩織と香奈も隣に並んでくれた。応援演説でそのファンを増やした詩織は、握手を求める聴衆に丁寧に応えている。どちらかと言えば、優子よりも詩織に話しかける人の方が多かったように感じて、俺は苦笑いした。優子はそんなことを気にもかけず、通り過ぎる生徒へ実直に支持を呼びかけていた。
嵐に吹かれるように二学期は過ぎていった。終業式を迎え、年末年始を越え、あっという間に三学期の始業式がやってきた。
始業式の終わった後の講堂では、引き続き生徒会長選挙が執り行われようとしていた。投票は既に入場の際に済んでいる。式典の間に開票が行われ、結果が発表されるのを待つのみであった。三人の候補がステージに並ぶ。優子は緊張の面持ちで座に着いた。周囲を見渡すと、教職員の間にも張り詰めた空気が漂い、ざわめいている。俺は選挙の担う重さを肌で感じていた。
鈴音が登壇し、選挙の趣旨を改めて説明する。
「それでは、新生徒会長を発表します」
鈴音が厳かな口調で聴衆を見渡した。
「得票数、一〇八一票……」
全校生徒は一三六八名。
「木崎優子さんを次期生徒会長と致します」
圧倒的得票だった。
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