表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/81

第三十二話/嗚呼、夏休み①

 幼馴染の彼女と同じ大学への進学が決まり、国宝級イケメン高校生、爽哉の人生は順風満帆だった。卒業式を迎えたその日、第二ボタンはおろか、袖のボタンからネクタイに至るまで、全て取られるモテ男ぶりを如何なく発揮する。自らが築き上げた学園ハーレムの総括とでも言わんばかりに、爽哉の周辺は華やかさに満ちていた。

 しかし、そんな彼を神は祝福しなかった……


 彼女のストーカーに襲撃され命を落とした爽哉は、稀代のブサメンとして高校生活をやり直す現実を強いられる。学園の抱える問題、断ち切れない因縁、消化不良な想い……。ブサメンの自らと向き合う覚悟を決めた爽哉は、果たして絆を取り戻すことができるのか――

 今、試練の扉が開かれる。


【登場人物】

中間爽哉なかまそうや  イケメン高校生→ブサメン高校生

藤川千絵ふじかわちえ  爽哉の幼馴染

木崎優子きざきゆうこ  第三十六代生徒会長。図書委員

小澤詩織おざわしおり  攻守両立のコミュニケーションお化け

本八幡香奈もとやわたかな 大手健康器具メーカーの社長令嬢

宮永遥みやながはるか   陸上部。インターハイ優勝候補

皆川結衣みながわゆい  第三十七代生徒会長

本条鈴音ほんじょうすずね  第三十五代生徒会長。爽哉の姉的存在

中間涼香なかまりょうか  爽哉の妹

内藤亮介ないとうりょうすけ  爽哉の親友

大里拓馬おおさとたくま  ブサメン高校生→イケメン高校生


 夏休みがやってきた。やってきてしまった。俺はゴールデンウィークのてつを踏んだ。予定はない。全くない。壁に貼られたカレンダーには、終業式と登校日、そして始業式しか書き込まれてはいなかった。


 夏休みの初日、目を覚ました俺はベッドの上で身をよじらせる。そして、二日前の帰り道を思い出して、苦悶の声を上げた。


「バカ兄貴! 朝からうるさいよ!」


 隣室から湧き上がる妹の絶叫と、壁ドンの鈍い音が室内に響いている。


 冷静さを取り戻した俺はしずしずと着替えを済ませて、日課のランニングへ出かけた。

 迷いを断ち切るように走った。帰ってくると、筋トレ。行き場のない怒りとやり切れなさを己の身体にぶつけるようにトレーニングに励んだ。終わると瞑想。今までの反省とこれからの行動を妄想して、ただひたすらに目をつむる。ヒントになりそうな事はすべて、三年手帳へ書き殴った。昼食を摂ると一番気温の上がる時間帯は図書館へ向かう。優子の守備範囲である作品群は既に読み終え、興味の向くままに読み漁った。日が落ちる前に図書館から戻り、気温が下がるに任せて、またランニングへと出発する。それでもけたアスファルトは熱気を放ち、汗が噴き出す。自宅へ帰りつくと、水を浴びたように汗ばんだ身体をシャワーで流す。夕飯を摂ると、早々に寝床へ就いて、眠り薬の読書にふけった。


 そんな修行僧のような不気味な行動を繰り返す俺に、両親は何も言わなかった。一学期の成績が良かったこともあるだろう。期末テストでは学年一位だった。そりゃそうだ。タネを知っている手品のようなものである。それでも俺には感動も興奮もなかった。ただ行き場のない焦りと、満たされたいと願う渇望に支配されていた。


 俺の夏休みは日課をこなすだけで過ぎていった。たまに亮介に誘われて、友人の家でゲームをしたり、カラオケへ行ったり、涼香と買い物へ出たりした。満たされることはなかったが、気分転換にはなった。


 ただ、優子に会いたかった。

 高校へ行く用事は無いし、行ったところで優子がいるわけではない。ランニングへ出ても、淡い期待を抱いて優子の家の近くを走り回る自分を客観視して、気持ち悪さだけがつのるばかり。俺は終業式の前日のあの帰り道を後悔していた。あの時、俺に勇気があれば……。あれば、どうなっていたのだろう。優子が受け入れてくれていたとでもいうのか。俺は鏡を一瞥いちべつして、溜息をついた。言葉の出なかった情けなさと、拒まれた時に受けるであろう挫折とを天秤にかけて、どっちつかずの絶望にさいなまれるのが常だった。


 その気持ちは夏祭りの前日にピークを迎えた。必要以上に過去の思い出を引っ張り出さないようにと心掛けてはいたが、夏祭りは別だった。鮮烈な記憶が意思に反して蘇る。千絵と一緒に行った夏祭り、楽しかったな……。優子と行ったら楽しいんだろうな。わかりきってはいたが、千絵から連絡がくる事はなかった。もちろん、涼香に冷やかされる事もなかった。あったのは亮介からの誘いの電話だけだった。一瞬、俺は躊躇ためらった。千絵との美しい思い出を諦めてしまうような気がした。しかし、そんな無駄に潔癖な自分に嫌気がさしているのも事実だ。


 僅かの逡巡の後、俺は亮介と待ち合わせの約束を交わした。


お読みいただき、ありがとうございます。

皆様の応援が執筆の糧です。


「☆☆☆☆☆」を押して評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ