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6 口論


   ***



 おばあはその後一週間寝込んだ。

 月末の祭祀はなんとか起き上がって務めたが、祭祀をしては寝込み、祭祀をしては寝込み、が何度か続き、夏の最後の祭祀を終えた二日後、役目の糸が切れたように、静かに息を引き取った。そばについていた後継の星詠みから、大往生だったと聞かされた。


 神殿の前でマヤはうずくまり肩を震わせていた。ずっと慕っていた人物だったからかまだ実感は湧かないが、涙は溢れて溢れて、止まらない。

 アスタがマヤの背中を撫でる。その隣で、オルアも唇を噛んで俯いている。

 マヤは目の前に聳え立つ石造りのピラミッドを見上げた。


 ――この中に、おばあの身体がある。


 星詠みの遺体は神殿の内部に安置される。死者の魂は地下を旅して星空に還り、神として生まれ変わるのだ。

 翡翠や青銅の飾りを身につけ赤い化粧を施したおばあの遺体を、マヤもその目で見送った。深い皺が刻まれた顔はしかし穏やかに安らぎ、ただ眠っているだけに見えた。

 

「……マヤ。そろそろ帰るぞ」


 葬式が終わり、辺りに誰もいなくなっても、マヤはまだ地面に座り込んで涙を流していた。


「……テオは、悲しくないの」


 実感はなくとも、もう会えないのだ、話せないのだと頭が理解している。心は熱いのに頭は冷たい。その乖離がまたマヤの涙を誘う。


「ババアだって、いつかは死ぬ。それがたまたま今日だっただけだ」


 テオは涼しい顔で言った。


「……いつかは死ぬ、なんて」


 テオにとってはおそらく、何気ない一言だったのだろう。いつもの「神はいない」と同じ調子で、自身の「曲げない意見」を正直に言っただけだった。

 しかし、その一言がマヤの癇に障った。


「テオは悲しくないの!? おばあに、無事に神様になってほしいとは思わないの!?」

「オルアでさえ花を添えて祈ったのに。あんたは祈りを捧げようとも思わないのね」


 アスタが軽蔑を多分に含んだ目でテオを見やる。オルアも顔を上げた。

 しかしテオは動じない。


「神々のところに行ったとかではなく、ただ単純に、消えただけだろ。死んだ人間が本当に神になるのなら、おまえらはこれからも、存在しないババアを永遠に探し続けていればいい」


 ごくごく涼しい顔だった。

 だから、マヤは自分の怒りを抑えきれなかった。


 頬を打つ甲高い音が響いた。


 マヤはひりひりと痛む手を固く握り締めて叫ぶ。

 力一杯瞑った目尻から散った滴(しずく)が夏の強い日差しの中、太陽を映して煌めいた。


「あんたよくも、そんなことを、おばあの前で! 星詠みの前で! 他人(ひと)の前でっ! あんたには人間の心ってものがないの!?」


 マヤの瞳が憎しみを湛えてテオを睨みつける。

 テオは、マヤの手首を掴んで叫んだ。


「神神神神、うるせえんだよ! 神なんてこの世界にはいねえんだ!」

「そんなに神様が嫌なんだったら、この村から出ていけばいいじゃん! ずっと気になってた崖の下にでも行けばいいでしょ!?」


 マヤが掴まれた手を乱暴に振り解く。

 テオはマヤの手に目をやると、何も言わず走り去った。


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