6 口論
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おばあはその後一週間寝込んだ。
月末の祭祀はなんとか起き上がって務めたが、祭祀をしては寝込み、祭祀をしては寝込み、が何度か続き、夏の最後の祭祀を終えた二日後、役目の糸が切れたように、静かに息を引き取った。そばについていた後継の星詠みから、大往生だったと聞かされた。
神殿の前でマヤはうずくまり肩を震わせていた。ずっと慕っていた人物だったからかまだ実感は湧かないが、涙は溢れて溢れて、止まらない。
アスタがマヤの背中を撫でる。その隣で、オルアも唇を噛んで俯いている。
マヤは目の前に聳え立つ石造りのピラミッドを見上げた。
――この中に、おばあの身体がある。
星詠みの遺体は神殿の内部に安置される。死者の魂は地下を旅して星空に還り、神として生まれ変わるのだ。
翡翠や青銅の飾りを身につけ赤い化粧を施したおばあの遺体を、マヤもその目で見送った。深い皺が刻まれた顔はしかし穏やかに安らぎ、ただ眠っているだけに見えた。
「……マヤ。そろそろ帰るぞ」
葬式が終わり、辺りに誰もいなくなっても、マヤはまだ地面に座り込んで涙を流していた。
「……テオは、悲しくないの」
実感はなくとも、もう会えないのだ、話せないのだと頭が理解している。心は熱いのに頭は冷たい。その乖離がまたマヤの涙を誘う。
「ババアだって、いつかは死ぬ。それがたまたま今日だっただけだ」
テオは涼しい顔で言った。
「……いつかは死ぬ、なんて」
テオにとってはおそらく、何気ない一言だったのだろう。いつもの「神はいない」と同じ調子で、自身の「曲げない意見」を正直に言っただけだった。
しかし、その一言がマヤの癇に障った。
「テオは悲しくないの!? おばあに、無事に神様になってほしいとは思わないの!?」
「オルアでさえ花を添えて祈ったのに。あんたは祈りを捧げようとも思わないのね」
アスタが軽蔑を多分に含んだ目でテオを見やる。オルアも顔を上げた。
しかしテオは動じない。
「神々のところに行ったとかではなく、ただ単純に、消えただけだろ。死んだ人間が本当に神になるのなら、おまえらはこれからも、存在しないババアを永遠に探し続けていればいい」
ごくごく涼しい顔だった。
だから、マヤは自分の怒りを抑えきれなかった。
頬を打つ甲高い音が響いた。
マヤはひりひりと痛む手を固く握り締めて叫ぶ。
力一杯瞑った目尻から散った滴が夏の強い日差しの中、太陽を映して煌めいた。
「あんたよくも、そんなことを、おばあの前で! 星詠みの前で! 他人の前でっ! あんたには人間の心ってものがないの!?」
マヤの瞳が憎しみを湛えてテオを睨みつける。
テオは、マヤの手首を掴んで叫んだ。
「神神神神、うるせえんだよ! 神なんてこの世界にはいねえんだ!」
「そんなに神様が嫌なんだったら、この村から出ていけばいいじゃん! ずっと気になってた崖の下にでも行けばいいでしょ!?」
マヤが掴まれた手を乱暴に振り解く。
テオはマヤの手に目をやると、何も言わず走り去った。




