第48話:インベントリーの作製(後半)
2026年12月
1m^3のインベントリーの作製に成功した。
となれば、次にやるべきは総合的な動作確認だ。
すなわちイメージ通りの挙動を示すかどうかの確認である。
さっそく確認に取りかかる。
試しに、作業台の上から角うさぎの魔石を1個、目視した。
インベントリーに収納するイメージをする。
魔石は抵抗なく空気の中に消えた。
問題ない。
そして、インベントリーのデータベースをイメージする。
画面には『角うさぎの魔石・1個』と明瞭に表示されていた。
これで収納とインデックスの付与、データベース化も問題ない。
続いて、データベースから魔石を選択する。
手のひらの上に取り出すイメージを送ってみた。
手のひらの上に、先ほどの魔石が寸分の狂いもなく戻ってくる。
問題ない。
次は、時間停止機能の確認だ。
作業台の上に陶器のカップを2つ用意した。
それぞれに水を入れて加熱し、沸騰したお湯にする。
そのうちのお湯の入ったカップ1個だけを、インベントリーへと収納した。
(分子運動の完全停止による時間停止が起きているか、見ものだな)
そのまま30分ほど放置してからカップを取り出した。
手元に残しておいたもう1つのカップと温度を比較する。
手元のカップはすでにぬるま湯にまで冷めていた。
だが、収納していた方のカップ内のお湯は、淹れたての熱いままだ。
熱エネルギーのロスがない。
これも問題ない。
続いて、最も懸念していた質量に対する負荷の確認だ。
おじさんは地下工房の壁の土を対象に錬金術を発動した。
そこから80cm四方の正確な立方体を切り出す。
密度を2.0g/cm^3として計算すると、重量は約1tだ。
還暦のおじさんが持ち上げられる質量ではない。
これをインベントリーに収納してみた。
巨大な土の塊は音もなく空間に吸い込まれた。
特に問題なく収納完了した。
そのまま工房内を少し歩いてみた。
体への負担や、特に重さは感じない。
地球の重力場とのリンク遮断、これもイメージ通りに機能している。
(どれだけ重い物資を詰め込んでも、私の肉体にかかる負荷はゼロだな)
今度は場所を変えてみる。
工房の外の通路を10mほど進んだ。
そこで再びインベントリーを開く。
角うさぎの魔石を収納し、そして、取り出してみた。
問題なし。
ここまでは、すべて狙った通りの性能になっている。
(あとは、インベントリーの維持にどれくらいの魔力を消費するのかの確認だな)
これは、インベントリーにものを大量に収納した状態で調べる。
時間の経過による魔力の減少を確認するしかない。
これについては数日かけてデータを採取する。
その前に、インベントリー空間の拡張だ。
1m^3では、さすまた君などの長物や、今後の物資を格納するにはいささか容積効率が悪い。
一度構築した亜空間のデータを、錬金術で押し広げる。
今の1m^3を10m^3に拡張した。
ゼロからの構築に比べ、負荷が低い。
魔力の消費量は全体の1/3くらいか。
(最初の構築に比べて、空間拡張は魔力の消費量が少なくて済むな)
まだ行けそうなので、続けて30m^3まで拡張した。
ワンルームマンションの一室ほどの広大な容積だ。
さすがにこのレベルになると、体内の魔力量が大幅に減少した。
(そろそろ魔力が尽きるな。これ以上の拡張は危険か)
とりあえず拡張はここまでだ。
最後に、最も重要な確認だ。
角うさぎの魔石を1個、インベントリーに収納した。
その状態で、おじさんは川崎ダンジョンを出た。
*
そして、鶴見区の自宅マンションへと帰ってきた。
リビングの静かな空気の中で、おじさんは脳内のデータベースを呼び出す。
インデックスには変わらず魔石のデータが存在していた。
そして、インベントリーから角うさぎの魔石を1個取り出す。
何事もなかったかのように、おじさんの手のひらの上に鈍く輝く魔石が出現した。
これも問題ない。
どうやらダンジョンの外でも機能するようだ。
(やった! これで、これまでの探索における最大の問題だった、荷物の運搬も解決したぞ)
あとは、日々の限界突破トレーニングに合わせる。
地道に亜空間の容量を拡張してゆくだけだ。
拠点、武器、そして、物流。
ソロでの深層攻略に必要な条件が揃ったことを確信した。
おじさんは内心でニヤニヤするのだった。
(つづく)




