第39話:第四層のトラブルおよび反省
2026年11月
第四層の鍾乳洞エリア。
おじさんは新開発の魔力レーダーを頼りに、順調に『Gトード』の狩りを進めていた。
すでに3匹をエアーライフルⅡの正確な狙撃で霧散させ、魔石を回収している。ここまでのペースは順調だった。
だが、4匹目のGトードを狙撃した際、わずかに狙いが逸れてしまった。
弾丸は脳天を捉えず、背後の岩を激しく穿つ。
「チッ……!」
音と衝撃に反応し、体長1mを超える巨体がおじさんに気づいた。
ギョロリとした両目がおじさんを捉え、凄まじい跳躍力で一気に距離を詰めてくる。
ボルトアクションを手動で操作し、空気の補充、二発目の準備をする暇などない。
「まじか……!」
おじさんは咄嗟に足元の地面へと空いている方の手を叩きつけた。
「錬金術ーー発動」
ズズズ、と足元の湿った土壌がくり抜かれ、瞬時に幅1m、深さ2mの縦穴が形成される。
おじさんはその中へ飛び込むように身を隠し、即座に頭上の開口部を塞いだ。
作製したのは、厚さ10cmのレベル3の岩石の蓋だ。二酸化ケイ素を結晶化させたこの蓋があれば、Gトードの巨体が上に乗って暴れようともビクともしない。
おじさんは狭い縦穴の底で荒い息を整え、小さい空気穴を確保しつつ、魔力レーダーを展開して頭上の様子を伺った。
しかし、土壁のせいでGトードの動きは良く解らない。
しかたなく、音や振動で様子を伺う。
周囲を徘徊しているらしい。
10分、20分……。
じっと耐えたが、30分が経過してもGトードがその場を立ち去る気配は一向になかった。
「……仕方ない、か」
このまま膠着状態を続けても体力が削られるだけだ。
おじさんは縦穴の壁面に、再び錬金術を発動させた。
幅50cmほどの横穴を、前方へ向かって20mほど掘り進めて移動する。
土壌を大雑把に押し退けるだけの掘削とはいえ、それなりの距離だ。
慎重に這い進み、20m先の地点で上方の土を薄く押し上げて、そっと地上へ頭を出した。
魔力レーダーで周囲をスキャンする。
(よし、Gトードはまだ元の穴のあたりを警戒している。こちらには気づいていない)
おじさんは穴の出口から静かに身を乗り出し、エアーライフルⅡを構えた。
タンクの圧力と角弾の装填を確認し、スコープ越しに、少し離れた位置で背中を向けているGトードの頭部を正確に捉える。
静かに引き金を絞った。
『パスン……ッ!』
超音速の骨の弾丸が湿った鍾乳洞の空気を切り裂き、今度は寸分の狂いもなく標的の急所を撃ち抜いた。
Gトードは短い悲鳴を上げる間もなく光の粒子となって霧散し、4つ目の魔石が地面に残される。
おじさんはその魔石を回収しながら、今回の戦闘プロセスを脳内で冷静に振り返った。
「今回の失敗から学ぶべきだな。次からは、あらかじめ深さ1.5mほどの縦穴を掘っておき、その中で身を隠しながら撃つ方が安全だ。
外したら即座に頭上の蓋を閉めて退避。魔獣がなかなか動かないようなら、横穴を20m掘って迂回し、再度ズドン、と」
しかし、一連の土木工事の魔力消費量を計算し、おじさんは小さく苦笑した。
縦穴の掘削、レベル3の岩石蓋、そして20mの横穴掘り。これら一連のセットをこなすと、総量の半分近くをごっそり持っていかれる。
現在のおじさんの魔力総量(約900個分)であっても、この戦術は1回の出撃で2回使えばもう限界だ。現在の魔力残量は、きれいに約半分まで減っていた。
「……そういえば」
リュックサックを確認し、おじさんはハッとした。
今回、予備の魔力補充源として『角うさぎの魔石』を1個も持ってきていなかったのだ。迂闊だった。
ここで魔力を満タンまで回復させるには、先ほど手に入れたGトードの魔石を魔素に分解し、そこから魔力を合成。
さらにその魔力の波長を、おじさんの身体に合う赤系へと変換・適合させるしかなかった。
しかし、その『波長変換の技術』については、まだ1度も試していなかった。ここで失敗すれば、最悪の波長ショックで動けなくなるリスクがある。
「……ここは撤退だな」
地上へと戻る帰り道、おじさんはふと別の可能性に思い至った。
「そういえば……わざわざ20mも横穴を掘らなくても、あの時、縦穴の底から『犬笛』の不快音を外に向けて鳴らせば、Gトードは勝手に逃げ出してくれたんじゃないか?」
「いや、平常時ならともかく、あれだけ興奮していれば効かないか」
今回の収穫は、Gトードの魔石、合計4個。
完璧な勝利とは言えなかったが、実戦における新たな戦術のデータと課題が得られただけでも、今日の遠征は十分な収穫だったと言えるだろう。
少々焦ったが、良い経験だった。
第四層を後にしながら、おじさんのニヤニヤは続くのであった。
(つづく)




