第38話:魔力レーダーの試作および第四層への遠征
2026年11月
分解した魔素から魔力を合成し、それを色として可視化することに成功したおじさんは、その技術の延長線上にある、一つの可能性について考えていた。
「この可視化の仕組みを応用すれば、周囲の魔物を探知する『パッシブレーダー』のようなものが作れないか?」
ダンジョン内の魔物は、多かれ少なかれ体外へ微弱な魔力を漏れ出させている。
『魔力眼』は、その魔力を可視化し、波長により色分けすることができる。
しかし、それはあくまでも『見る』の延長線上だ。
もし自分の魔力を周囲に薄く広げ、一種の『受信アンテナ』として機能させることで、他の魔物の魔力を感知できるのであれば、『全周囲』の索敵ができるのでははないか?
おじさんは地下工房の作業台から立ち上がり、さっそく実験を始めた。
全身を巡る体内循環魔力の一部をわずかに体外へ開放し、周囲数mの空間に薄い膜のような魔力のセンサーを展開する。
そして、錬金術の『理解』を使い、魔力の膜に触れた魔力を解析するイメージを重ねた。
「……っ、ぐ」
最初の一歩は失敗だった。
薄いといっても、数mの全周囲に魔力を巡らせるのは負担が大きかった。
そこで、直径2mの円環状のアンテナをX、Y、Zの3軸に展開しとすることにした。これならば、魔力の消費も少なくて済む。
また、錬金の『理解』を常時発動するのも負担が大きい。発動は数秒おきにし、解析も変化があったときのみすることにした。
こうすることで、感知と解析の2つに分け、負担を大幅に軽減することに成功した。
細かい条件などの設定を数日間に渡り、調整したところ、まあまあの性能のパッシブ型魔力レーダーができた。
現状では、周囲最大500mから放出された魔力を識別できる。
3軸で捉えた魔力の相対的な強度差から『方位と距離』を推定し、魔力強度と波長から『対象の脅威度』も判定する。
魔力の弱いスライムや角うさぎは『青』、少し魔力が強い第三層〜第四層クラスの魔獣は『緑系』、それ以上の第五層~第十層は『赤』といった具合に、距離と方角、そして、脅威度が色で直感的に把握できる。
脳内にマップ像を表示させることにも成功した。
弱点としては、放出された魔力を受けているので、間に岩や木など、魔力を遮るものがあると感知できない。また、隠蔽や魔力放出を制限していた場合も同様だ。
「よし……これで、簡易的な『パッシブ型魔力レーダー』の完成だ」
工房にこもりきりで魔力の総量を900個分まで高めていたおじさんは、魔力レーダーの実戦テストも兼ねて、しばらくサボっていた『狩り』に出ることにした。
ターゲットは第四層の鍾乳洞に生息する『Gトード』だ。
高層への足がかりとして、より高位の魔石のサンプルデータも回収しておきたい。
おじさんは新型のエアーライフルⅡを背負い、工房の扉を抜けて上層への階段を登った。
*
第三層の洞窟エリアへ足を踏み入れた瞬間、新開発のパッシブ型魔力レーダーを起動させた。
「遮蔽物のある洞窟内では、あまり使い勝手は良くないか」
しかし、案外隠れているものの、周囲の岩や壁に反射した魔力から位置などを特定することも可能だった。これは錬金術『理解』の性能によるものだ。
脳内にマッピングされた像を見ながら、大コウモリや毒蜘蛛たちが、暗闇のあちこちに潜んでいるのが手に取るように分かった。
「見事に丸見えだな。……だが、今回は君たちにかまっている暇はない」
おじさんは左手にポリカ盾を構え、口元に犬笛をくわえた。
目盛りを合わせ、不快音を断続的に吹き鳴らしながら通路を進む。
『ピーーー……』
犬笛の音響波を浴びた第三層の魔獣たちは、一斉に蜘蛛の子を散らすように遠くの壁際へと逃げ惑っていく。魔力レーダーで丸見えだ。
戦闘はゼロ。
おじさんは一度も足を止めることなく、第三層のエリアを走破し、第四層へと続く冷たい階段へと滑り込んだ。
階段を降りきると、湿った冷気がウィンドブレーカーを包み込む。
第四層・鍾乳洞エリアだ。
おじさんは物陰に身を潜め、魔力レーダーのレンジを最大にした。
(さて……Gトードの反応は、どこだ?)
少し離れた水辺の淀みに、第三層の小動物たちよりも一回り大きい反応が一つ、静かに佇んでいるのが捉えられた。
距離、およそ40m。敵はおじさんの存在に全く気づいていない。
「よし、テストの相手としては申し分ないな」
おじさんは背中のエアーライフルを静かに構え、スコープ越しにその緑色の反応へと照準を合わせるのだった。
(つづく)




