第31話:秋葉原の光学機器と、射撃データの較正
2026年10月
お次は試射だ。
工房の奥へと続く直線通路は、誰にも邪魔されない全長20mの射撃実験場となる。
通販で購入した、16g、5.6MPaの炭酸カートリッジ。
1発で使い捨てなので、300個ほど購入し、地下工房に持ち込んだ。
(……やれやれ、怪しい業者だと思われて通報されないと良いのだが)
エアーライフルに異常がないか目視で確認する。
錬金術でガス遮蔽用のアルミ板を構築した。
次に、新品の炭酸ガスカートリッジをホルダーに取付ける。
ガス漏れの音は無し。
1度、弾丸なしで、空撃ちしてみる。
『シュー』
ものすごい勢いで、銃身から炭酸ガスが噴き出した。
特に問題なさそうである。
炭酸ガスカートリッジと交換する。
ボルトレバーを後ろに引いて装填口を開ける。
直径2.5cmの球体を後ろからコトリと放り込んだ。
レバーを前に押し込んで弾丸を固定した。
20m先の的に狙いをつける。
構えた手から魔力を流し、炭酸ガスの流路を塞ぐアルミ板を瞬時に昇華させた。
5.6MPaの炭酸ガスが一気に薬室に送られ、弾丸を押し出した。
『パスン、カン』
炭酸ガスの漏れる軽い破裂音。
それと共に、2.5cmの球が、目にも留まらぬ速度で、20m先の壁に命中した。
当たらないスリングショットの雪辱を果たすための改善案。
そうして試作したエアーライフルの試射である。
しかし、結果は惨憺たるものだった。
動作自体は問題ない。
が、銃身に設けた照星だけでは、標的が銃身そのものの影に隠れて視認できなくなる。
計算で分かってはいたが、20m先だと本当に15cmくらい弾丸が落ちる。
的にまったく当たらない。
射撃の素人が、50mや100m先にあるわずか30cmの動く標的を裸眼で捉えるなど、構造的に不可能なのだ。
(まあ、今回は20m先の動かない的なのだがな)
狙撃用ライフルにつきもののスコープが必要だ。
こちらも自作することを考えたが、おじさんはやめた。
現代地球に素晴らしいスコープが山と売っている。
それを購入すれば良い。
(……まあ、錬金術の修行の一環として、いずれ一から作っても良いがな。
均一なガラスを作り、レンズの球面収差や、色収差をイメージだけで制御するのは無理すぎる。
いや、錬金術なら意外とできるのか?
量産には向かないが、一品ものを分子レベルで仕上げるなら、なかなか良い手法だ)
今回は、現代地球の素晴らしい技術を使って解決する。
それが大人のやり方だ。
全部自分で作れば良いというわけではない。
自動罠のおかげで、税引き前なら1日72万円、月収ベースで2,000万円を超える予算が手元にある。
もはや資金をケチる必要などどこにもない。
*
翌日、おじさんはウキウキとした気分で、
横浜から電車を乗り継いで秋葉原の電気街へと向かう。
目的の場所は、サバイバルゲーム用の実銃対応の製品や、クレー射撃、狩猟用の光学機器を取り扱う専門店だ。
店員が怪訝な顔をするほどの生真面目な目で、おじさんは棚に並ぶスコープの説明書を熟読した。
倍率は可変式の3〜9倍、対物レンズ径は40mm。
電子式で照準線を光らせる類のものは、ダンジョン内で機能停止するため論外だ。
おじさんが選んだのは、歪みのないマルチコートレンズのガラス表面に、精密な距離測定用の目盛りが直接刻み込まれている、純機械式のプロ仕様スコープだった。
取付け用の固定部品と一緒に数万円の代金を支払った。
*
おじさんはその精密機器を大切に抱えて川崎ダンジョンの地下工房へと引き返した。
取付用のレールを銃に取り付ける。
もちろんねじ止めなんてことはない。
錬金術で銃の上側部分と一体化させた。
その後、マウントリングや固定ネジを使ってスコープを固定する。
取り外し可能な形で、スコープを固定することができた。
さあ、試射再開だ。
(……いや待て。
地下の密閉された空間で、ばんばん炭酸ガスを噴出させていたら、炭酸ガス中毒で私が死んでしまうではないか)
大雑把に、幅1m×高さ2m×長さ20mの通路の体積だと、16g、5.6MPaのカートリッジで以下のようになる。
・15個:炭酸ガスの濃度が安全基準である0.2%。軽いあくびが出始める。
・74個:濃度1.0%。呼吸が明らかに激しくなり、じわじわと頭痛や強烈な眠気が襲う。
・222個:濃度3.0%。激しい頭痛、めまい、吐き気、耳鳴りが発生。まともに歩くことすら困難になる。
・518個:濃度7.0%。数分以内に意識を失って昏睡し、そのまま窒息死する。
おじさんは換気用の空気穴を天井と足元にいくつか増設した。
これで安全対策は問題ない。はず。
その後は、地下の直線通路を使い、20mの距離で、ひたすら試射を繰り返した。
「5.6MPaの炭酸ガスに対し、196gの2.5cm球を撃ち出した場合、20mでスコープの目盛り3個分か」
重力による弾丸の落下量をノートに正確に記録する。
スコープ内に刻まれた目盛りとの照合数値を完全に割り出していく。
この細かな調整作業こそが、おじさんが最も得意とするところだ。
数日間の猛特訓を経て、脳内の弾道データとスコープの目盛りの修正が完了した。
さらに、射撃技術も少し向上した。
よし、確認と特訓は終わりだ。
おじさんはエアーライフルをなでなでして、ノートを閉じた。
次はこいつを使って、第2層の草原エリアへ出陣だ。
角うさぎとイノシシモドキ相手にどこまで通用するか。
初めての実戦へと移行するとしよう。
(つづく)




