第30話:地下工房の建設とエアーライフル作製
2026年10月
1日あたり1,200個。
自動罠が叩き出す圧倒的な収集量は、おじさんの貯金目減りに対する恐怖を完全に吹き飛ばした!
しかし、同時に別の問題が発生していた。
1,200個もの魔石と角は、還暦のおじさんがリュックサックに詰めて持ち運べる量を遥かに超えている。
必要なのは、ダンジョンの内部に誰にも見つからない安全な隠し場所――すなわち、拠点だった。
翌朝、川崎ダンジョンの第二層に入行したおじさんは、自動罠の回収用縦穴の底面から、さらに横へと掘り進める。
地下工房と倉庫を作ることにした。
また、地下工房、倉庫、自動罠を合わせて、”川崎ダンジョン拠点”と呼ぶことにした。
これまでの実験で判明した通り、形状を維持しない大雑把な土木工事は魔力の消費が少ない。
地下10mの回収用縦穴から20mほど通路を作る。
突き当たりの右側に、まずは3m四方の四角い空間を作った。
壁と天井、床のすべてをレベル3の結晶化した岩石へと変質させて物資の一時保管倉庫とした。
さらに、倉庫の反対側、突き当たりの左側にもうひとつの部屋を作った。
幅5m、奥行き5mのおじさんだけの地下工房だ。
一度では魔力が足りないため、『満タン、消費、枯渇、補給』を繰り返しながら、地道に通路と部屋を作った。
壁はレベル3の堅牢なものへ補強していった。
仕上げに、暗闇の通路と各部屋に明かりを灯す。
明かりは、第一層の洞窟に群生している光り苔を使った。
そのままでも、蛍のような光を薄っすらと放つが、魔石を近くに置くと光量が増すのだ。
電気が使えないダンジョン内の照明はこの光り苔が主流である。
あとは各部屋の酸欠防止用に、地上へ繋がる細い換気口をいくつかあけておいた。
(……地上側は小さな小動物の巣穴に見えるよう、偽装を徹底し、内部に侵入防止用の鉄格子も付けておいた)
これで、おじさんだけの地下拠点(工房と倉庫と自動罠)ができあがった。
*
工房ができあがったところで、かねてから考えていた、スリングショットの命中精度について解決することにした。
おじさんのスリングショットによる射撃は、散々だった。
そこで、もう少し狙って撃てそうな『銃』を作ってみることにした。
直径2.5cmの土団子を発射することのできる銃だ。
弾丸の重量が大きい。
本来であれば、散弾銃のスラッグ弾として使うのが良さそうであるが、近距離で戦うのはやはり怖い。
なるべく長距離から狙えるライフルが希望だ。
まず、弾丸を発射する方法は、圧縮空気一択だ。
火薬は使えないし、スプリングでは弱い。
強力なものを使えば、準備動作が大変だ。
その他の薬品の化学反応も狙い通りに起こるか不明だ。
最近では、バイクのタイヤに空気を充填するための炭酸ガスボンベが購入できる。
一番小さいもので、16g、5.6MPa程度だ。
価格は1本200〜300円くらい。これを使おう。
次に銃身をどんな材料で作るか?
手持ちは、純アルミと純鉄のみだ。
純アルミで作る場合の強度を計算すると、内径25mm、外形47mm、重さ3.4kgくらいか。
純鉄にしたら、外形34mm、重さ3.2kg。
そして、純鉄と純アルミ構造(内部に純鉄1.0mm、周囲に純アルミ5.0mm)にすると、外形37mm、重量2.0kg。
重量的には、純鉄と純アルミの二重構造か。
(……いや、待てよ。
私が錬金術で作る場合は、今のところ純鉄しか作れない。
だが、ホームセンターの鉄パイプなら炭素鋼ベースで強度が全然違うんじゃないか?)
内径25mm、肉厚1.6mmの鉄パイプベースだと、外側に純アルミを2.0mmほどつければ良さそうだ。
そうすると外形は32mmで、重量は1.3kgだ。
純鉄や、純アルミの半分以下に軽量化できるな。
やはり、錬金術で早く合金を作れるようにしたい。
次は、ライフリングだ。
これは例え炭素鋼でも密度24g/cm3の土団子を使ったら、数発で溝が無くなってしまうな。
硬すぎる。
手持ちの材料でこれ以上硬いものはないし……。
いや、あった。
手持ちの材料で、アルミを酸化して、アルミナ(酸化アルミニウム)にすれば耐摩耗性はクリアできる。
(……駄目だ。金属表面に皮膜を作っても、数回撃ったら膜が割れて、剥離してしまいそうだな)
そうすると、2.5cm土団子を弾丸として使う場合には、ライフリングなしだ。
有効射程は20〜30mとしても、15mで8cm、20mで15cmくらい弾丸が落下する計算だ。
大分使いにくいな。
散弾銃としてならば問題ない。
しかし、少々距離があるものを狙いたいライフルとしては、心もとない。
本当なら有効射程も100mは欲しい。
現状で2.5cm土団子を弾丸に使う場合のエアーライフルの基本仕様は以下の通りだ。
・撃ち出し方式:16g、5.6MPa炭酸ガスカートリッジ(市販品、1発毎に交換)
・弾丸:2.5cm土団子(24g/cm3、196g)
・銃身:市販の鉄パイプベース+純アルミ製(長さ1.0m、内径25mm、肉厚1.6mmの鉄パイプの外周に2.0mm純アルミ、ライフリングなし)
・機関部:強度不要の部分は純アルミ、強度が必要な部分は純鉄製(ボルトアクション方式、銃身後方から弾丸を1発ずつ込める)
・トリガー:相転移式(ガスを止めている2mmアルミ板を錬金術で瞬時に昇華する)
・ストック部:アルミ(枠のみのスケルトン仕様)
・その他:有効射程30〜50m、落下量15mで8cm、20mで15cm
仕様が決まったら、自宅のパソコンとCADで設計だ。
ネットで銃の構造を調べながら図面を起こしていく。
久々に、BB弾用エアーライフルを押し入れから引っ張り出し、分解してみた。
おもちゃだが結構参考になった。
部品1個1個を図面に起こし、近くのコンビニで紙に印刷した。
また、ホームセンターで鉄パイプを購入してきた。
内径25mm、肉厚1.6mm、どこにでもあるただの鉄パイプである。
一応、失敗を考えて5本ほど購入した。
*
川崎ダンジョンの地下工房で、白光に照らされた作業台に鉄パイプを置き、錬金術の理解を発動する。
次に、内壁を分子レベルで平滑に整えるイメージをしながらパイプに魔力を流し込んだ。
綺麗な真円の直管へと再構築した。
パイプ外周の表面を数μmレベルで粗しておく。
こうすることでアルミとの密着性が向上する。
アンカー効果というやつだ。
あらかじめダンジョンの土から抽出しておいた、純アルミをパイプの外側に被せてゆく。
鉄パイプ表面の凹凸にアルミがしっかり入り込むイメージだ。
これで、5.6MPaに十分耐えられる軽量銃身の出来上がりだ。
続いて、機関部だ。
機関部の外形。2.5cm球を入れる薬室。薬室を密閉するボルト。
カートリッジの接続部とトリガー板を介して、薬室までのガス道。
これらを図面を見ながら順次イメージして再構築していく。
錬金術の良いところは何度でもやり直しができるところだ。
都度錬金術の理解で確認し、多ければ分解で削り、少なければ再構築で付け足す。
こうして、図面通りの形に整えていく。
すべての部品を上手く整え、1丁のエアーライフルが完成した。
消費した魔力は角うさぎの魔石30個分程度。
現在の魔力総量から見れば、十分余裕だ。
作ろうとしたものが設計通りの形になると、うれしいものだ。
ニヤニヤが止まらない。
さて、お次は試射だ。
張り切っていこう。
(つづく)




