第22話:魔法発動編8 次はどうするか考え中
2026年10月
1ヶ月の限界突破特訓を経て、おじさんの魔力の最大容量は角うさぎの魔石169個分にまで到達した。
初期の55個分から比べれば、約3倍という大幅な底上げである。
現在では、50gの土を対象にした場合、一度に23個ほども土団子を作製できるだけの余力が生まれた計算になる。
自宅の机の上には、奇妙な真球の塊がゴロゴロと転がっていた。
これまでの実験での成果物は、最初に作った直径4.0cmのものが1個。
そして、この1ヶ月で量産した直径2.5cmのものが327個だ。
しかし、喜びも束の間、この超高密度に圧縮された土団子と同じレベルの品質で土壁を作ろうとすると、厳しい計算結果が出る。
幅1m、厚さ10cmに設定した場合、高さがわずか2mmほどにしかならないのだ。
これでは防壁どころか、ただの段差にもならない。
(……さて、次はどうするか)
おじさんはリビングのテーブルに広げたノートを前に、腕を組んで考え込んだ。
現状のままでは実用に耐えない。
この課題をクリアするためには、大きく分けて2つの方向性が考えられる。
1つ目は、魔力の消費量を減らすという方向性だ。
そもそも、なぜあんなに密度の詰まった土団子を作ってしまったのか。
それは、最初から最高品質を目指して、原子配列レベルでの干渉をイメージしてしまったからだ。
もし目的が落とし穴を作るだけであれば、土の成分の結晶状態を変化させる必要などどこにもない。
単に土の粒子を大雑把に移動させて、空間を空ければいいだけだ。
これなら、大幅に魔力消費量を削減できるのではないか。
敵の視界を遮るための土壁にしても同様である。
ただの土の壁を作るだけなら、あそこまでの超高密度は必要ない。
強度を上げるにしても、当面は角うさぎやイノシシモドキの突進を一度だけブロックできる程度で十分なはずだ。
実際に、強度を落とした内容でどの程度の魔力消費量で済むのか、まずは調べる必要がある。
また、2つ目は、自分の魔力量を増やすという方向性だ。
基本に戻って考えてみる。
魔法を発動するのに必要な要件として魔力は必須だが、それが自分の体内の魔力一択であるとは限らないのではないか。
もし体外にある魔力を使えるようになれば、ある意味で無制限に魔法を使える。
これもラノベにおける王道の理論だ。
では、体外のどこにそんな魔力があるのか。
一番確実なのは魔獣の魔石の中であり、これが現状の主たる魔力補給源であった。
他には、ダンジョンの中に魔力の溜まり場のような特異点があるのかもしれない。
だが、場所が不明な上に、そこへ行かなければ使えないのでは応用が利きづらすぎる。
そもそも、魔力とはどうやって作られているのだろうか。
魔石の中の魔力はどうやって蓄積されているのか、それは現状では不明だ。
ラノベの知識を借りるなら、生物の体内にある魔力生成炉が、環境中の魔素を吸い上げて魔力へと変換しているという設定が一般的だ。
ならば、その原材料たる魔素はどこにあるのか。
(……待てよ。魔素の在処か。私の思考が、一つの仮説に突き当たったぞ)
ラノベの設定において、魔素とはダンジョンを構成している基本物質そのものであることが多い。
これまでおじさんは、ダンジョン内の土や岩を、外の世界にある普通の土や岩と同じものとして分析しようとしていた。
だが、もしあの空間にあるすべての物質が、ダンジョン自身によって魔素から作られたものだとしたらどうだろう。
つまり、ダンジョン内の土や岩を最小の要素にまで分解すれば、それ自体が魔素に還元され、それを魔力に再構築できるのではないか。
(……もしこの仮説が正しければ、目の前にある地面そのものが、私の無限の燃料タンクということになるな)
おじさんはこめかみを指先で叩いた。
仮説を実証するためには、まず具体的な基準値が必要だ。
当然、魔力はあればあるほど良いが、当面の開発目標を定めよう。
直近の目標は、角うさぎやイノシシモドキを一度ブロックできる程度の土壁を、魔力満タンで20回生成できること、とする。
それと、もう一つ確かめておかなければならないことがあった。
手元にある、この327個の土団子の強度だ。
手に持った感覚では、ちょっとやそっとの衝撃では傷一つすらつかない。
粒子間の隙間が綺麗に無くなっているのだ。
理論上はただの土の塊ではなく、焼き物や超硬合金に近い硬度を持っているはずだ。
これを全力で投擲すれば、銃器の使えないダンジョン内において、かなりの威力を持つ物理弾頭になるのではないだろうか。
これも一度威力を確認してみる必要がある。
削減、調達、そして手元の資源の兵器転用。
(……やれやれ、会社を辞めて隠居生活を送っているはずなのだがな。なぜ私は、こんなに血気盛んな計画を立てているんだ)
持ち前の習慣からなのか、次々と湧き上がる課題を前に、おじさんはニヤニヤが止まらない。
内心には静かな高揚感が満ち満ちていた。
(つづく)




