第20話:魔法発動編6 魔力量を増加するには?
2026年9月
手に入れた能力が土魔法ではなく、物質の構造に干渉する『錬金術』であるという仮説を得た。
おじさんは、すぐさま次の実験へと移りたかった。
たまたま1発目で上手く真球を作れたものの、これが再現性のあるものなのかは不明だ。
発動の成功率や、成形されたものの精度、いわゆる品質の面も含めて、数をこなして確認を重ねる必要がある。
しかし、そこには大きな問題があった。
魔力が足りないのだ。
現在の最優先課題は、いかにして自身の魔力上限値を向上させるか、であった。
ラノベの知識をたどれば、幼少期に魔力を限界以上まで使い果たすことで、上限値を引き上げるという特訓がよく描かれていた。
だが、そもそも現代地球人である自分に魔力の上限値という概念が存在するのかすら分からない。
まずは、自分の肉体が受け入れられる魔力の限界値を見極める必要があった。
同時に、もっと効率の良い魔力の補給方法も模索しなければならない。
手元にはスライムの魔石と角うさぎの魔石、イノシシモドキの魔石が少々あり、今後も入手は可能だ。
もし将来的に、より深い階層で強大な魔獣を狩ることができれば、さらに巨大な魔力を持つ魔石が手に入るかもしれない。
しかし、前回確認した通り、魔獣の種類が変われば魔力の波長も変わる。
そうなれば、身体が拒絶反応を起こして簡単には取り込めないはずだ。
おじさんはノートを開き、これからの確認手順について3つの優先度を設定した。
・優先度1:とにかく適合している角うさぎの魔石を集めて手のひらから吸収し、自分の魔力上限が角うさぎの魔石何個分にあたるのかを調べる。
・優先度2:イノシシモドキやスライムなど、異なる波長の魔石から魔力を吸収できないかを調べる。
いや、今までの結果から、吸収自体は可能であろう。
ただし、口で舐めた時と同じように拒否反応が出るはずだ。
つまり、魔力の波長を変換する必要がある。
そのためには、基準が必要だ。
できれば数値化し、それができなくても色などに可視化して識別したい。
これこそ、本来の『錬金術』の領域ではないだろうか。
錬金術の『理解』を用いて魔力そのものを数値化、もしくは色として可視化し、その波長を理解する。
例えば波長が短くエネルギーが大きい魔力を青、波長が長くエネルギーが小さい魔力を赤、といった具合に識別するのだ。
その上で、錬金術の『分解』と『再構築』を用いればいい。
(……ふむ。異なる色を、私の身体に適した波長へと変換してしまえばいいわけか)
・優先度3:自分に適した魔力の波長そのものを、より高出力な、エネルギー密度の高い波長へと変換する。
まずは着手しやすい「優先度1」の確認から始めることにした。
おじさんは翌日から、鶴見ダンジョン、川崎ダンジョン、横浜第三ダンジョンの第二層にある草原エリアをローテーションし、角うさぎを狩れるだけ狩った。
当然、並行してイノシシモドキも確実に狩った。そちらは協会で口座振込に換金して毎月の生活費に充てる。
そうして集めた角うさぎの魔石を、草原エリア内の岩陰で、手のひらから次々と体内に吸収していった。
ひたすら魔力を充填していくと、ある一定のラインを超えたところで、急激な酩酊感と激しい目眩、そして吐き気がおじさんを襲った。
これもラノベの知識にある、許容量を超えた魔力を取り込んだことによる『魔力酔い』というやつだろう。
(……くっ、ここが私の身体という容器の満タンの合図か)
データを集計した結果、おじさんの現状の魔力上限量は、『角うさぎの魔石55個分』であることが判明した。
魔力酔いの症状が出たら、おじさんはすぐさま草原の地面にかがみ込み、足元の土を前回の4分の1である50gほど掴んだ。
そして、その土を対象にして錬金術を発動し、頭の中で組成を均一に整えながら、ぎゅっと土団子へと成形していく。
手のひらの中に、直径2.5cmほどの土団子ができあがった。
一度仕組みを理解してしまえば、2回目からは驚くほどスムーズであった。
体内の魔力が空っぽになるまで土団子を作り続け、限界を迎えてガス欠になったら、再び残りの角うさぎの魔石を握って急速に補給を行う。
満タン、消費、枯渇、そして再補給。
(……やれやれ、なかなかにハードな実験だな)
この過酷な作業を、おじさんは1人、黙々と繰り返した。
それから1ヶ月の間、おじさんはダンジョンに入行してはデータを蓄積し続けた。
魔力補給に必要な魔石の個数の推移、あるいは、1回の満タン状態で作成できた直径2.5cmの土団子の総数。
その数値を冷静にノートに記録しながら、おじさんは『狙い通り』に魔力総量が増えていく手応えを感じていた。
(つづく)




