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第18話:魔法発動編4 魔法? 使ったら大変だった

2026年9月


翌朝、目覚めは最悪だった。

割れるような頭痛と、胃の腑から込み上げてくる激しい吐き気。


あるいは、鉛でも詰め込まれたかのように身体が怠い。


現役時代、徹夜で分析装置に張り付いた翌朝ですら、ここまで酷い体調になった記憶はなかった。


(……これが、ネット小説などでよく言われる『魔力切れ』という現象だろうか)


もしおじさんの身体に、異世界の魔法使いのような魔力を自動で生成する器官ーーいわゆる魔力生成炉があれば、一晩眠れば今頃は元通りに回復していたのだろうか。


しかし、現代の地球人であるおじさんにそんな便利な器官は備わっていない。


おじさんは床を這うようにして、近くに転がっていたリュックサックを漁り、中にあった角うさぎの魔石を取り出すと、必死の思いで口に放り込んで舐め始めた。


だが、午前中の間ずっと魔石を舐め続けてみても、体調は一向に改善されなかった。


あのねっとりとしたものが微量ずつ粘膜から染み込んではくるものの、消費した量が多すぎる。


このままでは、身体が元に戻るまでに何日かかるか分かったものではない。


もっと効率よく、一度に大量の魔力を体内に取り入れる方法が必要だった。


とりあえず、口に含む魔石の数を2個に増やしてみた。


ほんの少しだけマシになったような気はしたが、今の私に必要な魔力量からすれば、この程度では焼け石に水だった。


「くそ、燃費が悪い上に補給手段まで貧弱とは、欠陥のある仕組みにも程があるぞ……」


おじさんはリビングの床にごろごろと横たわり、天井を見つめながら必死に思考を巡らせた。


何か打開策はないか。効率的な魔力の補給方法を考えるんだ。


そういえば、ラノベに登場する魔力吸収の定番能力として、『ドレイン』だの『ドレイン・タッチ』だのと呼ばれる手法があったな、と思い出す。


それらの設定における吸収は、本来なら波長の異なる他者の魔力を強引に奪って自分のものに変換するため、極めて高難易度な技術として位置づけされていることが多い。


しかし、今のおじさんはすでに、この2ヶ月間で角うさぎの魔力を身体に馴染ませてある。完全に適合している魔力なのだ。


ならば、『わざわざ口の粘膜から少しずつ吸収する必要などなく、手で直接握るだけでも吸収できるのではないか』という仮説が浮かんだ。


いや、待てよ。


もしその『魔力吸収』という行為自体が魔法の一種なのだとしたら、体内の魔力がほとんど底を突きかけている今の状態で試みるのは、致命的なリスクを伴うのではないか。


完全にガス欠になって、そのまま心臓でも止まったら目も当てられない。


床の上でしばらく悩んだが、このまま頭痛に耐え続けるのもしんどかった。

おじさんは一か八か、実験を試みることにした。


リュックサックから取り出した角うさぎの魔石を、右手のひらでぎゅっと強く握り締める。


まずは、手のひらの感覚を研ぎ澄ます。魔力を感じられるか?


(……あっ、感じる。分かるぞ)


目を閉じると、手のひらの皮膚を通じて、魔石の内側にあるあの『ねっとりとした質感』がはっきりと感知できた。


おじさんは、2ヶ月間繰り返してきたあの『魔力の体内循環』の流れを意識した。


そして、手のひらの魔石から直接、魔力を引き込むようにイメージし、引き込んだ魔力を体内循環の経路に載せていく。


(あ、なんか……できるな、これ)


『カチリ』、と感覚が噛み合った。


手のひらを通じて、魔石の内部に凝縮されていた『あのねっとりとしたもの』が、細い川のようになっておじさんの右腕へ流れ込んでくるのをはっきりと感じた。


驚いたことに、この吸収プロセスにおいて、おじさんの体内の魔力は一切消費されていなかった。


体内循環の流れに沿って、外の魔力を吸い上げているだけらしい。


これならガス欠による停止のリスクもない。

そのまま、10個ほど、魔石から魔力を直接吸収し続けた。


これまでおじさんが体内に補充してきた魔力の総量は、スライムの分と角うさぎの分を合わせて、ざっくりと角うさぎの魔石30個分といったところだ。


今回の吸収で、そのうちの30%ほどが回復した計算になる。


一応、体調が戻ってきたら、今度は猛烈な空腹感がおじさんを襲った。

お腹がグゥと大きな音を立てる。


まだ万全の回復とは言えないが、動くだけの力は湧いてきた。


考えてみれば、今朝から、いや、おそらく昨日の昼からまともなものは何も食べていない。


何か冷蔵庫にないかと思って立ち上がったが、ふと自分の姿が目に入った。


服はダンジョンに入った時の服装のままで埃っぽいし、もちろん風呂にも入っていない。

ひどい有り様だった。


とりあえず冷蔵庫を開けてみたが、大したものは入っていなかった。


すぐに食べられそうな食パンを1枚引っ張り出し、ブルーベリージャムを大雑把につけて口に放り込む。


それをパックの野菜ジュースで強引に胃袋へと流し込んだ。ひとまずの燃料補給だ。


「よし、まずはシャワーだな。それから近くのスーパーに買い出しへ行こう」


おじさんは薄汚れた服を脱ぎ捨てて浴室へと向かった。


熱いシャワーを浴びて、さっぱりとした着替えに身を包んだら、今日の晩飯の買い出しだ。


肉でも食べて、体力をつけなければならない。

そして、戻ってきたら、美味しいご飯を食べながら、じっくりと昨日の初魔法の成果『土団子』について確認するとしよう。


おじさんの知的好奇心は、すでに次の実験に向かっていた。

(つづく)



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