第17話:魔法発動編3 いざ本番へ
2026年9月
イメージは完成した。いよいよ本番の開始だ。
おじさんは第二層草原エリアの奥へと進み、あらかじめ目星をつけておいた、大きな岩の裏側へと身を隠した。
ここなら他の探索者から見られる心配はない。
まずは、深呼吸をして体内の魔力を確認する。
お腹の下に、あの『ねっとりとした質感の塊』をはっきりと感じる。
続いて、体内循環を確認する。
そのねっとりとした熱い魔力が、ゆっくりと、しかし確実に体内を巡っているのが分かった。
こちらは、普段から行っており、ほぼ意識しないでも常時できるようになっていた。
よし、魔力の体内循環にも問題はない。
おじさんは岩の影にかがみ込み、地面の土を片手でひとすくいした。
手のひらの上の土を、よく見る。
どんな色で、どんな形態で、どんな、どんな、どんなーー。
周囲のノイズをシャットアウトし、意識のすべてを手のひらの上の土へと集中させた。
あまりの緊張から、意図せず手のひらの先から、体内の魔力が外へと漏れ出す。
その瞬間、『カチリ』、と世界の歯車が噛み合うような感覚と共に、私の魔力が土へと一気に吸い上げられた。
直後、おじさんの頭の中に、津波のような勢いで『土の情報』がダイレクトにあふれ出してきた。
「っ……!?」
それは言葉ではなく、純粋なデータだった。
手のひらの上にある土の正確な成分、水分量、結合の構成、そして、全体の微細な構造。
そのすべてが、一瞬にして脳内で完璧に理解できてしまった。
(土の成分、構成、構造が……全部分かった)
あとは、このデータを元に、脳内で『ぎゅっ』と丸めて球状にするだけだ。
おじさんはぎゅっと目をつぶり、強烈な集中力で、イメージ、イメージ、イメージを重ねる。
再び、手のひらからごっそりと魔力が吸い取られる、奇妙な喪失感が走った。
ハッと目を覚ますように瞼を開ける。
おじさんの手のひらの上には、先ほどまでのバラバラだったはずの土が、まるで職人が丁寧に作ったかのような、完全な球形をした『土団子』へと変貌を遂げていた。
「はは……できた、のか……?」
声を出した瞬間、自分が頭から足の先まで、ぐっしょりと汗をかいていることに気がついた。
同時に、立っていられないほどの凄まじい虚脱感とふらつきが襲ってくる。
おじさんはその場にへたり込み、しばらくの間、何も考えられなくなってしまった。
生まれて初めて『魔法』を使えたという感動や喜びよりも、肉体を支配する凄まじい倦怠感の方が遥かに大きかった。
たった200gの土を丸めただけで、この2ヶ月間で必死に貯めてきた体内の魔力の、ほぼすべてを使い果たしてしまったような感覚だった。
魔力の消費効率が悪すぎる。
ーーその後、自分がどうやってダンジョンを出て、どうやってマンションの我が家まで帰ったのか、正直なところ全く記憶にない。
ただ、翌朝、眩しい朝日で目を覚ました時、おじさんはダンジョン探索時の服を着たまま、自宅のリビングの床に無様に転がっていたのだった。
(つづく)




