第15話:魔法発動編1 どれにする
2026年8月
角うさぎの魔石を口に含み、身体を角うさぎの魔力に慣れさせるということを続ける日々。
ある程度まで角うさぎの魔石の不快感に耐えられるようになってから、私は再度、実験のためにスライムの魔石を口に含んでみた。
結果は、ダメだった。
今度はスライムの魔力に対して、身体が激しい拒絶反応を起こしたのだ。
なるほど、そういうことか。
どうやらこの世界の人間の肉体は、同時に複数の魔力波長を受け入れることはできず、1種類の波長しか適合しない仕様になっているらしかった。
(うーむ。1種類の波長しか選べないとするとどの波長を選ぶべきか)
物理学の基本として、電磁波や光は『波長が短いほど、エネルギーが大きくなる』という法則がある。これに従うなら、より深い階層の強力な魔物ほどより波長の短い魔力を秘めていることになる。
ただし、光で言えば、波長が短すぎると物質に吸収されやすくなり、減衰して遠くまで届かないというデメリットもある。長距離を飛ばしたり、広範囲に干渉したりするなら、波長が長い方が有利だ。
このダンジョンにおける魔力の波長が物理的な波と同じ特性を持っているなら、これから先の魔法の射程や性質にも、この『波長の長さ』が大きく関わってくるかもしれないな。私は思考を巡らせた。
まあ、まずは現状の魔力補給手段を考えるのが先決だ。
最も数が多くて手に入りやすいのはスライムの魔石だが、適応を切り替えてしまった以上、今の私の身体のベースは角うさぎだ。
当面のメインの稼ぎ頭はイノシシモドキだが、角うさぎもダンジョン巡回のついでに適当に狩っていけば、確認に必要な魔石の数は十分に確保できるだろう。
*
次は、『果たして自分はどんな魔法を覚えるべきか』
いや、そもそも何をしたいのか。
さらに言えば、自分はどんな能力が『好き』なのかだ。もちろん、自分の第一希望が都合よく叶うとは限らない。
それでも、優先順位を明確にしておく必要がある。最終的には、すべての魔法を習得する方向で動くつもりではあるが。
私の第一希望は、やはり『錬金術(干渉系)』だ。
ラノベの定番だが、物質を見ただけでその構造を理解し、分解し、再構築できる能力は魅力的すぎる。何より応用範囲が圧倒的に広い。
ダンジョン内であろうと現代地球であろうと、そこら中に材料(原子・分子)はあるのだから、これ1つで何でも生み出せることになる。
ただし、物質の結合エネルギーや分子構造に直接干渉する以上、それなりに高度で難易度の高い高等魔法になるだろうという予測もついた。
とすると、堅実な第二希望は『土魔法』か。
地面に穴を掘ったり、逆に埋めたりして落とし穴のトラップを作ったり、土の壁を瞬時に作ることができれば、簡易的な住居の作製や、敵からの隠蔽・潜伏が可能になる。
応用すれば、地下を通って安全に移動することだってできるかもしれない。非常に実用的な魔法だ。
第三希望は、何と言っても『空間魔法』だろう。
家一軒分くらいの荷物を丸ごと見えない空間に収納できれば、これからの探索が劇的に楽になる。
ラノベのような完全な『時間停止』は高望みだとしても、外に比べて時間の経過が5分の1程度に遅くなる効果だけでもあれば、食料の保存や物資の運搬において素晴らしいアドバンテージになる。
よくよく考えてみれば、もし第一希望の『錬金術』が使えれば、その応用で分子を操作して土魔法のようなこともできるだろうし、空間の構造に干渉すればインベントリーすら自作できるかもしれない。そう考えると『錬金術一択』なのだが……。
色々と悩んだ末、私は、最も難易度が低そうで、かつ発動した際の結果が物理的に分かりやすい『土魔法』の習得から励むことにした。
基礎研究は、常に難易度の低い確実性のあることから始めるのが鉄則だ。
「……いや、待てよ?」
ふと、私は自宅のリビングで一人、苦笑した。
まだ魔法の『ま』の字も発現していないというのに、私はなぜか、最初から『できる前提』で計画を立てていた。
(さすがおじさん、図々しいにも程があるな、と内心自分に呆れる。)
だが、長年染み付いたメンタリティとしてはこれでいいのだ。
目標を決める。不具合や、問題が発生したら、改善すればいい。失敗したら、成功するまでPDCAサイクルを回し続けるだけのことだ。
そこに年齢による衰えも、諦める理由も存在しなかった。
(つづく)




