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第10話:チンピラ来襲(前半)

第10話:チンピラ来襲(前半)

2026年7月


魔石を飴玉のように舐めて魔力に身体を慣らす修行と、第二層での戦闘訓練を始めてから2週間ほどが経った頃。


事の始まりは、あの『スライム10000体討伐』の日に、鶴見ダンジョンの第一層でグラビアアイドルの佐藤遥をまいて川崎ダンジョンへと移動した。


あの些細な行動に端を発していた。


結論から言えば、彼女は自力でダンジョンから地上に出ることができず、丸2日間も第一層を彷徨っていたらしい。


協会の管理システムに記録されている入行データに対し、いつまでも出行の記録がないことを不審に思った職員が、捜索隊を組んで第一層へ探しに行き、ようやく発見されたとのことだった。


救出された時の彼女は、結構ひどい状況だったらしい。おじさんは直接見ていないので知らんけど。


装備はボロボロ、服は汚物まみれで、おまけにネットの生半可な知識でスライムをトンカチで叩こうとしたせいで、飛び散ったスライムの酸をお肌や顔に浴びてしまい、見るも無残な状態だったそうだ。


この一連の顛末は、いつものようにイノシシモドキの魔石を換金しに協会の窓口へ行った際、顔なじみの女性職員からこっそり教えてもらった。


だが、話はそれだけで終わらなかった。


「……で、その佐藤さんが、早坂さまにダンジョン内で置き去りにされたって、協会に嘘の被害届を出したんですよ」


職員の女性は呆れたようにため息をついた。

逆恨みもいいところだ。


元より彼女とパーティを組んだ覚えなどないし、勝手についてきて自爆しただけではないか。


当然、協会側も馬鹿ではない。

調査は極めて客観的かつロジカルに行われた。


まず、当日の入行時間に私と彼女とでは明確な差があった。

そもそも一緒に行動を開始していない。


さらに窓口の女性職員が「早坂さまは佐藤さんのことを快く思っておらず、一緒に同行するような関係ではない」と正確に証言してくれた。


決定打は協会の監視カメラだった。

おじさんが一人で足早にダンジョンへ入っていく姿と、その後ろを慌てて追いかけていく佐藤遥の姿が、バッチリと映像に残っていたのだ。


結果としておじだんの無実は完全に証明された。

そもそも、正式に協会でパーティ契約を結んでいない以上、ソロの探索者が中でどうなろうが全て自己責任。


それがこの世界の絶対のルールだ。


しかし、自分の主張が協会に通らなかったことに腹を立てた彼女は、最悪の暴挙に出た。


自分の顔やキャリアが台無しになった怒りの矛先をおじだんに向けた。


協会にいる若手の血気盛んなパーティに色仕掛けか何かで声をかけ、おじさんを襲うように唆したのだ。


それは、おじさんが換金を終えて協会のロビーを歩いている時だった。


まだ昼前で、ロビーには大勢の探索者たちがたむろしていた。


その衆人環視の真っ只中で、ドカドカと足音を荒らげておじさんに近づいてくる三人組の男たちがいた。


「おい、てめえが『スライムおじさん』か?」


絵に描いたようなチンピラ探索者だった。手にはダンジョン用の武器を携え、見るからに凄んでいる。


その後ろの物陰からは、顔に包帯を巻いた佐藤遥が、憎悪に満ちた目で私を睨みつけているのが見えた。


大勢の探索者や協会職員が見ている協会のロビー。まさかこんなところで、だまされたチンピラに襲撃されるとは、夢にも思っていなかった。


(つづく)

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