確執のわけ
これは、昨日の一幕の続きから始まる。
『それより、本当に彼女には気を付けてください。でないと厳史朗様にまで迷惑が掛かる事になりますよ?』
『何故気を付ける必要があるんだ?それに厳史朗さんに迷惑が掛かるって……一体どういう事なんだよ?』
そして旭は厳史朗さんと佐々木の父親との確執について話し始める。
『これは秋好様がこちらへ来る半年程前の話になります。
当時、厳史朗様と佐々木未来の父親である明史氏はとても仲が良く、いくつもの事業を共同で経営していました。
そのうちの一つに貿易関係のものがあったのですが、半年前、その事業を拡大させようという計画が挙がりました。
その計画は互いの合意と協力で順調に進んだ。
ですがいざ拡大させると決まった時、とある問題が発生しました。
そのとある事とは予算の問題です。
額は国家予算並み……その予算はどう捻り出すか?
それについての議論は問題が露見した時点で開始されました。
互いに半分ずつ出す。
利益を多く得る事になる厳史朗様が多く出す。
明史氏がメインで行っている事業だから明史氏が多く出す――沢山の意見が今挙げた順に出ました。
その最後である明史氏が多く出すという意見になった時、事件は起こりました。
いきなり明史氏が体調を崩して救急車で運ばれたのです。
原因はすぐに判明しました。
明史氏はパニック障害持ちだったのです。
それから明史氏は暫く入院する事になったのですが、それを知った厳史朗様は自分のせいで明史氏が体調を崩したのだと思い、とてもショックを受けました。
そしてその罪滅ぼしとして厳史朗様は、予算は自身が全額出す事にした……
ですがそれがいけなかったようです。
後にその事を知った明史氏はとても激怒しました。
何故なら予算を全額出したのは厳史朗様なのだから……
つまり利益は全て厳史朗様のものになると思ったのです。
そして激昂した明史氏はとある行動に出た。
なんと厳史朗様の伴侶である奥様に手を出そうとしたのです。
方法は他人に依頼して奥様を凌辱させるというもの。
幸い、それは未遂に終わったものの、それが原因で厳史朗様と明史氏は決別する。
その制裁として厳史朗様に事業を縮小させられた……
ご主人様、佐々木未来はその明史氏の娘です。
きっと彼女も厳史朗様に恨みを持っている。
だから気を付けて欲しいのです……』
というのが旭から聞いた事の全てである。
俺はそれを聞いた後、それでもデートへ行きたいと言った。
そして今に至る。
はぁー、と長いため息を吐く。
――ほんと、どうすれば良いのやら。確執は取り除きたいがどうやってそうすれば良いのかが分からない。それに佐々木が俺を貶めようとしているのかも分からない。本当に困った……でもやっぱりどうにかしたいよなぁ……
そんな事を考えていると――
「あっ、もう料理が来てる!って、深刻そうな顔をしてどうしたんですか?」
佐々木が戻って来た。
彼女は不思議そうに俺の顔を覗き見る。
「別に何でもないよ」
言いながら右にそっぽを向く。
「それよりとっとと食べるぞ。でないと飯が冷めてしまう」
「それもそうですね!」
そう言って俺の正面に座る佐々木。
それから俺達は談笑しながら昼食に取りかかるのであった。
そんな中、俺が複雑な心境でいたのは言うまでもない。
「それで、今度はどこへ行くんだ?」
ファミレスを出てすぐに俺は訊ねる。
「遊園地です!」
佐々木は即答し、俺の右隣に立つと、それが当然であるかのようにまた手を繋いだ。
「おい、また――」
またかよ、と言おうとしたが、先程同様佐々木の手が汗ばみ、震えている事に気付き言うのを止める。
佐々木の手を握る。
すると佐々木は驚いたかのように目を見開いた。
けれどすぐに満面の笑みを浮かべる。
「じゃ、行こっか!」
で――
遊園地に到着すると何故か佐々木の顔パスで中に入れた。
その事を怪訝に思いつつも俺は佐々木がやりたいと言ったアトラクション、ジェットコースターに乗る。
ゆっくりと頂点へと進むジェットコースター。
標高が高くなるにつれて俺の鼓動は早鐘を打ち、緊張と恐怖で大量の冷や汗が出る。
頂点まで残り三メートル、二メートル、一メートル、そして――
「……ぅ……うわあああああ!!」
次のアトラクションはホラーハウス。
ここのホラーハウスは日本一恐ろしいらしく、ひっきりなしに屋敷から悲鳴が聞こてくる。
そのせいだろう。
先程のジェットコースターとは違う意味で緊張と恐怖に襲われ始めた。
次の組みが行けば今度は俺達の番だ。
そう思うと自然と唾を飲み込み、手汗をシャツで拭う。
そんな俺を見て佐々木は意地悪な笑みを浮かべる。
「もしかしてビビってます?」
「び、ビビってねえし!寧ろ楽しみにしてるっての!」
「えー?そうなんですかー?」
「そうだよ!」
「そっかそっかぁー。一応言っておきますけど、怖ければいつでも抱き付いて良いですからね!あっ、押し倒しても良いですよ?」
――しねぇよアホ!
大声で突っ込みを入れようとしたが、回りの客に迷惑が掛かりそうだと思い、寸でのところで止める。
するとすぐにスタッフからお呼びが掛かった。
どうやらついに俺達の番が来たようだ。
「じゃあ行きましょうか!」
「あ、あぁ!いい、行こう!」
佐々木と手を繋いで中へ入る。
それから後の事は覚えていない。
気付けば俺は疲労感から項垂れながらベンチに腰掛けていた。
それからコーヒーカップ、メリーゴーランド、再びジェットコースター、ゴーカートと色々回り、気付けば夕方に。
さすがに疲れたのでラストとして観覧車へ乗る事にした。
まあ、それは別に構わない。
カップルなら乗るだろうからな。
でも一つだけ許容出来ない事がある。
それは対面して座るのではなく、並んで座っている事だ。
俺が右側で佐々木がその反対だ。
でもって俺の左肩に佐々木が頭を預ける形となっている。
「何故にこの座りなんだ?」
「カップルだもん!これぐらい普通ですよ!」
――だもんじゃねえよ。可愛いとでも思っているのか?いや、まあ、佐々木自体可愛いけど。でもその口調はさすがに無いと思うのだが……
「もしかして隣に座ったから怒ってます?」
「いんや、別に」
――ただ口調にイラッとしただけだ。それ以外は寧ろラッキーだと思っている、とは言わないでおいた方が良さそうだな。
「そうですか……じゃあ膝枕してもらっても良いですか?」
そう訊ねた佐々木にジト目を向ける。
「今度こそ怒りました……?」
「怒ってはいない。けれど膝枕をするのは普通女性の方だろ、と突っ込みを入れたくはなった」
「確かに!」
愉快そうにキャハッ!と笑う佐々木。
とても爽やかそうだが、すぐに憂いの表情を浮かべた。
そして何故か目に涙を溜める――




