8 現状把握
「けが人の状況を教えてください。」
クレリックのヒートがポールに声をかける。
「魔物に食べられそうになったって・・・。」
「どこかを食いちぎられたのですか?」
「切り傷とかないです。上半身、特に顔や頭が消化液で溶けてる言ってました。」
「けが人は小さい子供ですか?」
「ドワーフです。大人の。」
ドワーフは確かに上背はないが、大半が屈強な体つきをしているはずだ。それが食われて消化されかけたらしい。どういう状況なのか。
「魔物はスライムでしょうか?」
「父様はヴルムだと言ってました。」
ヴルム?あの地中に住んでいる細長い虫のことか?確かに排泄物から死体にいたるまで何でも食べると聞いたが、大きさは長くても足の裏で踏みつけられる程度のはず。それがドワーフの頭を呑みこんで消化するなど聞いたことがない。
「ここです。」
ポールに促されて家の中に入ると、屈強なドワーフがベッドに寝ていた。頭部の皮膚がほとんどなく、一部に骨が見えている。
「顔の筋肉を動かすと激痛があるようで、話をするのはかなり苦痛なようです。」
「話は治癒魔法の後で聞きましょう。」
「ハンスを助けてください。お願いします。」
フレイが今にも泣きそうな表情で懇願する。
「今できる事は全部やりましょう。」
ヒートが表情を崩すことなく答え、詠唱を始めた。
*****
「とりあえず状況を教えてくれ。異変はいつからなんだ?」
アルバスの部屋に入るとバイストンがせっかちに話を始める。
ヴァンも一緒に部屋に入り、壁際に立って話を聞く。
「バイストンちょっと待て。挨拶くらいさせろ。」
ワンダが一度話を切り、場を落ち着かせるようにパーティメンバーを紹介する。即席メンバーだがバランスは悪くない。エルフやハーフリングのイメージがあるスカウトをドワーフがするのはちょっと意外。完全にパワー系のイメージだ。一方で鍛冶などで物を作り、細工や装飾もこなす。器用なので罠外しなどはできるだろうし、罠の細工自体ドワーフが作っていたと聞いたこともある。マッチポンプというやつか。
「領主のアルバスだ。男爵と言ってもこんな辺境の貧乏貴族だから、あまり堅苦しく考えないでくれ。」
「では遠慮なくそうさせてもらおう。」
「私は念話を使えます。緊急事態とのことで追加の応援要請は、いつでもお申し付けください。」
「ありがたい。ダンジョンでかなり予想外のことが起きている。まずは調査をしてからお願いしたい。」
アルバスは朝からの出来事を順を追って話した。
ー魔物がダンジョンから大量に出て来たこと。
ー調べにダンジョンへ行ったら、入り口の周囲に魔物の残骸と思われる骨などが大量にあったこと。
ー残骸の数からして、1匹や2匹の仕業ではないと思われること。
ー喰らった魔物は大きなヴルムで、ホーンラットが実際に丸のみされていたこと。
ーその個体よりさらに巨大なヴルムにハンスが襲われ、気が付いたら上半身が丸のみされていたこと。
ー丸のみされたハンスをなんとか救出して逃げ帰ったこと。
一通り説明を終えた後で、クレリックのヒートがポールに案内されて入ってきた。
「ハンスさんですが、命に別状はありません。ただ、あれだけの損傷なので今の治療魔法では傷跡が残りますし、髪の毛も生えません。さらに一部機能障害か、動かしたときの痛みが残るかと。全てを治すには、早めに大きな教会で高司祭の上級神聖魔法を受ける必要があります。」
「それで兄貴は今どうしてる?」
「治療の魔法の際に眠らせてそのままです。時機に目を覚ますでしょう。」
「動けるのか?」
「普通の生活には支障ないと思います。戦闘は本人しだいですね。動いたときに痛みはあると思います。」
「そうか、今は眠らせておこう。」
アルバスから聞いた話をワンダがヒートに簡単に共有する。
「やはりヴルムですか。本来は芋虫のようなものですよね。」
「ヴルムが魔物化することは以前聞いたことがある。だが、これほどの大きさになるのは初耳だ。」
「まるで伝説の魔物フェレライですね。あれは5mくらいあるようですが。」
「暴食の魔物か・・・。勘弁してほしいもんだ。」
獣人のワンダが首筋の毛を逆立てて首を振った。
「では、これからの事を話しましょう。」
アルバスが本題に戻す。
「まず周辺とダンジョンの調査をしよう。新しい情報もだけど詳細な確認も必要だ。」
「先ほどは調べてからとのことでしたが、一報を入れて応援の準備だけでもしてもらったほうが良いかと。」
ツバイは今の時点でかなりヤバいと思ってるようだ。
「そうだな、とても嫌な予感がする。ツバイは先にギルドと情報を共有してくれ。連絡があるかもしれないからそのまま待機。バイストンとヒートは俺と一緒に軽く周辺の探索を。」
「私も同行しよう。ハンスが襲われた場所は注意が必要だしな。」
「ありがとうござます。」
「では、戦闘はなるべくせず、調査と確認を第一に。」
アルバスと冒険者が立ち上がる。
「僕たちになにかできる事はありますか?」
壁際にヴァンと並んで話を聞いていたポールが突然割り込む。
「息子のポールとヴァンです。」
アルバスが紹介する。
「よろしくお願いします。」
「俺達は外にでる。集落周辺に異変が無いか、家の中から外を見張っててくれ。無理はしなくていいから。」
「何か異変があったらツバイに知らせて。念話に返事はできないが知らせを受けることはできる。」
気休めだと言いながら、ツバイが外に出る4人に身体強化の魔法を掛ける。
「後は頼んだぞ。」
「皆様に御武運を。」
*****
「馬で来たのではないのか。」
「馬は早いですが、魔物が多い場所では怯えてしまうことあります。ツバイの身体強化魔法で走ってきました。」
確かに力がみなぎっていて体が軽く感じる。鍛えられた身体なら通常より相当な速度が出そうだ。
「アルバス様は馬に乗ってください。視点の高さが好都合なこともあるので。」
「承知した。速度を合わせて後ろから付いて行こう。」
とは言ったものの、結構な速度で走るため馬で付いて行くのも難しい。馬同士ならリーダーの乗る前方の馬に合わせて一定の距離を保つ訓練などもしているが、単体で速度の微調整とかはあまりしたことがない。前方の人間に合わせる訓練もしていない。止まる、歩く、駆け足、全速力程度しか馬を制御できないのだ。
「周囲に異変があれば教えてください。」
馬を御しながら周辺の警戒は結構難しい。苦労しながら進んでいると最初の残骸があった。
「止まってくれ。右手側の茂みの奥に残骸がある。まだヴルムがいるかもしれないので警戒は十分に。」
アルバスは馬に跨ったまま警戒を続け、バイストンは周辺を調べる。
残る2人が確認のために残骸に近寄った。
「これがヴルムの食べたあとですか。捕食は基本的に生命の輪廻にある行動なので、アンデッドにはなる心配はありません。」
ヒートが残骸を調べながら、クレリックらしい報告をする。
「本当に骨だけだな。獲物はトードか。」
リーダーのワンダは頭蓋骨と思われる骨を剣で転がして確認した。
「骨が砕かれていないだろう。爪や牙でつけられる目立つ傷もない。」
アルバスが残骸の特徴を指摘する。
「確かに。そして肉など柔らかい部位の食べ残しもない。丸のみされた以外考えられないな。」
「ヴルムに骨はないから捕食時にある程度伸びはするだろう。それでもトードを丸のみとは・・・」
「普段と捕食関係が逆ですね。通常はトードがヴルムを食べているはず。」
「ハンスを半身丸のみにしたサイズが居るんだ。トードなんて呑まれても不思議はない。」
「居たぞ!多分こいつだ!」
警戒のため、周辺を調べていたバイストンが弓を構えて叫ぶ。
バイストンが睨むその先には、ホーンラットの頭以外をほぼ飲み込んだヴルムが居た。頭の大きさはトードより一回り大きい。しかし、長さという点ではヴルムよりホーンラットのほうが長いはずだ。
「一飲みにできないから、消化しながら少しづつ飲み込んでいるのか。」
「ハンスも上半身だけだった。口に入れば食う。そしてそういう食い方をするんだろう。」
「なんか変だ。」
弓を構えてヴルムを観察していたバイストンが異変に気付いた。
「こいつ、デカくなってないか?」




