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9 フェレライ

 目の前でヴルムがホーンラッドを頭から飲み込んでいる。それを観察、いや、目が離せず茫然と見ていた。


「最初見た時より、一回りデカくなってるような。」

「飲み込んだ部分が太くなってるのでは?」


 バイストンの呟きにヒートが確認する。


「いや、太さじゃねぇ。最初にこいつを見つけた時、長さがホーンラッドの半分くらいしかなかったんだ。この大きさでこれ食うのかって思ったからな。」

「ホーンラットのまだ見えてる頭の大きさから想像すると、今はホーンラットの体長より少し小さいくらいか?」

「間違いない。この短時間で目に見えてデカくなってやがる。」


 ホーンラットが全て飲み込まれる寸前で、ワンダがヴルムに剣を突き立てた。ヴルムの動きが止まったことを確認して再度周辺を探索する。


「ここがハンスが襲われた場所のはずだが・・・。」

「どうしたんです?」

「倒したヴルムの死体がない。」

「まさか生き返って動いたとでも?」

「それはないと思うが・・・。まさか食われたのか」

「そのまさかの様だ。」


 ワンダが指差す先に数体のヴルムがいた。大きさは赤ん坊の腕の太さくらいでまだ小さい。


「共食いしてるのか?」


 たぶん最も小さい個体を少し大きい個体が尻尾から。その尻尾をさらに大きい個体がのみこみ始めていた。


「生死問わずだな。食えるものはなんでも喰うらしい。」


 一番大きかった個体が、あっという間に前の2匹を呑みこむ。すると急にまた一回り大きくなる。


「気味が悪いぜ。」


 バイストンがヴルムを切り割いた。


「どうやら何かを食っているときは安全なようだ。手足もないし、途中で食うのをやめることもないだろう。」

「ただ、食うために襲ってくる。食ってない時は安易に近づくな。ハンスも急に襲われた。木の上なども注意を怠るな。」

「そのうえこいつらは成長がやたら早い。話で聞いていた食われた魔物の数からして、ハンスを呑みこんだ大きさのが、少なくとも数体は居るかもしれない。」

「こいつは応援を呼んだほうがいいと思う。1つ2つ倒しても、死体を処理しないとただの新しい餌だ。」

「一度戻ろう。」


 集落のほうへ引き返す。バイストンが先ほどのホーンラッド丸のみのヴルムを倒した場所に、なんだか妙な盛り上がりがあるのを見つけた。


「あれはなんだ?」


 バイストンが不思議そうに近づくと小さい何かが蠢いていた。


「さっき殺したヴルムの死体を喰ってやがる。」


 大人の人差し指の長さほどのヴルムが、死体に群がっている。


「殺しても結局は新たな餌だ。キリがない。」

「ツバイを連れてくるんだった。これはもう燃やすしかない。」

「火魔法なら俺も使えるぞ。火力は無いがな。」


 バイストンが周辺から小枝や乾いた枯葉を集めて、群がるヴルムの上にかぶせた。


「んじゃ、お願いします。」


 アルバスが魔法で火をつけると最初はくすぶる程度だったが、ヴルムに火が移ると派手に燃え上がった。


「うぉっと、こんなに勢いよく燃えるとは。」


 火をつけて見守っていたアルバスが驚いて飛び退く。


「ヴルムは油がすごいですね。これは退治する際に使えるかもです。」

「最後まで見届けたいが、応援も急いだほうがいい。」

「俺が残るか?」

「いくらバイストンでも一人は危険だ。火をつけたここのヴルムが全滅したとしても、地域全体に対処しないと意味がない。火が燃え移るのは防ぎたいが、幸い路上だし近くには燃え移るようなものない。みんなでいったん戻ろう。」


 全員で集落へ戻ることにした。


*****


「以上が、現在の状況です。今調査をしているので、何か分かり次第また連絡します。」


 調査が出発してすぐ、ツバイが念話で王城への現状報告をした。とりあえず、隣のローテの町の冒険者ギルドから3パーティが18人招集される予定で、パーティごとに準備ができ次第出発するらしい。


「今は待ちましょう。応援も調査の結果もですね。」

「今のところ、この周辺に異変はないです。魔物も居ません。」

「警戒は解かずに。窓はいつでも閉じられるようにしながらで。」


 ツバイが窓際に立って窓の外を見る。


「お聞きしたいことがあるのですが。」


 別の窓で外を見張りながら、ツバイに話しかける。


「なんでしょうか。」

「さっき、みなさんのお話に出ていた暴食の魔物ってなんですか?」

「フェレライのこと?」

「そうです、そのフェレライ。」

「僕も知りたい!」


 別の部屋の窓で見張っていたポールが駆け込んで来た。話は聞いていたらしい。


「神話に出てくる魔物ですね。教会の教義の内容なので、ヒートが詳しいですよ。」

「ツバイさんが知っていることいいです。」


 ツバイは少し考えこんでから話し出す。


「神が認めた三つの過ちというお話です。」


 この世界では神も過ちを認めるのか。そういえば、前世の日本の神話にも子作りの手順を間違えてって話もあったな。


「簡単に言うとですね・・・。神様がこの世界を作った時に必要と思って作った3つの理(ことわり)のせいで、良くないことが起きてしまった。というものです。」

「神様も間違うのですね。」

「通常は問題ないのですが、理に従ってのみ動くため、結果、やりすぎて破滅するのです。自分が破滅するだけなら良いのですが、周りも巻き込んでしまう。世界を終わらせる三つの過ちです。」


 前世で物語、ラノベやアニメで題材とされていた7つの大罪みたいなものか。あれは死に至るだったからより大きな罪だ。


「その三つの理とはなんですか?」

「確かね・・・。こんなだったと思う。」


 ー生あるもの、食さねばならぬ。

 ー生あるもの、愛さねばならぬ。

 ー生あるもの、休まねばならぬ。


「で、本来神様が作ったのって、実は生あるものの6つの理なんだよね。そのうちさっきの3つが過ち。」


 ー生あるもの、死さねばならぬ。

 ー生あるもの、繋がねばならぬ。

 ー生あるもの、変わらねばならぬ。


「世界を作るうえで必要となったものを後からつけ足したせいで、最初の方は理が適用されていないものもあるって話。それが愛することも休むこともせず、死ぬまでひたすら食して繋げてを繰り返すだけの魔物フェレライだね。」

「変わるっていうのは、理をつけ足したらそれに従うってことかな?」

「そうだね。けど、フェレライはその理を持ってない。変わることもないから、ずっと食べ続けるだけなんだ。」


 フェレライにしたら作られた通りに生を全うしてるだけなんだよね。少し哀れに思う。


「それじゃ理の細かい順番や、詳細については後でヒートか教会で聞いてね。」


 ツバイに礼を言って、窓の外に目を向けながら理について考える。

 7つの大罪って確か暴食、愛欲、怠惰、嫉妬、強欲、憤怒、傲慢。3つの過ちとは言っても、7つのうちいくつかまとめられただけかな。愛に溺れ、そして執着を生む。執着は持てる者への嫉妬となり、持たざる者がすべてを欲す強欲になる。憤怒と傲慢以外は網羅されてるなぁ。憤怒は人間以外にもありそうだけど、傲慢な動物なんて人間以外居ないかも。最も傲慢なのは神様かもね。不謹慎だけど。


 世界の成り立ちなんて何処でも一緒なんだ。もしかして、神様共通の世界創造マニュアルとかあって、改善して改定されてないからとかだったら笑える。


「兄様、にやついてどうしたんですか?」

「なんでもないよ。不謹慎だったね。ごめん。」


 ポールにちょっと怪訝な顔をされた。


「そうだツバイさん、もう一つ聞きたいことがあったんだ。」

「いいよ。私で答えられることなら。」

「魔法ってどうやって覚えるんですか?」

「認知の儀は?」

「まだです。ポールが8歳になったら一緒にって言われています。」

「認知の儀で魔法の制限解除されたらできるかもよ。もちろん素質次第だけど。」

「制限解除ってなに?」

「人は多かれ少なかれ魔力を持ってるんだ。生まれた時からね。」

「え、僕も?」


 ポールが目を輝かせる。


「必ずとは言わないし、多い少ないもある。それでもほとんどはそうだね。持ってる。」

「でも、魔法を試してもできません。父様の真似をしたりしたけど・・・。」

「そりゃそうです。さっきも言ったけど、制限解除しないと魔力があっても魔法はできないですよ。」

「いつ制限されたんです?」

「生誕の儀は知ってるかな?」


 僕達は頷く。


「生まれたばかりの赤ちゃんでも、すでに強い魔力を持っていることがある。だけど小さい子供のうちは、自制というか、魔力を制御できないよね。それで暴発することがあるんだ。ずっと泣き続ける子供とか、魔力が変に練られたりするみたい。何度か事故があって、生誕の儀の時に制限を掛けるようになったんだって。」

「癇癪起こした子供が手あたり次第、近くの者を掴んで投げつけるとかそんな感じかな。」

「ハリーがそんな感じだったね。」


 ポールもなんとなく納得したらしい。


「制限解除は認知の儀ですか。てことは・・・僕とポールが魔法使えるようになるのは同時になるの?」

「認知の儀を一緒にやるならそうですね。」


 これはちょっと良い情報だ。先に魔法を覚えると、ポールのできる事との差をつける必要がある。出来すぎると期待されるし、出来ないとなんで出来ないとか言われる可能性がある。スタートラインが同じならポールが出来たことを後から追いかければ良いよね。追い越さず、けど遅れすぎずだ。

 最近は好奇心旺盛で、何かと僕に先んじようとするポールだし。できないならそれで仕方ない。あまり遅れをとらない程度にやれることを増やせば良い。


「認知の儀が楽しみだね。」


 ポールがニコッと笑いかけて来た。


お読みいただきありがとうございます。

ブックマークしてくれる方が居ました。感謝感激です。

評価も付いたようです。

拙い文章ですが、もう少し続けようと思います。

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