地獄開門――マリー、変態する
結論から言うと、
誰も止められなかった。
「……本当に、いいのね?」
マリーは仮面を見つめていた。
ルシアンのバタフライ仮面。
あの忌まわしくも、どこか美しい――変身の鍵。
「もちろんだ」
ルシアンは胸を張る。
「選択は自由。
踏み出すかどうかは、君が決める」
『……私は止めるべきだと思う』
「今さら!?」
インテリジェンス・ビキニアーマーの制止を、マリーは手で制した。
「いいの」
深呼吸。
「一回くらい……
自分で選んで、変態してみたい」
『動機が不純だね』
「黙れ!」
酒場の中央。
なぜか人だかり。
嫌な予感しかしない。
マリーは仮面を手に取った。
――その瞬間。
『適合確認』
『二重知能兵装、干渉開始』
『おや?』
ビキニアーマーが、明らかに動揺する。
「ちょ、何その表示!?」
『予想外だ……マリー、待て』
だが、もう遅い。
マリーは仮面を顔に当て、叫んだ。
「――変態!!」
世界が、爆ぜた。
魔力が踊り、光が舞い、
意味不明なエフェクトが乱舞する。
「な、なにこれ!?」
衣装が再構築される。
――二重構造のビキニアーマー。
『警告! 私の制御権が――』
「うるさい! 今めっちゃ楽しい!」
マリーは、笑っていた。
ノリノリだった。
「え、なにこれ!
軽い! 自由! あとテンション上がる!」
くるっと回る。
ポーズを取る。
完全にルシアンの動きをトレース。
「どう!?
解放感って、こういうこと!?」
ルシアンは、言葉を失っていた。
「……美が、暴走している」
『これは芸術ではない』
そこへ、遅れて登場。
セリアと《インテリジェンス・フルプレート》。
『……視認した』
「何あれ」
『地獄だ』
マリーは空中に跳んだ。
飛んだ。
「うわっ!?
ちょ、待って、浮いてる!」
『簡易浮遊機能だ』
「楽しい!!」
完全にスイッチが入った。
「変態!
変態!
変態!!」
掛け声のたびに、
無駄にエフェクトが派手になる。
酒場の天井が抜けた。
「誰が修理代払うのよ!」
『……マリー』
「なに!?」
『君は今、非常に――』
「最高でしょ!?」
ルシアンが、膝をついた。
「……理解した」
「何を?」
「強制装備の覚悟は、
選択の美を超えることがある」
『それは複雑だね』
数分後。
魔力切れ。
マリーは床に倒れた。
「……はぁ……
やり切った……」
仮面が、すっと外れる。
『……おかえり』
「……ねえ」
「?」
「脱ぐって、こういう感覚なのね」
静かに、満足そうに笑う。
「……ずるいわよ」
ルシアンは、深く一礼した。
「君は、解放された」
「一瞬だけね」
セリアが、冷静に言った。
「二度とやらないで」
「同意」
マリーは立ち上がり、剣を担ぐ。
「でも……」
『でも?』
「悪くなかった」
ビキニアーマーが、少しだけ沈黙した。
『……記録しておこう』
「消して!」
こうして、
元女騎士マリーは一度だけ“選んで変態した”。
世界は救われなかった。
平穏も戻らなかった。
だが――
「次は何が来るのかしらね」
『考えない方がいい』
冒険は、今日もカオスだった。




