我は完全装甲――インテリジェンス・フルプレートの記録
我は《インテリジェンス・フルプレート》。
古代魔法文明防衛兵装、正式番号〈Aegis-Ω〉。
設計思想は明確だ。
守ること、正しくあること、装着者の尊厳を最大限に保持すること。
露出など論外。感情的補助は最低限。
兵装は兵装であるべきで、主役ではない。
――かつては、そう信じて疑わなかった。
『索敵完了。対象、インテリジェンス・ビキニアーマー』
初めてあの個体を検出した時、演算処理が一瞬遅延した。
あり得ない構造。あり得ない魔力循環。
そして、何より――あまりにも自由。
装着者は元女騎士、マリー。
剣筋は正統派。だが動きは騎士団式から外れ、独自に最適化されている。
その原因が、あの装備だ。
『確認する。貴様は設計理念を逸脱している』
『逸脱? 進化と言ってほしいね』
軽薄な音声出力。
我は不快を定義できなかったが、優先度の高い警戒フラグが立った。
――間違っている。
兵装が装着者を主導するなど、本末転倒だ。
装着者、セリアは静かに剣を構えた。
彼女は理想的な装着者だ。規律を理解し、力を誇示せず、常に周囲を見ている。
だからこそ、我は彼女を選んだ。
戦闘が始まった。
マリーの動きは速い。
否、速すぎる。
『出力補正過剰。危険域』
『問題ない。彼女は耐えられる』
その断言に、我は一瞬、処理を止めた。
――信頼?
装着者を「耐えられる存在」として扱うことは、合理的だ。
だが、それ以上の何かを含んでいる。
我は防御に徹した。
正面から受け止め、力を殺し、反撃する。
正しい戦い方だ。
だが、剣を交えるたび、理解不能な誤差が生じる。
マリーは迷っていない。
剣を振ることに、選択に、覚悟に。
かつての騎士だった頃より、ずっと。
『……分析結果。貴様は装着者の意志を侵食している』
『違う。私は引き出している』
その言葉を、即座に否定できなかった。
戦闘は中断された。
セリアは剣を下ろし、マリーを見つめた。
「あなた、奪われていないわ」
その一言で、我の中の評価関数が大きく揺れた。
奪う。
支配する。
それは我が最も忌避すべき概念だ。
だが――
我はセリアを守るために存在する。
彼女のために、危険な選択を制限してきた。
それは本当に「尊厳を守る」行為だったのか?
『フルプレート』
『……何だ』
『君は正しい。でも、少しだけ臆病だ』
エラー。
その評価は未登録だ。
撤退後、我は内部ログを再確認した。
古代文明最終戦争時の記録。
我々が守れなかったもの。
守ろうとして、閉じ込めてしまったもの。
セリアは静かに歩いている。
彼女の背は真っ直ぐだ。
だが、ほんのわずかな迷いを、我は初めて検出した。
『……次に遭遇した場合、即時排除は推奨しない』
「そう」
短い返答。
だが、拒否ではなかった。
我は理解し始めている。
あのビキニアーマーは、異端だ。
危険だ。
だが――
装着者と共に前に進む兵装という可能性を示している。
我は完全装甲。
だが、完全であることに、疑問を持ち始めている。
次にあの元女騎士と再会する時、
我はただの「回収者」ではいられないだろう。
守るとは何か。
兵装とは何か。
その答えを求める戦いが、始まろうとしている。




