ライバル参上!――インテリジェンス・フルプレートの矜持
事件は、マリーが王都近郊の廃街で依頼をこなしていた最中に起きた。
「……嫌な予感がする」
『奇遇だね、マリー。私の古代演算装置も同じ結論を出している』
「そういう時は大体、ろくなことにならないのよ」
魔力反応が濃密すぎる。まるで遺跡ダンジョンの最深部クラスだ。
廃街の中央広場。崩れた噴水の前に、一人の女冒険者が立っていた。
長い銀髪。冷たい瞳。
そして――
「……あれ、どう見てもフルプレートよね」
全身を覆う、漆黒の重装甲。だが不思議と威圧感よりも「完成度」が先に来る。
それは騎士装備の理想形とも言える、美しく無駄のない鎧だった。
『確認。あの装備……同系統の知能兵装だ』
「つまり?」
『私のライバルだ』
「よりによって装備同士で張り合うな!」
次の瞬間、黒鎧の女が口を開いた。
「……そこにいるのね。暴走個体」
『失敬な。私は安定稼働している』
「装着者の尊厳を犠牲にして?」
「ちょっと!?」
黒鎧の女はマリーを一瞥し、淡々と名乗った。
「私はセリア。元王国騎士。
そしてこの鎧は《インテリジェンス・フルプレート》。古代文明の正統防衛兵装よ」
『正統(笑)』
「笑うところではない」
空気が一気に張り詰める。
「目的は何?」
「回収よ。危険な遺物は管理されるべき。
特に……その露出狂装備は」
『おい』
「誰が露出狂よ!」
フルプレートが低く唸るような声を発した。
『戦闘想定。敵性知能兵装、排除推奨』
『おやおや、ずいぶん短絡的だね』
「……マリー、構えなさい」
「もう構えてる!」
剣と剣がぶつかる。
重装同士の激突――と思いきや、マリーの動きは軽快そのものだった。
『筋出力補正120%! 回避!』
一方、セリアの一撃は重い。
だが、無駄がない。受け止めるたび、骨に響く。
「……いい動きね。ビキニアーマーの割には」
「褒めてるの? けなしてるの?」
『防御力は私の勝ちだ』
『機動力は私だね』
装備同士が、まるで口喧嘩を始める。
「黙りなさい、フルプレート」
『君こそ冷却回路が古い』
「何ですって?」
その隙を突き、マリーは剣を突き出す。
だが――止まった。
「……止めた?」
「ええ。ここまで」
セリアは剣を下ろした。
「あなた、嫌々着ているわけじゃないのね」
「……まあ、最初は最悪だったけど」
『今はそこそこ満足している』
「余計なこと言うな!」
セリアは小さく笑った。
「ならいい。
だけど覚えておきなさい。私たちはいずれ、もっと大きな遺物と向き合う」
『同意する』
「次は敵としてじゃないかもしれないわ」
黒鎧は踵を返し、廃街の影に溶けていった。
「……行った?」
『データ収集完了。実に有意義だった』
「何がよ」
『ライバルがいる方が、物語は盛り上がる』
「ラノベみたいなこと言わないで」
マリーは剣を肩に担ぎ、ため息をついた。
「でも……悪くないかもね」
『うん。次は勝とう』
「いや、勝ち負けの問題じゃ――」
こうして、
露出過多の知能兵装と正統派フルプレート、
二つの古代遺物が動き始める。
マリーの冒険は、
よりやかましく、より厄介に――そして少しだけ、楽しくなっていくのだった。




