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残響のプレリュード  作者: erg
番外編

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80/82

番外編3-3

「せっかく集まったんだから、ちょっと遊んで行こ」


 モモの一声で、流れは自然に決まった。


「モモたちの用事はいいのか?」


 拓海が少し不思議そうに聞く。


「特に用事は無くて、街ブラだよ」


 結月はあっさり言う。


(用事もないのに、街に出る……?)


 拓海には、その感覚がいまひとつ分からない。

 目的がなければ、出かけない。必要がなければ、動かない。

 でも、三人はそれを当たり前のように受け入れている。

 ゲームセンターに入ると、太鼓の達人の前で拓海が足を止めた。


「……これ、久しぶりだな」


 バチを持つと、迷いがない。画面が流れ、リズムが走り、手首が跳ねる。

 コンボは切れない。力まない。

 音楽に乗る、というより、音楽を“制御している”。


「……すご」


 ルナがいない分、結月は遠慮なく見入っていた。

 モモは、どこか懐かしそうに笑う。


(やっぱり、この人、音から逃げられないんだ)


 演奏が終わると、周りの見知らぬ客が軽く拍手した。

 拓海は、少し照れたように頭をかく。


「まあ、昔やってたから」


 その直後。


「ねぇ、結月ちゃん」


 のぞみの声。

 さっきと同じ呼び方。

 同じ導入。

 結月は、自然に振り向いた。


「なあに?」


 のぞみは、拓海を一度だけ見る。

 太鼓から離れて、少し所在なさげに立っている兄。

 それから、結月に向き直る。


「おにいちゃんのこと、お願いね」


 声に、冗談はない。

 からかいもない。

 真っ直ぐで、逃げ場のない言い方。

 結月は、一瞬だけ言葉に詰まる。


(……あ)


 これは、確認じゃない。

 忠告でもない。

 ――託されている。

 結月は、ゆっくりとうなずいた。


「……うん」


 それだけ。

 でも、腹の奥が静かに固まる感覚があった。


「大丈夫だよ」


 付け足すように言うと、のぞみは、ようやく少しだけ安心した顔をした。


「なら、いい」


 拓海は、二人のやり取りを横目で見ていたが、やっぱり意味は分からない。


「なに?」


「別にー」


 のぞみは、そっぽを向く。

 モモは、全部分かっている顔で、小さく息を吐いた。


(……この人、もう、守られる側じゃないんだ)


 結月は、拓海の横に並ぶ。

 肩が触れそうな距離。

 拓海は、無意識にもう一歩だけ近づいた。

 それを、のぞみはちゃんと見ていた。

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