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第2部 第16項
静まり返ったSTAR DROPで、 ミツキはひとり、グラスを傾けていた。
ステージは暗い。 アンプの余韻も、歓声も、もう残っていない。
――それでいい。 伝説は、終わるどころか、 新たな伝説が始まった。
10年前。 たった一度きりのライブ。
そして、10年の空白。
衰えるどころか、 音は、深みを増していた。
伝説でしか知らなかった連中は、 目の前のそれを、掴めただろうか。
今のハルトゲシュタインですら、 出せない音。
技術でも、勢いでもない。
積み重ねた時間と、失ったものが作る、 圧倒的な存在感。
ミツキは、誰もいないカウンター越しに、 グラスを掲げた。
そこには、もういない誰かへ。
「……悪くなかったぞ」
氷が、静かに鳴った。




