第2部 間奏曲 第13.5項
小学校のオーディション以来、感情を大きく揺らすことはほとんどなかった。
前に出ないこと。
支えること。
正確にリズムを刻むこと。
それを自分に課した時、大きな感情は邪魔になった。
ルナがSTAR DROPに姿を見せなくなってからしばらく。
ある日、軽音同好会の備品について結月から相談を受け、南駅で待ち合わせた。
風で乱れた髪を手櫛で直している姿。
――指先が髪をすくい上げる、その何気ない仕草。
そして、
彼女がただ寄り添ってくれていることに気が付いた。
――心のヒビが痛まないことに、気が付いた。
「結月......」
両腕が勝手に前に出る。
「あ、拓海君!」
ハッとして、腕をひっこめた。
いまさら気が付いた。
結月は学校以外の場所では、いつも君付けか呼び捨てだ。
彼女の目があまりに眩しい。
おもわず目を逸らす。
「? なにか変かな?」
自分の服がおかしいと思ったのか、恰好を気にする。
そんな様子を見ながら......
「……行こう」
なぜだか声が低い。
結月は気づく。変なのはおれだ。
「なんか変だよ?」
自分がどうふるまっているのかわからない。
なんとなく早足になってしまう。
「待って下さい! なにかありました?」
SOUND DOCKには、部活帰りなのか制服姿のモモがいて、
ニヤッ
とこちらを見た。
「なんかね、拓海君の様子がおかしいの。モモは何か知ってる?」
「たぶん、自覚したんだと思うよ」
「なにを?」
モモは一拍、思案顔のあと、
「ふふ~ん、あとは拓海から聞くんだね」
結月にウインク。サッと踵を返し入口へ向かう。
「おいモモ!」
おれの呼びかけを無視して、モモは楽器店から出て行った。
ドアベルが、やけに軽やかに鳴った。




